第5章:お兄様VS王子・戦場へ(青い宝石編)
夜会当日、セリーナがドレスを持ち私の部屋へとやってくる。
ドレスはお兄様が選んだのだろう……彼と同じ髪色をした深い青色のドレス。
その色に熱を帯びた彼の瞳が頭を過ると、頬の熱が高まっていくのがわかった。
(僕は誰よりも君を愛しているから)
あぁどうしよう……。
夜会のパートナーはお兄様にお願いしてある。
即ち夜会へ赴けば必然的にお兄様と会う事になるわ。
亡国の王女の事が頭がいっぱいだった……。
告白の返事をちゃんとしないと……。
改めて自分の胸に手を当てると、何とも言えない想いが渦巻いていく。
もちろんお兄様の事は好き。
誰よりも傍に居て、誰よりも大事な人。
いつも甘やかしてくれるお兄様。
いつも優しい笑みをみせてくれるお兄様。
時には厳しい事もあるけれど……でもそれも全て私の為だった。
そんなお兄様が大好きだわ。
だけどこの気持ちは家族としてのもの。
お兄様が言っていた好きとは別物だわ。
この私の気持ちを正直に伝えないと……。
でも伝えれば……お兄様と私の関係は変わってしまうのかしら……。
今までのように傍へは居られなくなってしまうのかしら……。
大好きなお兄様の姿が頭を過ると、胸が締め付けられるように苦しくなる。
聞かなかった事に出来れば……ッッ
「どうされましたお嬢様?」
その声にハッと顔を上げると、セリーナが心配そうに私を覗き込んでいた。
「いえ、何もないわ。ごめんなさい、着替えをすすめてくれる」
「はぁ……また良からぬ事を、企んでいるのではないですわよね?」
セリーナは探るように視線を向けると、私は苦笑いを浮かべて見せた。
そんな私の様子に、彼女はまた深く息を吐き出すと、コルセットを強く締め上げる。
お腹が圧迫され息苦しさを感じる中、私は小さくうめき声をもらした。
良からぬことを企んでいない、とは言えないわね。
今日は夜会で、亡国の王女を救出する。
そこで彼女を話しを聞いて判断するわ。
彼女が危険だと感じれば……かわいそうだけれど、お兄様へ報告するしかないわね。
でもエイブレムと私だけでは無事に救出できるかわからない。
アランとアドルフにも協力してもらいましょう。
「セリーナ、着替えが終わったらアランとアドルフを呼んで来てもらえる?」
「……畏まりましたわ」
セリーナはどこか悲し気に瞳を揺らすと、静かに礼をとった。
そうして夜会の準備が整うと、私は部屋で一人鏡の前に佇んでいた。
短くなった赤髪を器用にまとめ、金色の髪飾りが輝いている。
ドレスは青いマーメイドドレス、胸元が大きく開き体のラインがはっきりと映った。
淡いピンクの紅に、髪色と同じ赤い宝石が耳元で光る。
胸元に青いネックレスを輝かせ、私はそっと扇子を広げた。
こうした夜会へ参加するなんて久しぶりね。
いつも面倒でお兄様にまかせっきりだったもの。
夜会なんてものに参加するぐらいなら、領地を管理し、豊かにする方が有意義だわ。
そんな事を考えていると、トントントンとノックの音が部屋に響く。
どうぞ、と声をかけると、アランとアドルフがやってきた。
「お嬢様、何か御用でしょうか?」
二人の姿に私はソファーへと案内すると、向かいに座るように指示を出す。
「えぇ、夜会が始まる前に、二人に協力してもらいたい事あるの」
「お嬢、また変な事に首を突っ込んでいるのか?」
アドフルは呆れた様子を浮かべると、あからさまに深く息を吐き出した。
「まぁまぁ、聞いてちょうだい。先にこれを見てくれるかしら」
私は二人の前に屋敷の図面を広げると、黒く塗りつぶされた場所を指さした。
「ここにとある女性が捕らえられているわ。詳しくは説明出来ないけれど、私は彼女を救出したい。そこでアドルフには夜会での警備態勢のチェックをお願いできるかしら?この場所まで安全に向かえる経路を調べてくれる。アランにはアドフルとの連絡役をお願いするわ」
そう要点だけを伝えると、二人は難しい表情をしたまま、図面を見ながらに考え込んでいた。
そんな二人の様子に首を傾げる中、アドルフは静かに顔を上げる。
「今回の警備態勢はかなりきついと思うぜ。第一王子が参加するようだからな」
「第一王子が……、それは初耳ね。アドルフ、どこで知ったの?」
「あぁ、ちょっとした伝手でな……。参加する貴族には伏せられていた情報だ。まぁ、それは置いといてだ……この図面は預かるぜ。また会場でな」
アドフルはそう言うと、屋敷の図面を持ち上げ、逃げるように部屋を出て行った。
そんな彼の様子に疑問を感じる中、アランと二人っきりとなると、エメラルドの瞳が真っすぐに私に向けられる。
「お嬢様、危険だと判断すれば、すぐに止めに入りますからね」
「大丈夫よ、危険な事はしないわ」
そうアランへニッコリ笑みを浮かべると、彼は疲れた様子で深く息を吐き出した。




