036.真実は宙の中
「え、ちょ、待って、その話kwsk」
「いやいやマコくん、動揺のあまり発音おかしくなってるから(笑)」
「いや『(笑)』じゃねぇだろおおお!?」
今まで縁もゆかりもなく、ほぼほぼ他人同然で、繋がりといえば漣伯父の娘というだけでしかなかった蒼月と陽紅。そのふたりが、というかその母親であるシルヴィが父宙の知り合いだった。
それも、父はシルヴィが子供の頃から知っているという。
真人は双子から、シルヴィが亡くなった時の年齢を35歳と聞いていた。ということはシルヴィが双子を産んだのは25歳の時のことで、彼女たちは漣伯父の子供なんだから、少なくとも漣伯父はシルヴィと10年以上交流してたということになる。
え、ということは待って?父もそうなんじゃないのか!?
「ていうか!父さん漣伯父さんと連絡取ってたのかよ!?」
シルヴィの件もそうだが、15年以上前に出奔して親族の誰とも音信不通になっていた漣伯父と、父が裏で繋がっていたことにも驚くほかない。今までそんなこと、父も母も一言も言わなかったのに。
「連絡?漣兄さんが縁を切ってたのは父さんと嶺兄さんと雅だけだよ?」
「マジで!?祖母ちゃんは!?」
「もちろん消息ぐらいは知ってたはずだけど?」
漣は結婚の承諾を得ようとして父親、つまり真人の祖父に話を持ってきて、その父と兄の嶺に猛反対されて出奔したのだと真人は聞いていた。とはいえそれは真人がまだ6歳ぐらいの時の話なので、真人自身はよく憶えていないが。ちゃんと話を聞いたのももっと後になってからのはずだ。
当時はよく遊んでくれた伯父さんと会えなくなって寂しかった事だけ憶えている。連絡を取ってたのなら、教えてくれても良かったのに。
「ていうか、漣伯父さんが結婚したいって言った人とシルヴィさんて別人だって聞いたけど!?」
「あ、その人はシルヴィのお姉さん」
「お姉さん!?」
「結婚してフランスの本家の後を継ぐって話で、それで日本からフランスに移住するって話を頭の固い父さんと兄さんが頭ごなしに反対しちゃったんだよね〜。それで結婚できないなら仕方ない、ってお姉さんフランスに帰っちゃったんだよ」
「いやアッサリ過ぎない!?」
「今はフランスで結婚して、向こうのご両親と仲良く暮らしてるよ。ちなみに僕の仕事先の上司だね」
「そっちも繋がってんの!?」
「ちなみに僕向こうではご近所さんで、シルヴィとお姉さんのご両親のお世話もやってるよ」
「そっちとも繋がってんの!?」
「あんまり人に言えない仕事だから、必然的に親族だけで固まっちゃうんだよね〜」
「なんの仕事してんだよ!?」
もしかして犯罪とかそっち系なの!?やましい事してないよね!?
