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第四章 お兄様VS謎の男・探し物(亡国の謎編)

お兄様の部屋の前につくと、私は起こしてしまわないように、そっと少しだけ扉を開けた。

扉の小さな隙間から中を覗きこむと、ベットから起き上がったお兄様が焦った様子で何かを探している姿が目に入った。

お兄様・・・?

ふとお兄様と目があうと、お兄様はサッと動きを止め、青白い顔色をしながらも弱々しい微笑みを浮かべた。


「お兄様・・・大丈夫?」


「あぁ、今はまだ頭がぼうとするが・・・何だか喉が渇いてね、アラン悪いが水を持ってきてくれないか?」


お兄様は喉を抑える素振りを見せるとアランへ視線を向けた。

その様子に私はアランから温かい器をサッと受け取ると、慎重にお兄様へと手渡した。

お兄様は半透明の液体をじっと見つめると、そっと鼻を寄せる。


「・・・これはなんだい?」


「ふふふっ、これはお兄様の為に作った葛湯と言う飲み物ですわ。たくさん汗をかいておりましたし、起きたとき喉が渇いているだろうと思いまして・・・」


「初めてみるね」


「そうでしょう。飲めば体がポカポカと温まると思うわ」


お兄様は匙を取ると、そっと葛湯を口に含んだ

少し表情を緩ませたお兄様はじっと葛湯を見つめたかと思うと、また葛湯を口へと運んでいく。


「不思議な感覚だね・・・微かに甘味もあって、とても美味しい。ありがとう」


優しい微笑みを浮かべたお兄様と目が合うと、私は自然とお兄様の薄いピンク色の唇へと目がいってしまう。

葛湯を飲んだからか・・・赤く色づき始めた唇に、昨日の口づけが脳裏をよぎった。

・・・・っっ。

私は咄嗟にお兄様から目を逸らせると、顔に熱を感じながらもよかったわ・・・とボソボソと呟いた。


目覚めたお兄様と軽く会話を交わした後、私はお医者様を呼び寄せると、先に自分の部屋へと戻っていった。

早朝の屋敷は相も変わらずメイドや執事たちが、せわしなく各々の仕事へ取り掛かろうとしていた。

そんな日常風景を横目に、ふと窓の外へ目を向けると朝日が顔を出すと、眩しい光が辺りを照らし始めていた。



私は部屋へ戻ると、どっと体の疲れを感じた。

昨日お兄様に付きっ切りで看病したためか、体がとても重い。

私はワンピースを脱ぎ捨てると、綺麗にベットメイキングされたシーツの上に寝転がり、大きく息を吸い込むと天上を見上げた。


本当に・・・お兄様が無事でよかったわ。

私は先ほど起き上がったお兄様の様子に、安堵の溜息を吐いた。

ゴロンと寝返りを打つと、窓から差し込む光がキラキラと輝いている。

ぼうとその光を眺めながら、私はお兄様について考えていた。


あの怪我でお兄様が自力で屋敷へ戻ってきたとは考えられない。

どこで毒矢を受けたのかはわからないが・・・この屋敷の近くではないはず。

もし屋敷の近くなら私が配置している警備兵からすぐに報告があがるはずだもの。

なら現場はここから離れた場所・・・誰かがお兄様をこの屋敷へ連れてきた。


でもお兄様を見つけた執事はエントランスにお兄様が倒れていたと言っていたわ。

もしお兄様を運んできたのがあの3人なら、屋敷に来てすぐ声を上げ、助けを呼んでいたでしょう。

しかしそれをせず、人目につきやすい場所へお兄様を運び、その者は姿を隠した・・・。

加えてエントランスでお兄様が発見された事から、外の警備兵は誰もお兄様が運ばれてきた様子を見ていない。

もし発見されていれば、エントランスへ到着する前に、その場で大騒ぎになっていただろう・・・。


私はまたゴロンと寝返りを打つと、顎に手を添え、うつ伏せになった。


誰にも見つからず屋敷へと侵入でき、お兄様を助けるだろう人物なんて一人しか思いつかない。

それにお兄様をその場に残し、姿を隠したところからも、彼だろうと推測できる。

まぁ・・・ここの侵入経路がどこからか漏れ、まったく知らない人物が運んできた可能性もあるが・・・。

現状を見る限り、可能性としては低いだろう。


私はムクッとベットから起き上がると、窓の方へ足を向けた。


近々彼がここにやってくるわね。

先ほど部屋でチラッと見えたお兄様のあの姿・・・まだ体調は芳しくないはずなのに、あの状態の中必死に何かを探してた・・・。

お兄様の表情からして、探し物はとても大切な物だと考えられる。

どこかで落としたのか、はたまたお兄様を射った人物が盗んだのか、もしくは彼が盗ったのか・・・、それも含め現場に居たであろう彼に会わないとわからないことだ。

どこまで話してくれるのかはわからないけれど、聞き出せることは全て知っておきたいところね。


日が上り、眩しい外の世界に目を向けると、私はそっと窓のカーテンを閉めた。


こんな格好で寝ていれば・・・セリーナにきっと怒られるわね・・・。

薄暗くなった部屋で、シミーズ姿の自分を見つめながら深くため息をついた。

はぁ、まぁいいわ・・・疲れたし。

私はベットへと横になるとすぐに夢の中へと沈んでいった。



その頃医者の診察が終わり、一人になったルーカスの部屋に、黒いフード被った男が窓から音も立てずにやって来ていた。

ルーカスの前に立ち止まったフードの男は一礼する。

フード隙間からは馴染みのあるオレンジの髪がチラッと見えた。

ルーカスはベットへと座り込むと、じっとその男を見つめていた。


「急に呼び出してすまない・・・あれが奪われてしまった」


「はぁ!?奪われたって!?マジかよ・・・」


「あぁ・・・すまない。油断した」


袖が腕までめくりあげられると、弓矢でできた傷が痛々し気に腫れていた。

ルーカスは傷口に薬をしみ込ませていくと、包帯を手に取った。


「でっ・・・どうすんだ」


ルーカスはじっと包帯を腕に巻いていくと、難しい表情を作る。


「とりあえず、レムを探しだしてくれないか。彼が持っている可能性が高い・・・ついでに彼と妹とを合わせないように・・・私の方も動いておくよ」


男は黒いフードを被りなおし深く礼を取ると、サッと立ち上がった。


「ヴァッカ待て、ガゼルとグラクスはどうだ?」


「あ~、あいつらは数日前に無事王都近くまで進んだと報告がきていたぜ。そろそろ到着してるんじゃないか」


ルーカスはそうかと一言呟くと、ヴァッカが出ていくであろう窓を開け放った。

ヴァッカは窓へ足をかけると、フードを被ったまま外へと飛び出した。

真っ黒な彼の背中を見つめながら、ルーカスはこれからの事を考えていた。

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