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第四章 お兄様VS謎の男・屋敷からの脱出その2(亡国の謎編)

その日の夜、私はセリーナを書斎へと呼び寄せた。

朝とは打って変わってセリーナは表情を変える事無く、私へと視線を向ける。

自分が腰かけるソファーの前へ彼女を誘うと、私は彼女の方へと身を乗り出した。


「ねぇ、セリーナお願いがあるの」


私の言葉にセリーナは徐に姿勢を正すと、真っ直ぐに私の瞳を見つめた。


「いかがなさいましたか?」


徐に彼女の膝の上に置かれた手を握ると、私はニッコリと微笑みを見せる。


「ねぇ、私と入れ替わってくれない?」


「はぁ!?・・・ゴホゴホ・・・失礼いたしました。その・・・入れ替わると言うのは・・・?」


彼女は大きく咳払いをすると、呆けた表情を元の無表情へと戻していく。


「そのままの意味よ、あなたが私で、私があなたになるの」


私の言葉にセリーナは訝しげな表情を浮かべると、ボソッと呟いた。


「一体・・・・どうやって・・・?」


「ふふ、それは当日までのお楽しみ」


私はセリーナへニッコリ微笑みを浮かべると、姿勢を正すようにソファーへと深く腰かけた。


「お嬢様・・・どうしてそんな事をなさりたいのですか・・・?」


「私・・・今とある人物に見張られていて、自由に行動ができないの。でもね、そうしても会わなければならない人がいる。この監視下から抜け出すためには・・・セリーナの協力が必要なの」


私はセリーナの瞳を真剣な眼差しで見つめると、セリーナは困った様子を見せ、徐に口を開いた。


「・・・お嬢様、私がその見張りの奴らをやっつける、と言うのはいかがでしょうか?」


「それは出来ないわ・・・彼らはそう簡単に手出しできない存在なのよね・・。だから、ねぇお願い・・・」


懇願する私の様子にセリーナは難しい表情を浮かべると、私から視線を逸らせるように俯いた。

彼女の表情が見えなくなったかと思うと、


「お嬢様・・・絶対に危険な事はしない、と約束してくれますか?」


「えぇ、もちろんよ。人に会いに行くだけだもの、危険な事なんて何もないわ」


セリーナは大きくため息を吐くと、黙って首を縦に振った。

よし!!!これで外にでる道筋ができた・・・。

今日はこのまま書斎で過ごし、夜遅く書類を部屋へと運び、そのまま仕事に没頭していた・・・事にしましょう。

それで明日は朝から部屋でゆっくり休むって事にし、セリーナを私の代わりにベッドへと休ませ、私はセリーナとなって部屋からでる。

今日片付ける予定のこの資料をギルドへ運ぶ体で、そのまま外へと出る・・・完璧だわ。


「お嬢様・・・絶対に危険な目に巻き込まれないよう、すぐに帰ってきてくださいね・・・」


そんな彼女の様子に思わず抱きつくと、セリーナは顔を真っ赤に慌てていた。


セリーナが来て本当によかったわ。

今まで私の行いを傍で見てきたアランなら、こんな事許してくれるはずがないもの。


私は早速、明日の打ち合わせをセリーナへ話すと、彼女は真剣に耳を傾けてくれる。

あっ!そうだわ、彼女の頭の大きさを知っておかないと。

私は徐に立ち上がり、彼女の隣へと腰かけ、用意していた布を彼女の頭へ被せると、頭を型どるように仮縫いをしていく。

セリーナは困惑した様子を浮かべたが、何も言わず緊張した面持ちでその場にじっとしていた。


「お嬢様・・・これは・・・?」


仮止めが終わると、頭から布を外し、壊れないようにそっと机へ置くと、彼女はその布を不可解な面持ちで見つめていた。

私はそんな彼女へ笑みを浮かべると、秘密よと呟いた。


その後、一通り明日の説明を終わると、セリーナは綺麗な礼をとり、部屋の扉へと向う。

あっ、一番大切な事を伝えていないわ・・・!

私は慌てて彼女を呼び止めると、そっと耳元へ唇を近づけた。


「セリーナ、この事はアランやお兄様にも秘密よ。私とあなただけの秘密・・・約束ね」


セリーナは大きく頷くと、再度私へと深い礼をとり部屋を出ていった。



翌朝セリーナはいつもと同じように朝食の準備の為、私の部屋へとやってきた。

緊張した様子を見せるセリーナに、おはようと挨拶をすると、私の姿を目にしたセリーナは唖然とした様子でその場に固まった。


「おっ・・・お嬢様・・・そんな・・どうして・・・・」


セリーナは私の姿に、次第に表情を歪めていくと、ワナワナと唇を震わせた。

私はそんなセリーナを気にすることなくいつものように笑みを返すと、その場でクルリと軽やかに回って見せる。


「ふふ、可愛いでしょ?」


私はセリーナへ視線を送ると、短くなった髪がピョンピョンと跳ねた。


「そんな・・・髪は女の命ですわ・・・一体どうして・・・・」


「私には髪なんかよりも、もっと大事な物があるのよ」


私をセリーナを見据えると、肩ぐらいまで切ってしまったワインレッドの髪をかきあげた。

セリーナは強くショックを受けたようで泣きそうな顔を見せると、私の髪へと恐る恐る手を伸ばす。

私はその伸ばされた手を優しく静止すると、夜なべして作ったワインレッドのウィッグを取り出し、彼女へと差し出した。


「セリーナ、今日はこれを着けてベッドへ寝ていて。朝食の用意が終われば、そのまま部屋を出て、お兄様とアランに[私は徹夜仕事で疲れたから、今日は部屋で休む]旨を伝えておいて。後は頃合いを見てセリーナのベルを鳴らすわ」


セリーナは差し出されたウィッグを丁寧に持ち上げると、ギュッと強く抱き締めながら頷いた。

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