第四章 お兄様VS謎の男・亡国の謎(亡国の謎編)
それから暫くすると、私はエイブレムに呼び出され、こじんまりとした一室へと案内された。
船は緩やかに揺れているようで、私はそっと用意された椅子へと腰かけていると、ローブを着た男が部屋へと入室してくる。
ローブの隙間から見える無精ひげを生やした男は、私の向かいへと腰かけると、そっとローブを脱いだ。
そこに現れたのは40代ぐらいだろうか・・・貫禄のある渋い顔に、瞳はエイブレムと同じ澄んだ青い色をしている。
男は目元に皺をよせながら私をじっと見据える姿に、目が逸らせなくなった。
「お初にお目にかかります、可憐なお嬢さん」
透き通るようなサファイヤの瞳が私へ向けられる中、私は慌てて立ち上がり、ワンピースの裾をそっと持ち上げ淑女の礼をとると、彼の微笑みは深くなっていく。
「自己紹介といきたいところだが・・・あまり時間がない。俺はお嬢さんに、聞いてもらいたい話があるんだ」
有無を言わさないと男は、私の返事を待たずに話を進めようとする。
強引な態度に驚きを隠せない私は、そっとエイブレムに視線を送ると、彼は静かに頷いていた。
「今から話すことは真実だ・・・・」
男はどこか遠くを見るように視線を向けると、ゆっくりと語り始めた。
昔この大陸には、サレーヴァ大国とエイーナ大国の間に小さな小さな小国が存在した、
その小国は生き延びる為、隣接する大国に対し、どちらにもすり寄るように国政を行っていた。
大国に挟まれながらも生き残り続けたその小国は、特別資源もなく生き残る為に必死だった。
そんな小国はある時、画期的な鉱石の精選に成功する。
その鉱石は純度が高く、青く美しい輝きを発していた。
加えて加工もしやすく、宝石として世に出すと、今まで見たこともないような美しい青く輝く宝石に貴族達は群がった。
小国はその後も新しい鉱石の研究を続ける中、ある学者が新たな発見をした。
その鉱石にある加工を施すと、生き物のように自らが光を発し始める。
そうしてその鉱石を身に着けると、主人と共にいることを願うように・・・鉱石に触れるものを弾き飛ばした。
さらに学者たちはその鉱石で剣を製作してみると、その鉱石は自分の主人に応えるように、剣は変幻自在に姿を変えた。
学者達はこの大発見をすぐに国王へ報告すると、その発見は瞬く間に隣国へと広がっていった。
その噂を聞きつけた隣国は、その精選方法を探ろうと小国へとスパイを送り込むが・・・まったく成果は上がらなかった。
その剣がどこにあるのかもわからず、鉱石をどこで研究しているのかさえつかめない。
国同士での話し合いの場を設けるも、小国の王は断固としてそんなものは存在しない、嘘っぱちだと・・・発見自体を否定した。
小国の中に小さな変化がおとずれる中、あの鉱石で作られた宝石は市場へと出なくなっていく。
宝石が市場へでなくなった理由を小国は資源がなくなってしまい作れなくなったと説明したことで、さらに隣国は不満を募らせることになった。
そうして国の情勢がきな臭くなっていく中、サレーヴァ大国の現国王が亡くなると、あまり評判がよろしくない息子が即位した。
愚かな王子は自分が拳を振り上げる意味をはっきりと理解しないまま、その鉱石の精選方法を奪う為、小国へと兵を進軍させる。
その噂を聞きつけたエイーナ大国もサレーヴァに奪われまいと、兵を進軍させた。
サレヴァーナの国王はこの状況化であれば、さすがに小国も話すだろうと踏んでいたバカ王子だが、小国はその鉱石について何の情報も漏らさない。
緊迫した状況が続く中、そんな国王に嫌気がさしたサレーヴァの国王は小国へ攻め込むと、それに合わせてエイーナ兵も小国へと進軍していく。
力もなく、兵の数も少ない小国は瞬く間に火の海と化し、人の怒涛や悲鳴があがっていった。
多くの命が奪われ・・・小国は為す術がないまま国は血の海となった。
そんな中、それぞれの大国の兵たちはすぐさま王宮へと向かうと、小国の王族たちを拘束していく。
エイーナ兵は噂で耳にしていた学者であるだろう人物を捕えると、そのまま自国へと連れて行った。
しかしその学者は輸送中に自害を謀ると、エイーナ兵はまた小国へと引き返すことになった。
そうして小国はあっという間に敗れ、その場は大国であるエイーナとサレーヴァとの戦場になっていった。
愚かで自尊心の高い王子はまだこの状態でも、このまま戦闘が続けばどうなっていくのかを考えもせず、どんどん攻め込んでいく。
エイーナもそれに合わせ進軍していく中、等々争いは大国同士の大戦争へと発展した。
大国との争いに疲労困憊を見せる中、ようやく愚かな王子も気が付き始めた。
今まで誰もふるあげなかった拳の意味を・・・・。
こちらが攻め入れば、隣国が動き出しこうなることは誰にでもわかることだった。
しかし王子は振り上げた拳を下すことはできず、そのまま戦争を続けていた。
そんな中、敗れた小国の王族たちは次々と自害し、大国の者たちは何とか鉱石の情報を探ろうと、城に保管されている資料や書物をかき集めるよう動き始めるが・・・・時すでに遅し、鉱石についての資料は全く見つからない。
一進一退の大国同士の争いが泥沼化していく中、何の成果も得られなかったエイーナ大国は、小国の王と王妃が首に下げていた青い宝石を停戦の条件として提案した。
その宝石は、市場に出回っていたような青い輝きを発してはいなかったが・・・王女の血で濡れた一つの宝石はエイーナへ、もう一つ王の血で濡れた宝石はサレーヴァの国王が手に入れることで、この戦争は幕を閉じることになった。
自国へと戻ったそれぞれの王は優秀な学者を集めその宝石を研究させるが・・・その不思議な宝石について何も見つけることができなかった。
市場に出回っていた宝石と持ち帰ってきた宝石とでは明らかに輝きが違っている。
どうにか輝きを取り戻そうとあれやこれや試してみるも効果はないようだった。
なかなか成果の上がらない研究に・・・国政を放置していた民衆たちの怒りが反乱となり、また国を大きく揺るがせた。
民衆の反乱を何とか鎮圧させるも、その時の王は謎の死を遂げ、新しい王が即位した。
新しい王は国を治める為、研究を一時保留にする。
そうして時代は流れ、宝石について忘れ去られていくと・・・・今ではそれぞれの宝石は国宝として扱われるようになっていた。




