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第五章:お兄様VS王子・たどり着いた街:前編(青い宝石編)

お兄様が居ない中、馬車の旅は続いていく。

隣の空白に寂しいと感じる反面、安堵する自分自身が居る……。

次にお兄様に会った時、私はどうすればいいのかしらね……。

そんな事を考えながらに、いくつもの街を通り過ぎていく中、気が付けば目的の地へとたどり着いていた。


美しく大きな港町。

街は中心を流れる大河に沿って発展し、内陸には高い丘や深い谷のある起伏な地形を持つ。

幾重にも重なる家々が連なり、港には市場が開かれ活気が溢れ、賑わっていた。

高台には貴族のものだろう……豪華な屋敷が連なり、落ち着いた雰囲気が漂う中、その一角にエメリーン嬢のお屋敷がひときわ大きく目立っていた。


そんな街並みを眺めながらに、馬車で街中へ入っていくと、整備された広い道が真っすぐに伸びている。

お兄様はもう到着しているわよね。

馬車の窓からこの街に住む人々を眺める中、急な坂道を抜けた先に、豪華な宿屋が目に映る。

きっと今日から数日間、ここへ宿泊することになるのだろう。

そんな宿屋の前には、私たちの到着を待っていたであろう人々に歓迎される。

私は馬車から顔出すと、笑みを浮かべながらに手を振ってみせた。



そうして宿屋へ到着し部屋へ案内され、ひと段落すると、私はさっそく動きやすい私服へと着替えていた。

最近は領主の仕事に……まぁ色々な事に追われて、街の外へ出る機会はなかったわ。

久方ぶりの別の地、しっかり視察しておかないとね。

あぁ……それよりも誰をお供に付けようかしらね……。

さすがに前回の事がある分、一人で外出しようとは思っていない。

けれど貴族としてではなく、平民としてこの街で歩きたいわ。

そんな事を考えながらに、私はカバンに忍ばせてきたブラウンのウィッグを付け、扉をゆっくりと開けると、そこにはアランが待ち構えていた様子で立ちふさがっていた。


「アッ、アラン、どっ、どうしたのかしら……?」


「その恰好は……はぁ……。お嬢様の行動はわかっておりますよ。来て早々街へ出かけるおつもりでしょう?」


図星を刺され思わず苦笑いを浮かべる中、アランは大きく息を吐き出すと、呆れた様子を浮かべて見せる。


「あら、一人で行こうと思っていたわけじゃないわよ。誰かを連れて行こうときちんと考えていたわ」


焦りながらそう言葉を返す中、アランはじっと私を見つめると、徐に手を取った。


「誰かではなく、私が付いていきます。準備してきますので、待っていて下さいますよね?」


アランは笑みを深めながらにそう話す中、その瞳の奥は笑っていない。

そんな彼の様子に私はコクコクと何度も頷いて見せると、私は部屋の中へと押し戻されていく。


「準備が整いましたらお迎えに上がります。それまでお部屋から出ないように……」


「わっ、わかったわ……」


苦笑いを浮かべる私の様子に、アランは言い聞かせるように何度も同じ言葉を繰り返す中、扉は静かに閉まっていった。


恐ろしい……、前回勝手に抜け出したことを相当怒っているわね。

自業自得とはいえ、アランの怒りは恐ろしいわ。

ここは……大人しく待っていましょう。

私のこのウィッグ姿を見て、きっと平民として街へ出たいとの意図は伝わっているはず。

なら仰々しい従者は用意せず、静かに出発できるように彼が手配してくれるだろう。

アランはとても優秀だもの。


あの孤児院で彼を見つけた時、傍に置くのはこの子しかいないそう思わせるほどに優秀だった。

懐かしいわね。

街から子供たちが消えていくとの噂を聞いて、あの場所へたどり着いた時は、あそこに捕らえられていた子供たちは皆やせ細り……絶望が辺りを包んでいた。

そんな彼らの笑みを取り戻すまでに、大分時間がかかったわ。

もう絶対にあんな事は起こさせない。

そんな過去の記憶を思い起こす中、私は大人しく椅子へと腰かけると、窓から見える街の風景を楽しんでいた。


暫くしてアランが部屋にやってくると、彼は燕尾服から私の意向にそった服装へ着替えていた。

部屋から出てきた私の姿に、あからさまに安心した様子を見せる中、彼は導くように宿屋のエントランスへと誘っていく。

そうして外へ出ると、そこにはカジュアルな服装に着替えたアドルフが待ち構えていた。


「あら、アドルフ?」


「よっ、お嬢。着いて早々出かけると聞いてな」


「念の為アドルフにも声をかけておきました。3人であれば、問題ないでしょう」


さすがアランね、準備が良いわ。

私は彼の言葉にありがとうと笑みを浮かべると、アドルフの元へ足を向けた。



そうして二人を連れ、街へやってくると、そこは大層にぎわっていた。

人々が行きかう大通りは活気が溢れ、自然と笑みがこぼれ落ちる。

様々な露店に目を向ける中、色鮮やかで繊細なガラス細工が並んでいた。

この街の特産品はガラス。

ガラス工芸が何百年も続き、ここで手に入るグラスは貴族御用達の物。

あちらこちらにガラス工房が並ぶ中、露店にはガラスで作られたネックレスや、インテリアな置物が並べられている。


「綺麗ねぇ、このガラス細工……今度ギルド方でも取り入れてみようかしら」


「いいですね、今ちょうど貴族向けの品を考えているところなんです」


「はぁ!?まぁ~綺麗だが、こんな大層なもんじゃ、使いづらいんじゃないか?」


そんな他愛のない話をしながらに通りを進んでいると、突然アドルフが立ち止まった。

何かを窺うようにアドフルは腰へ手を伸ばすと、どこかをじっと見つめている。

その視線を追うように顔を向けてみるが……そこには何もなく、大勢の人々が歩いているだけだった。

あまりに突然の事に私はそっとアドフルへ顔を向けると、彼からは笑顔が消え、ピリピリとした空気が漂っていた。

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