「別にやましい事はないよ〜。ほら、守秘義務ってやつ?」
「家族にも言えねえのかよ!?」
「警察とか学校の先生とかでもそういうのあるじゃん。それと一緒だよ」
確かにそう言われれば一応の筋は通っている。なかなか日本に帰ってこないことにも説明はつく。
真人はひとまず話を飲み込んで、前のめりになっていた上体を起こす。我知らず硬くなっていた身体が脱力してソファに沈みこんだ。
「…………はぁ。それで?そういうの母さんも知ってたんだ?」
「うん、知ってたね」
「ならなんで、俺に教えてくれなかったんだよ」
「だって日本には漣兄さんがいたからね。周囲に話す必要がなかったから真理ちゃんも知ってたのは簡単な経緯くらいで詳しいことは教えてないし、それは本家から離れてたシルヴィも同じ。当然、シルヴィの子供たちにもほとんど教えてないから、マコくんにだって言わないよ」
つまり、こういうことだ。
親族にさえ明かせないような守秘義務の厳しい仕事をシルヴィのフランスの本家が持っていて、シルヴィの姉はその仕事をしている。シルヴィを通してか、その姉を通してかは分からないが漣伯父も父もその仕事に関わっていて、だから漣伯父は結婚の報告の際にもそれを言えず、詳しく説明できないまま認めろと言われた祖父と嶺伯父は認めなかった、と。
いやそりゃ認めるわけないよなあ。犀川の家だって地元じゃそれなりに歴史ある旧家だし、祖父ちゃんも嶺伯父も昔気質で頭の固いとこあるからなあ。
それで、フランスに帰ったお姉さんの代わりに漣伯父が日本に残ってシルヴィさんの面倒を見て、そうこうしているうちに事実婚状態になった、と。
「うん、ちょっと待とうか」
「なに?どしたのマコくん」
「父さんはさ、漣伯父さんとシルヴィさんが沖之島に住んでたこと知ってたんだよな?」
「うん」
「日本にいた頃から頻繁に外泊してたのは?」
「……まあもう言っちゃうけど、シルヴィのとこにもよく泊まってたよ」
「俺が小学生の時、2年ぐらい別居してたよな?」
ここで初めて、宙が押し黙った。それまでヘラヘラ浮かべていた笑みもスッと消えて真顔になる。
「その2年間……………どこに住んでたんだよ?」
「うん、まあ、色々あちこちを」
「沖之島だよな?」
「沖之島にも住んでたね」
「シルヴィさんのとこ、だよな?」
「……………………」
宙は答えなかった。代わりに目が泳いでいた。
いや否定してくれよそこは!!
「…………あの双子と面識あるよな?」
「なんで?あるわけないじゃないか」
「蒼月が言ってたんだよ。漣伯父さんが家にいたのは5歳から9歳までだった、って。じゃあ5歳までは?誰が同居してたのかなあ?」
とうとう宙が顔を歪めた。
「…………本当、君ヘンなとこで察しがいいよね。全く、勘のいい子はキライだよ」
「勘がいいのは母さん譲りだわ。文句なら母さんに言ってくれ」
「そうなんだよねえ。最初はシルヴィたちのことも話すつもりなかったのに、ちょっとしたことで勘付かれてさあ」
なるほど、母さんは自分から巻き込まれに行ったクチかあ。
「…………なあ。まさかとは思うけど、あの双子って」
「法律上の父娘関係なのは漣兄さんのほうだよ」
「いや認知がなかったって聞いてるぞ?」
「そりゃそうでしょ、ブランシャール家と関わってるって事自体秘密にしてるんだから。そうじゃなくて、内縁関係と認められるのは漣兄さんだけだって言ってるんだけど」
「俺は事実関係を確認してるの」
少なくともシルヴィが中学生の頃から漣伯父も父もずっと関係を持っていて、頻繁に泊まりにも行っていて。そして双子には物心ついてから5歳くらいまで漣と同居していた記憶がない。となると、彼女たちの本当の父親が漣なのか宙なのかが分からない。
遺伝子検査などで調べるのはほぼ無意味だ。だって漣と宙は間違いなく兄弟なのだから、どちらが親でも判定内容からは判別できないはずだ。だが法律的にはどちらが本当の親なのかで結果が全く違ってくる。
「ほら、世の中には知らなくていいことってものもあるじゃないか」
「知らなくちゃいけねえから確認してるんだろうがよ!」
だが結局、それ以上いくら追求しても宙は口を割らなかった。
シルヴィと漣が、そして真理さえも亡くなっている今となっては、もはや真実を知っているのは宙だけだ。そしてその宙は、その秘密をどうやら墓場まで持って行くつもりのようだった。
おおっと、いきなり不穏な!
これはまさかの異母兄妹恋愛になってしまうのか!?
…………ってとこでホントにストック尽きました(汗)。頑張って書くけど、更新できなかったらゴメンしてー(>人<)




