P6 現実不在の指揮官
12月15日
戦線は順調に前進中。
今回の討伐、敵の数が少ないので、ケガ人もほとんどいない。
いいこと……なんだけど、なんか変だ。嫌な感じ。
まず、
① 想定より敵が少なすぎる
② 魔物があまり襲いかかってこず、奥へ奥へと逃げていく
指揮官は「戦とは先手先手と仕掛けていくもので、受け身でやるものではない!」と、どんどん奥に進んで行くけど……
これ、おびき寄せられてないか?
調子に乗って奥まで追えば、魔物がわんさか待ち構えているパターンでは?
ケガ人の話も気になる。
今日治療した隊の証言。
「小型の魔物を討伐していたら、横から大型の魔物に不意打ちされた」
小型を囮にして大型で奇襲してきたのでは……?
指揮官は「頭は常に全回転、八方に気を配って、一部の隙もあってはならぬ! 戦とはそのようなものだ!」と兵を叱咤するばかり。
それとなく可能性を示唆してみたけど「聖女殿は治療に専念を」でシャットアウトされた。
黒い聖母は、平均3年で魔力が尽きて討伐される。
1年目:小型を大量生産
2年目:数が減り、種類が増える
3年目:さらに数が減り、一体一体が大型化・精鋭化
通常の黒い聖母ならここで終わり。
産み分け能力を得た段階で力尽きる。
けど、今回の黒い聖母は特別なようで、これで5度目。
小型も大型も混在しているということは、まだ生み出す余力があるということ。
なら、次の進化は思考面では?
どう戦えば効率がいいか、戦術を考えはじめたのでは?
ラナに相談したが「知性があるなんて聞いたことがない」とのこと。
……そう。私も聞いたことはない。
黒い聖母自体の討伐に同行したことがある。
大きな産卵袋に女性の上半身がくっついた、女王蟻のような化け物だった。
うつろに笑っていて、知性は感じられなかった。
でも、知性ある個体がいないとは限らない。
とりあえず、油断はしないでおこう。
※
最近、回復薬のラベルに一言メッセージを書くのが流行っているらしい。
発端はルーリエ。
ラナはメッセージの代わりにラベルにリップの痕をつけていた。
お気に入りのマッチョさんに渡すんだとか。
……変なトラブルが起きなきゃいいけど。
私もエルドになにか書いて、と頼まれたので、
『使用期限1年。異味・異臭・変色のある場合は使用不可』
と、最重要項目だけ書いたら、口をへの字に曲げられた。
なんで。大事でしょ。




