第四章 お兄様VS謎の男・屋敷からの脱出その1(亡国の謎編)
翌朝、太陽が昇り始める早朝に目覚めると、私はすぐに窓へと足を忍ばせる。
この時間なら・・・少しは警備が薄くなっていないかしら・・・?
私は窓をそっと開き外を覗き込むと、昨日と変わらない騎士たちの配置に脱力した。
はぁ・・・まぁお兄様だし、そう簡単にはいかないわよね・・・。
一人の警備兵と目が会うと、彼は私へと敬礼する。
私は誤魔化すように大きく背筋を伸ばすと、ニッコリと微笑みを浮かべ、彼に向って軽く手を振り返した。
入口もダメ、窓もダメか・・・。
アランに頼んで彼を探してもらう・・・?
いや無理よねぇ・・・彼は自分の事を周りに知られたくないと思っているし・・・。
いっそのことあの騎士たちを倒して強行突破・・・?
窓の外へ目を向けると、目視できるだけでも5人・・・無理ね・・・。
うーん、さてどうしようかしら?
一人部屋の中でウロウロとしていると、ノックの音が部屋に響いた。
どうぞと声をかけると、セリーナが洗礼された礼を取り入室する。
セリーナは私へと視線を向けると、私の奇怪な様子を冷たい目で一瞥し、朝食をのせたワゴンを運んできた。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、今日もいい天気ね」
私セリーナへ笑みを返すが、彼女は淡々とした態度で朝食の準備を進めていく。
そんな彼女をじっと観察していると、ある事を閃いた。
私は徐にセリーナの前に立ちはだかると、彼女の頬に手を添え上から下までじっくりと見定める。
いけるかもしれない・・・。
セリーナはそんな私の様子に戸惑う様子を見せると、じっと見られているのが恥ずかしいのかサッと私の視線から逃げた。
私はそんな彼女の様子を気に留める事無く体をペタペタと触ると、徐にメイド服のボタンに手をかけた。
「おっ、お嬢様!?」
セリーナは私の突拍子もない行動に驚いた様子で、慌てて身をよじらせる。
私は徐に顔を上げると、正面にあるセリーネの瞳をじっと見つめながら、
「動かないで」
私の言葉にセリーナは、体を一度ビクッとさせると動きを止めた。
そのままメイド服のボタンを全て外し終わると、徐にそれを脱がせていく。
脱がせたメイド服を床へ落とすと、私は彼女のフリフリとしたスカートへと手を伸ばした。
「おっおっ・・・・お嬢様いけません!!」
セリーナは私の動きを止めるように私の手をギュッと掴むと、お嬢様・・・と力なく呟いた。
私はそんな彼女へニッコリと微笑みを浮かべると、私の手を掴んでいる彼女の手にそっと重ねる。
触れられた彼女は頬を染めたかと思うと、次第に掴んでいた手の力が弱まっていった。
私はその隙にサッとスカートを脱がすと、下着姿となったセリーナは恥ずかしそうに顔を手で覆っていた。
私は脱がせたメイド服とスカートをそのままに自分のネグリジェを脱いでいくと、セリーナの瞳が指の隙間からチラッと見えた。
「お・・・お嬢様・・・・その・・・これは・・・いや・・・でもお嬢様が望むのなら・・・私・・・」
あたふたとするセリーナを横目に、私は先ほど脱がせたメイド服を拾い上げると腕を通していく。
順調にメイド服を着ていると、もじもじしていたセリーナの様子が変わっていった。
私はセリーナの不穏なオーラに気が付くことなく、そのまま鏡の前へ立つとメイド姿の自分を見極める。
よし・・・・思った通り!
