P7 精神論に殺されそう
12月15日
悪い予感は大当たりだった。
「自信を持て! 自信がない者の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらない。
行くぞ――黒い聖母の巣まで突撃!」
そう勇ましく叫んだ指揮官殿。
数秒後には、大型魔物を大量に引き連れて逃げ帰ってきた。
懸念していた通り、待ち伏せされていたのだ。
……お疲れ様でーす。
危なかった。
砦周りに罠型魔法陣を張りまくっておいて、心底よかった。
最悪の事態は回避されたが、被害は出た。
忌々しいことに夜間勤務をさせられている。
でも、昼夜問わずの連勤は回避できている。
治療前に、患者を区分けする手法。
今回、初めてやってみたが、予想以上に有用だ。
1)判断に迷わない
重症、中等症、軽症。もう手の施しようがない者。
分類しておくと、迷いが消える。次に何をするか考えなくていい。
疲れているときはその判断すら疲れるのだと、今日気づいた。
2)神力を適切に配分できる
誰にどれだけ魔法を使うか。
全体が見えているので、ムダ打ちせずに済む。
軽傷者は、道具と指示を与え、救護班以外に任せられるのもメリット。
3)眠れる
これが一番重要。
患者が散らばっていると、少しの異変で走り回るハメになる。
重傷者をまとめておけば、見張りを一人立てて、何かあった時だけ呼んでもらえばいい。
救護班もきちんと睡眠がとれる。
眠らないと、効率が落ちる。
判断力が鈍るし、手元が狂って助かる命を落とす。
4)デメリット
周囲からの評判が悪い。
なにせ他の班は、休まず走り回っているので。
「他の班を見習って、もっと気合を入れて治療したらどうだ!」
工夫して休めるしたようにしたのに怒鳴られる理不尽。
指揮官に、それぞれの班の死亡者割合を読み上げてやった。
一番ひどい現場を担当した私の班が、一番低い。
「指揮官殿は指揮に集中してください」と言い返しておいた。ざまあ。
ラナは、さすが同期。途中から、黙って私のやり方をマネし始めた。
今日は寝られているようだ。
経験の浅い後輩たちはどうしようもない。
こちらもこのやり方を指導するほどの余裕はないし、手出しすれば共倒れだ。
休むことと、優先順位をつけるように助言はしたけど……
変わらず、大声で痛がる患者から処置している班もある。もう知らん。
それにしても今回の指揮官、本当にクソだ。
例年より損害が少ないからと調子に乗り、とんでもないことを言い出した。
「このまま黒い聖母を倒すぞ!」
お ま え さ っ き 何 し た っ け ?
人の忠告無視して突撃し、部下の命を危険にさらしただけだろうが!
「大きな仕事と取り組め! 小さな仕事は己を小さくする」だと?
知らんがな。大事なことだから二度いう。知らんがな。
失敗してなお現実を見ないこいつは、いったいどこの世界に生きているのだろう?
いくら指揮官がヤル気でも、黒い聖母を倒せるかどうかは聖女次第。
闇属性の黒い聖母にトドメを刺せるのは、光属性の私たちだけだ。
黒い聖母の討伐には、死に際の呪い対策で事前準備と装備がいる。
今回はそれがないから無理、と一蹴しておいた。
バカにつける薬が欲しい。
……と思うくらいは、聖女としてセーフだよね?




