第四章 お兄様VS謎の男・囚われた先は(亡国の謎編)
(あなたさえ居なければ・・・)
(あなたなんて死んじゃえばいいのよ!!!)
(早く・・・・彼を解放してあげて)
(・・・私が・・・あげるわ)
ゆらゆらと揺れる真っ暗な世界の中、罵声が飛び交っている。
私は胸からこみ上げてくる嗚咽感にその場で蹲ると、声は益々大きくなっていった。
(死ね、消えろ、殺す、殺す、殺す、コロス・・・・)
私は必死に耳を塞ぐが、その声がやむことはなかった。
「違う!!!違う・・・・・私だって・・・こんなこと望んでいなかった!!!!」
ガバッと飛び起きると、そこは薄暗い部屋の中だった。
激しい頭痛に先ほどの夢が鮮明に蘇り、心臓が激しく動く。
徐に体を動かすと硬いベッドに寝かされていたのか、体中がミシミシと痛い。
ここは・・・?
私はゆっくりと体を起こすと、またも頭に激痛が走った。
いっ・・・・たぁ・・・・・。
私は後頭部を押さえ痛みに蹲ると、先ほどローブの男の一戦が過った。
そうだ・・・私・・・あのまま倒れたのね・・・。
ゆっくりと顔を上げ辺りを見渡すと、木箱がいくつも壁に並んでいる倉庫のような一室だった。
ふと体に異変を感じると、私はゆっくりと目を閉じた。
うん・・・?揺れてる・・・?
私は目の前にある水差しをじっと見つめると、中の水が静かに波打っていた。
船の中・・・?
私は慎重に体を動かすと、ふと服が肌にペタペタを張り付く感触に不快感を感じた。
全力疾走したためか・・・もしくは変な夢を見たせいか・・・汗が気持ち悪い。
私はシャツのボタンと外し、近くに置いてあった布借り汗を拭っていると、薄暗い部屋のドアがギギギと音を立て開いた。
私は布を片手にそちらへ視線を向けると、そこにはエイブレムが立っていた。
「うわっ、わっ悪い・・・・!!!」
エイブレムは私の様子に慌てて扉を閉めると、バタンと大きな音が部屋へ響きわたった。
私は慌ててボタンを留めると、頭を押さえ、足元がおぼつかないまま扉まで歩いていった。
徐に扉を引くと、そこには顔を真っ赤にしたエイブレムがばつの悪そうな表情をして佇んでいた。
「嬢さん悪い・・・・、その・・・いや・・・見てねぇから!!!」
初めてみる必死な彼の様子に笑いがこみ上げてくる。
「ふふ、気にしないで、私こそごめんなさい」
エイブレムはそんな私の様子に不貞腐れたような顔をみせると、そのまま私の後に続いた。
私は慣れない揺れによろけると、エイブレムが後ろから優しく支えてくれる。
「嬢さん・・・あんま無理すんな」
エイブレムは私は軽く抱き上げると、ベッドまで運んでいく。
私は体を彼に預け、ありがとうと呟くと、深く息を吐いた。
エイブレムはそっと私をベッドへと寝かせると、傍にあった椅子へと腰かける。
「嬢さん、ごめんな・・・痛かっただろう?」
彼は私へ視線を向けると、自分が痛いかのように顔を歪めた。
「大丈夫よ、怪我は慣れているもの。それよりもお兄様を助けてくれてありがとう、あなたでしょ?屋敷までお兄様を運んでくれたのは」
私の言葉に彼は照れた様子を見せると、軽く頭をかいた。
「まぁな・・・礼を言われることじゃない・・・」
歯切れの悪い言葉に違和感を感じていると、彼は真っすぐな視線を私へと向けると姿勢を正した。
「話は変わるが・・・嬢さんをここへ連れてきたのは、聞いてもらいたいことがあるんだ」
私はベットから体を起こすと、しっかりエイブレムへと視線をあわせた。
「寝とけ・・・まだ痛むだろう。まだここでは話せないが、時期に呼び出しがかかる」