顔は化粧で何とかなるとして、あとは髪ね・・・。
セリーナの髪は今あるブラウンのウィッグでなんとかなるわ。
問題は私のこのワインレッドの髪色・・・・、珍しいカラーの為、街でもあまり見たことがない。
ウィッグを注文すれば、お兄様にばれる可能性があるし・・・。
私は腰より長く伸びたワインレッドの髪を一房掴むと、じっと見つめていた。
そんな事をしていると、後ろから低い声が耳に届いた。
「・・・・お嬢様・・・・いったい何をなさっているのですか!!!」
恐ろしい怒鳴り声が響き渡り、私は慌ててセリーナへ視線を向けると、氷のように冷たい目をしたセリーナが私を鋭く睨みつけていた。
「あぁ・・・ごめんなさい。自分の世界に入り込んでいたわ・・・」
私は苦笑いを浮かべながら、セリーナに頭を下げると、慌てて傍にあったブランケットを手に取り、下着姿の彼女の肩へかけた。
そんな私の様子にセリーナは顔を真っ赤にしながら、強く握りしめた拳がぷるぷると震えさせていた。
ひぇっ・・・
「もう!!!お嬢様!!!さっさと脱いでください!!!」
「えっ!?そんなにダメだったかしら・・・?」
セリーナは私からメイド服を取り上げ、服を着なおすと、そのまま勢いよく部屋から出て行った。
そんなに怒ることないのに・・・・。
う~ん・・・・次来た時にちゃんと謝った方がよさそうね・・・。
私はネグリジェを拾い上げると、セリーナが出て行った扉をじっと見据えていた。
その後朝食を軽くすませ、簡易なワンピースへと着替えると、私は部屋を後にする。
部屋を出ると、いつもお兄様の傍にいる執事がこちらへと歩いてきていた。
おはようと軽く挨拶をすると、執事は優しい微笑みを浮かべながら立ち止まると、深く礼をとり私の姿を見送った。
ふぅ・・・改めて監視されていると気が付くと、お兄様って結構露骨ね・・・。
私にばれないようにではなく、私を逃がさないように徹底しているわ。
ふと後ろを振り返ると、先ほどの執事はその場に立ち止まったまま、じっと私へ視線を向けていた。
私はそのまま書斎へと向かうと、書類が高高く積み上げられた山が目に飛び込んできた。
わぁぉ・・・・。
その光景に深いため息をつくと、私は椅子へと深く腰掛ける。
山をもう一度見上げ徐に書類へ手を伸ばすと、溜まりにたまっていた仕事を片づけ始めた。
最近色々と忙しかったものね・・・。
書類を手に取り、一つ一つ丁寧にチェックをしていく。
どのくらい時間がたっただろうか、ノックの音に顔を上げると、紅茶の香りが鼻を擽った。
「お嬢様、そろそろ休憩したほうがよろしいかと」
アランはお菓子を用意すると、ティーカップへ紅茶をゆっくりと注いでいく。
「アラン、いつもありがとう」
そう返事を返すと、少し山が低くなった書類をそのままに私はソファーへと移った。
アランの入れた紅茶で一息つくと、私はそっと瞳を閉じる。
簡易な休憩をとると、アランは部屋から退出し私はまた仕事を再開した。
山積みだった書類が半分ほどになったところで、私は椅子へと体を預け、そっと息を吐いた。
ふと窓へ目を向けると、夕日の真っ赤な光が差し込んでいた。
もうこんな時間・・・か。
私は大きく手を伸ばすと、肩をポキポキと鳴らした。
後は髪だけね・・・。
私は手入れが行き届いた軽いウェーブのかかった長い髪に指を通すと、徐に髪を一房掴み、目線の高さまで持ち上げる。
ワインレッドの髪は夕日の色が混じり、赤々と輝いていた。
すぐに用意できるとなると・・・この方法しかないわ・・・。
私自身は何の問題もなんだけど・・・きっとアランやお兄様が怒ると思うのよね・・・。
でも急がないと・・・、先に彼がお兄様に捕らえられてしまえば何もわからなくなってしまう。
よし・・・。
私は決意を固めると、椅子から立ち上がり一度書斎を後にした。




