第四章 お兄様VS謎の男・謎の男登場(亡国の謎編)
王都に居る少女の話3の続きになります。
真っ暗な部屋の中、男女が寝台の上に寄り添っていた。
女性はシミーズを乱れさせ、甘い吐息を吐き、男を誘惑するように真っ白な滑らかな肌を見せつけていた。
男は無言で女に口づけをすると、ベッドへと押し倒していく。
女に跨り首筋に唇を寄せ、舌を添わせていくと、女はビクッと体を反応させた。
女は男の髪へ手を伸ばすと潤んだ瞳でそっと男の耳元で囁いた。
「はぁ、あぁっ、ねぇアル……いつ私を婚約者にしてくれるの……?」
アルと呼ばれた男はその言葉に先ほどの甘い態度を一変させると、氷のように冷たい表情を浮かべ、じっと女を見下ろした。
「気が削がれた、出で行け」
女は大きく目を見開くと、焦った様子で男にしがみついた。
「ちょ、ちょっと待って!どっどうして……!私……約束通りちゃんと彼女を夜会に呼んだじゃない……ッッ」
縋りつくように手を伸ばす女に男は暗い瞳を浮かべたかと思うと、細い喉元へ手を伸ばし冷たい微笑みを浮かべてみせた。
「……俺の言った事が聞こえなかったのか?」
鋭く低い声に女は恐怖で体をガタガタと震わせると、急いで服を拾い上げ、逃げるように走り去っていった。
アルはそんな女の背中を一瞥すると、深いため息をつく。
「はぁ……あぁつまんねぇ~」
男は薄暗い部屋の中、そう一人ベッドの上でごちていると、二人の男が部屋へと現れた。
「はぁ……またですか」
「ふん、何だよ……。てかあいつが悪い。女ってのは少し甘やかすとすぐこれだ、くそっ、うざい女はいらねぇ……。そういえば、あの女の名前なんだっけ?」
「まったく、ひどいお方ですね。彼女は侯爵家のご令嬢エメリーン様ですよ。利用するだけ利用して捨てるのも構いませんが……うまく捨てるほうが後々楽ですよ」
アルは男の言葉を聞き流しながらに興味のなさそうな表情を浮かべると、ドサッとベッドへと寝そべった。
現れた男はアルの様子にあきれた表情を浮かべると、薄暗い部屋の中、一つ一つ蝋燭に火を灯していく。
するとアルはベットから勢いよく起きあがると、ニヤリと笑い浮かべ、蝋燭つけている男へと語り掛けた。
「なぁ、ガゼル。あいつの宝物はどうだった」
「そうですね……とても興味深い御方でした」
「へぇ、女なんてゴミのように見てるお前から、そんな言葉が聞けるなんて思わなかったな」
もう一人扉の前で腕を組み静かに佇んでいる、燃えるような赤い瞳をした男もコクリと頷いてみせる。
「ほぅ、グラクスまでもか……。これは期待できそうだな」
男は楽しそうに笑うと、乱れたローブを引きずりベットからおりていく。
その姿を横目にガゼルは窓の方へと進むと、空気を入れ替える為に開け放った。
外から心地よい風が吹き込む中、アルは身なりを整えると、ソファーへと深く腰掛ける。
「ところで、夜会のパートナーはどうするおつもりですか?」
「あぁ、そうだな……適当に見つけてくるよ」
アルは適当に返事をしながらにテーブルに置かれたグラスを手に取ると、先ほどの女が忘れていったであろう可愛らしいブレスレットが目に映る。
そのブレスレットを徐に拾い上げると、開いている窓の外へと放り投げた。
*******王都の学園にて*******
はぁ、どうしよう。
夜会へパートナーを連れて行けだなんて……。
私友達少ないし、貴族でもないし……。
平民でも良いなんて言っていたけど……うーん。
でもこれは絶対に参加したい……夢にまでみた攻略対象に会えるチャンスを逃すわけにはいかないわ。
整備された美しい学園の庭で、私は一人招待状を握りしめると、うんうんと頭を悩ませていた。
この招待状を寮でじっくり見ると、夜会の開催される場所はこの王都から離れた港町だった。
貴族でもない私が一人で向かうには遠すぎる距離だ。
平民の為、馬車もなければ、船もない。
定期的に出る船に乗っていくしかないが……それで本当に大丈夫なのだろうか。
私は項垂れるように木にもたれかかると、招待状をじっと見つめていた。
「どうしたの?そんなに難しい顔をして……可愛い顔が台無しだよ」
突然の男の声に勢いよく顔を上げると、そこには琥珀色をした美しい瞳の少年が私を覗き込んでいた。
私より少し低いぐらいの身長で、顔は乙女ゲームの攻略対象のように整っている。
ブラウンの髪の隙間から見える、琥珀色の瞳に思わず見惚れてしまう。
「あれ?その招待状……どうしたの?」
透き通るような美しい少年は私の手にしていた封筒をじっと見つめると、不思議そうな表情を浮かべた。
「あっ、えっとこれは……頂いたもので……その……」
私は突然現れたイケメンに、ドキマギしながらも必死に言葉を紡いでいく。
「頂いたのは良いのですが……パートナーが見つからなくて……それで……」
そうボソボソと話す中、私は頬に熱を感じると、招待状で顔を隠すように俯いた。
「ふ~ん、なら僕がそのパートナーに立候補しちゃおうかな?」
少年はいたずらっ子のような微笑みを浮かべると、私へと手を差し出した。
「えっ!?ほっ、本当ですか!?」
驚きのあまり少年を凝視すると、彼は爽やかな笑顔のまま頷いた。
あぁ!!!こんなイケメンが!!!!
ここに彼がいなければ飛び上がって喜んでいただろう。
いや、叫んでいたかもしれない……。
ダメだダメだ……!
こんなイケメンの前でそんな姿を見せるわけにはいかない!
私はグッと高ぶる気持ちを抑え込むと、緩む頬を必死に引き締めながらに、少年へと視線を合わせた。
琥珀色の瞳がキラキラしていて、まつ毛もすっごく長い……。
バランスの良い鼻に可愛らしい桃色の唇……最高!!!
こんなイケメンに出会うなんて……やっぱりこの学園に来てよかった!!!
ここへ来て初めての乙女ゲームらしいイベントに感動しながら、目の前にある美しい少年の顔をまじまじと見つめ続けていた。
「ははっ、そんなに見つめられたら穴が開いちゃいそうだよ」
少し困った様子を見せた彼に私は慌てて視線を落とす。
そんな私の様子に少年は優しく私の肩をトントンと叩くと、ニッコリと笑みを深めてみせた。
「ねぇ、君の事をなんて呼べばいいかな?」
「あっ、失礼いたしました。私はマリアって言います!あの……あなたは?」
「ふふ、僕はアル。マリア宜しくね」
差し伸べられた手に、私は顔を真っ赤にしながらにそっと手に重ねたのだった。