私は深く頷くと、ニッコリと笑顔を浮かべた。
「それにしても、よく私だとわかったわね。あの変装には結構自身があったのよ」
「いや・・・最初は気が付かなかったが、俺に剣を向けた時に気が付いた」
「あーあれね・・・図体のでかいやつばかりで、見渡す限り抜けれそうだったのはあなたのところだけだったのよね・・・判断を誤ったわ・・・」
「いや・・・判断は正しかっただろう、そのおかげで俺は嬢さんに剣を向けることを躊躇しちまったからな」
口もとを上げたエイブレムに視線を合わせると、私たちは笑いあった。
「その・・・他に聞くことはないのか・・・?俺に言いたいこととか・・・」
「今のところはないわね・・・まぁ話が終わった後で聞きたいことができるかもしれないわ」
私はエイブレムから視線を外すし体の力を抜くと、ふと頭に違和感を感じる。
あぁ・・・ウィッグをつけっぱなしね。
私は徐に髪を持ち上げると、短髪の黒髪ウィングを外した。
軽く頭を振ると、短くなったワインレッドの髪がパサパサと揺れる。
ふぅ、楽になった。
そのままベッドへ横になろうとした瞬間、エイブレムの手が私の腕を掴んでいた。
私はどうしたのかしら?とエイブレムへ視線を向けると、彼は私の髪を凝視していた。
「嬢さん・・・その髪・・・どうしたんだ!?」
「あぁ・・・どう似合うでしょ?」
「似合うが、ってそんな事じゃなくて・・・なんで・・・」
「ふふふ、女には色々あるのよ」
私はニヤリと笑みを浮かべると、エイブレムの青い瞳がゆらゆらと揺れていた。
「まさか・・・・誰にやられた・・・のか・・・・殺してやる・・・」
ボソッと呟かれた物騒な言葉に、私は慌ててエイブレムの腕を取ると、
「私が自分で切ったのよ!今回外に出る為に必要な事だったの」
「だが・・・ってその前に、どうして一人で外へ出たりしたんだ?俺の忠告を見なかったのか?」
私はエイブレムの言葉に目を丸くすると、その場で固まった。
「え・・・見張っていたのはお兄様でしょ?あなたに会わないように・・・違うの?」
エイブレムは私の言葉に溜息をもらすと、私へと向き直った。
「違う・・・、ルーカスは嬢さんを守っていたんだ」
お兄様が守っていた・・・?一体誰から?
「・・・まだ言うつもりはなかったんだが・・・第一王子が動き始めたんだ・・・・」
第一王子・・?
このタイミングでどうして・・・お兄様たちに任せていたんじゃないの?
お兄様たちが悪戦苦闘していると知って、自ら動き出した?
そこまでするくらいなら・・・私を捕まえて青いネックレスをさっさと奪えば良いだけ。
私自身が戦えると言っても、グラクスのような鍛えられた騎士には敵わないのだから・・・。
それをしない理由は一体何なの?
そういえばお兄様が話があると言っていたのはこの事だったのかしら・・・?
こんな重要な事なら・・・エスコートを頼んだ時に言ってくれればよかったのになぜ言わなかったの・・・・?。
まさか・・・あの怪我も・・・私を守るためなの・・・?
・・・この間の侵入者はエイブレムの事じゃなくて別の誰かだったとしたら・・・。
お兄様は私を守るために警備の配置を変えたの?
私が作った小さな隙も危ないから・・・?
私は自分の失態に頭痛がしてくると、頭を抱えその場に項垂れた。
数々の疑問が浮かぶ中、深い思考に囚われていると、また部屋の扉がギギギッと音を立てて開いた。
徐に扉へ視線を向けると、そこには黒いローブ姿の小柄な人影が佇んでいた。
エイブレムはサッと椅子から立ち上がると、私に背を向け、何も言わずに部屋を出て行った。




