第五章:お兄様VS王子・作戦は(青い宝石編)
茫然としたままに暫く立ち尽くす中、向こう側からアランとアドルフの姿が目に映ると、私は慌てて駆け寄った。
「……何かあったの?」
「いや、俺の気のせいだったみたいだ。不安にさせて悪かったな」
アドフルはそう優し気な笑みを浮かべて話すと、アランも隣で深く頷いた。
気のせいなはずがないわ。
アドフルは優秀な戦士……あれほどはっきりと何かに気が付いたのに、間違いだとは考えられない。
聞きたいけれど……二人の様子を見る限り教えてはくれなさそうね。
私は納得できないと不満を顔に出してみるが……効果はなさそうだ。
「お嬢様、どこへも行かず待っていてくれたようで安心しました。では行きましょうか」
アランはさりげなく手を差し出すと、私は渋々その手に応える。
そうしてそのまま人ごみの中へ紛れていくと、街の中を進んでいった。
無事に視察も終わり、宿屋へ戻ると、私はそのまま部屋に引きこもり頭を悩ませていた。
せっかく新しい街で、新たな発見を……と思って視察へ行ったにも関わらず、別の事に気を取られてちゃんと見れなかったわ。
私は深く息を吐き出すと、窓の外へと視線を向けた。
赤みがかったオレンジ色の光が街を照らす中、その光は次第に深い闇へと染まっていく。
空には星がポツポツと浮かび上がっていくと、街には明かりが灯り始めていった。
アドルフが何かに気が付いて、私の傍を離れた。
あの時私も周囲を注意深く眺めてみたけれど、何もわからなかったわ。
でもアドフルはとても警戒していた……。
そうして彼らが離れたとたんに、変わった少年が現れた。
その少年は、明らかにこの青い宝石の事を知っていたわ。
貴族だとわかるが……今まで参加した夜会などで、あの少年を見たことはない。
この街の貴族でもない。
この周辺に住む貴族の情報は把握しているわ。
と言う事は……王都に近い街、もしくは王都に住まう貴族なのでしょう。
王都はさすがに自国からは遠すぎる為、全てを把握できていないもの。
でもどうして……そんな少年がこの宝石の事を知っているのかしらね。
考えられるのは……彼は城の関係者で、第一王子が関わっている……。
そういえば彼らはまだ街に居るのかしら?
第一王子使いだとやってきていた、ガゼル、ヴァッカ、グラクス。
ヴェッカはお兄様に付いて情報を集めていると考えられるけど、後の二人はみていないわ。
王都に戻ったのかしら……。
いえ、今はそんな事どうでもいいわね。
青い宝石の存在と私が持っているとの事実が知られている今、あまり外へ出るのは得策ではない。
夜会まで部屋でくつろいでいた方が安全そうね。
街を色々と見て回る事が出来ないのは、正直とても残念だけれども、私の目的はこの場所に囚われている亡国の王女と話をする事。
助け出すかどうかは……その後考えるわ。
とりあえず明日明後日で、エメリーン嬢の屋敷へ偵察を出さないといけないわね。
日が沈み闇に包まれた街から視線を外すと、私はアランを呼び寄せた。
「アラン、頼みたい仕事があるの。夜会が開催されるまでに、エメリーン嬢のお屋敷を探ってきてくれないかしら?人選はお任せするわ」
アランは承知したと深く礼を見せると、静かに部屋を後にした。
翌日から、私は宿から出ることなく、夜会の準備を始めていく。
そうしてあっという間に夜会前日となったその夜。
アランがエメリーン嬢家の図面を持ってくると、私は椅子に腰かけ図面を確認していた。
屋敷は三棟あり、内二つ二階建て……。
一棟には各個人の部屋にいくつかの客室、ここがきっと本宅になるのだろう。
もう一つはメイドや執事達の部屋ね。
後は……屋敷から通じる道を抜けた先にあるこの大きな3棟が会場……。
私は本宅をじっと眺めてみると、《地下への階段》との小さな文字を見つけた。
ここから地下へ行けるのね。
きっと亡国の王女はここにいる。
地下へ通じる階段は、壁に囲まれ外から侵入は難しそうだ。
窓があるのは、そこから少し離れたエメリーン家当主の部屋の前。
きっとこの辺りの警備はかなり厳しくなっているだろう。
机に肘を付き頭を悩ませる中、ふと人の気配を感じると、私は紙を隠し振り返った。
そっと窓の傍へ目を向けてみると、そこにエイブラムの姿があった。
私は慌てて窓の傍へ駆け寄ると、静かに窓を開ける。
「エイブレイム、どうしたの?」
「嬢さん、亡国の王女が囚われている場所が分かったから、報告に来たんだ」
その言葉に私はすぐに紙を取り出すと、彼の前に広げて見せる。
「私も屋敷を調べて、今ちょうど図面を見ていたところなのよ」
「ははっ、さすがだな」
エイブレイムは小さく笑うと、地下へ通ずる階段を指さした。
「王女は地下にいる。だがここから入っても通じてはいない。ここはダミー。実際に王女たちが居る地下はこっちだ」
彼は会場の裏手にある小さな小屋を指さすと、頷いて見せる。
「小屋のカギは南京錠だ。剣があれば簡単に開くだろう。奥にある扉の鍵は、当日俺が何とかする。この庭で落ち合おう」
「わかったわ」
私は彼の言葉に頷くと、落ち合う場所をペンで黒く塗りつぶす。
「エイブレイム、無理はしないでね」
そう彼に声をかけると、あぁ嬢さんもな……と小さく頷くながらに闇の中へと消えていった。




