第四章 お兄様VS謎の男・脱出成功(亡国の謎編)
私は誰にばれることはなく無事に屋敷から出ると、すぐにギルドへと足を運んだ。
セリーナを演じ続けながら、ギルドの皆と挨拶を交わすと、最奥のギルド長の部屋へと向かう。
扉の前で待機している騎士に、通行書を提示すると、騎士は深い礼を取り、そっと扉を開けた。
誰もいない部屋はシーンと静まり返っており、私は騎士へ軽く礼を返すと、扉は静かに閉まっていった。
私はわき目もふらず、厳重に管理された金庫のダイヤルをカチカチと回すと重い扉を引いた。
金庫の中へ入ると、さらに奥にある扉を私とアランが管理しているカギで開けると、そこには書類がずらりと並んでいた。
私は戸籍管理をしている書類ファイルへと手を伸ばすと、一つ一つファイルを確認していく。
私は以前戸籍の再調査を行わせた際、エイブレムの事もしっかりアランに調べさせていた為、新しく書き換えられた戸籍情報は信頼できるだろう。
エイブレムに会う為には、彼の情報が必要だ。
職権濫用になるだろうが、背に腹は代えられない。
絶対にお兄様よりも早く彼と話をしないと・・・。
私は社外秘と書かれたファイルを金庫から取り出すとパラパラと紙をめくっていく。
すると「調査資料・エイブレム」と書かれた資料を見つけた。
サッと目を通していくと、繁華街から少し離れた場所の住所が記載されている。
ここか・・・、ここから歩いて行けば1時間以内で到着できそうね。
私はその住所をメモに書き写すと、ファイルを元の位置へと戻す。
そのまま金庫の扉を閉め、部屋に戻ると、私は袋からウィッグを取り出し、ブラウンの髪を入れ替えた。
服は・・・。
私はクローゼットへと向かうと、昔警備兵を設立した時にサンプルとして用意していた制服を探しだすと、それに着替えた。
後は武器ね。
サッと部屋を見渡すと、ディスプレイとして飾っていた剣を手に取り、腰にへと差した。
少し華奢ではあるが・・・立派な少年の姿となった私は窓に反射する自分の姿を眺めた。
よし・・・これで、ばれた後多少の時間稼ぎはできるだろう。
後は・・・、この姿で扉を開ければ、さすがに入口の騎士に止めらてしまう・・・。
私は部屋の窓を開け、外に誰もいないことを確認すると、正面に見える木に飛びつき下までおりていく。
騎士が出てこない私を不審に思い部屋に入って窓が開いていれば・・・察してくれるでしょう。
スイスイと木を伝っていくと、静かに地面にへと着地した。
やっぱりパンツは動きやすくていいわねぇ。
私はそのままギルドの受付へと向かうと、賑わう人々に溶け込んでいった。
そうしてギルドを出て、私は急いでその住所へと向かっていった。
目的地の場所へ近づいていくほど、人通りが少なくなり、閑散としていく。
エリブレムの住所へたどり着いた頃には日が高く昇っていた。
見るからに古びたボロボロの家の前で、私は意を決して扉を軽くノックするが返事はない。
何度かノックを続けてみるも、まったく反応はなかった。
ここで彼が戻って来るまで待つか・・・それとも・・・。
扉の前で佇んでいると、背後に人の気配を感じた。
私は慌てて振り返ると、そこには黒いローブを被った男の姿があった。
私は咄嗟に剣の柄へと手を伸ばすと、身構える。
「こんにちは、警備兵さん・・・この家に何か御用でしょうか?」
私は軽く咳払いすると、低い声を意識し答えた。
「あぁ、ここの家主に用があってな」
そうですかと小さな声で呟いた男はじっと私へ視線を向けると、
「ふふ、ここの家主にお会いしたいのでしたら、大人しく着いて来ていただけませんか?」
男はそう話すとローブの中から短剣を取り出した。
こいつ・・・一体何者なの?
その動作に私も柄を強く握ると、ゆっくりと剣を引き抜いていく。
扉を背に剣を構えると、男は深いため息を吐いた。
「残念です」
そう言葉を漏らすと、あちらこちらから同じローブを纏った人影が集まってくる。
1.2.3.4.5・・・5人か・・・。
ローブを纏ったやつらは私を囲うように集まってくると、徐々に逃げ道を塞がれていく。
まずいわ・・・。
私は集まってきたローブの人影をじっと見渡し、一歩後ずさると、背中に扉が当たった。
後ろのドアを蹴破るか・・、いや彼らに背を向けた瞬間切られるわね・・・。
抜けるとしたらあの小柄なローブ・・・。
「あんたら一体何者だ・・・?」
私は剣を構えながら声をだすと、男はニヤリと口もとを歪めた。
その瞬間、私は腰を低く落とすと、小柄のローブ目掛けて剣を振るった。
すぐに反応を見せたそいつは懐から短剣を取り出すと、構える。
私はその短剣目掛けて思いっ切り剣を振りぬくが、小柄なローブは軽々と受け止めた。
男か・・・思ったより力がある・・。
押し負ける・・・そう感じた私はそのまま剣を手放すと、懐に隠し持っていた短剣を素早く取り出し至近距離で男に投げつけた。
ローブの男は私の突拍子もない行動に慌てて短剣を避けると、そこに道が開けた。
後ろから迫りくる腕に回し蹴りをお見舞いし、私はそのまま走り去る。
すると、先ほどの小柄な男が私に向かって腕を伸ばした。
私はその腕を軽く避けると、人通りが少ない路地裏へと入り込んで行った。
どこかへ身を潜めないと。
サッと後ろを振り返ると、ローブの人影が数人追ってきていた。
私は走るスピードを上げると、道端にあった木箱や空き瓶入れなどをなぎ倒し、障害物を作る。
はぁ・・はぁ・・・、どこか・・・!
狭い通路の角を曲がり、少し低くなった壁へ手をかけ勢いよく駆け上がると、向こう側へと渡る。
追手が見える前に、私は壁から飛び降りるとそこには・・・先ほどの小柄なローブの男が佇んでいた。
私は肩で息をしながらその男をじっと睨みつけると、ゆっくりと剣を構え男に向けた。
隙を伺いながら、ジリジリと男へ近づいていくと、男の深いため息が聞こえた。
「大人しくしてくれ・・・」
男の言葉に私は大きく目を見開くとその場で固まった瞬間、素早い動きで後頭部を思いっ切り殴られた。
痛っ・・・・油断した・・・。
「ごめん・・・」
首筋に感じた強い衝撃に意識が遠のき、私の体がゆっくりと傾いていくと、ローブの男に抱き留められた。
ローブの男はふと上へ視線を向けると、そこには別の人影があった。
その人影はサッと小柄な男の前に立ちはだかると、見覚えのある短剣を取り出した。
「悪ぃな、その女は返してもらう」
男は女を抱えたまま、繰り出される短剣を軽々と避けていると、後ろから仲間が追い付いてきた。
「くそっ・・・」
ローブの男は俺から距離を取ると、路地の奥へと消えていく。
俺はその背中へ向けて短剣を投げると、男のフードがとれ、オレンジ色の鮮やかな髪が揺れていた。




