第四章 お兄様VS謎の男・暗い過去(亡国の謎編)
ルーカス視点から始まります。
20時に間に合わなかったので・・21時に投稿となりました。
殴られた腕が痛い、顔が痛い、背中が痛い・・・。
踏まれた足が痛い、蹴られた脚が痛い・・・
心が・・・苦しい・・・。
もう嫌だ・・・誰か・・・誰か・・・助けて・・・くれ。
この暗闇から・・・・・・・。
光がまったく無い・・・そんな世界で、体中痣だらけの小さな僕は震えていた。
身を守るように蹲っていると、聞きたくない罵声が頭の上に次々と落ちてくる。
あなたなんて生まなきゃよかったわ!!!
あなたがいなければ彼の寵愛は私の物だったのに!!
あなたさえ居なければ・・・・。
何よその目は、私を誰だかわかっているの?
ふんっ気持ち悪い青い髪ね、全部抜いてしまおうかしら・・・。
耳を塞ぎ、恐怖に踞る私の頭に大人の女性の手が伸びてくると、強く引っ張られた。
痛い・・・・痛い・・・・。
抵抗することもできず、僕はその痛みに必死に耐えていた。
真っ暗な暗闇の中、こんなちっぽけな存在に手を差し伸べる者は誰もいない。
僕は声の主が落ち着くまで、必死に耐えているしかなかった。
あぁ、もう!!気持ち悪いわね!!
その醜いブラウンの瞳を私に向けないでちょうだい!
なに笑っているの、その顔で笑わないで。
うるさいわね、それ以上泣くと窓から放り投げるわよ。
そう怒鳴り声が耳に響くと、頬に、肩に、胸に・・・・鈍い痛みを全身に感じた。
表情を変えてはいけない、刃向かってはいけない、ただただじっと待つしかない。
僕はギュッと目を瞑ると、自分を守るように強く抱き締めた。
あなたって子は、本当に役立たずね。
どうしてあなたは青い髪で生まれてきたの?
あぁ・・・あの方の子供で無ければ・・・早々に捨てていたのに・・・。
あなたには殴られるぐらいしか役に立たないんだから。
はぁ、あなた見たいな失敗作を外に出す事なんてできないわ!
ここから絶対出るんじゃないわよ・・・。
永遠ともいえる長い時間・・・終わることのない世界にふと一筋の光が差し込んだ。
僕は藁にもすがる思いで、その一筋の光めがけて走っていった。
どうしてまたこの世界に・・・?
これは現実・・・?
嫌だ・・・、君に会いたい・・・。
昔はこんなにも苦しくなかった・・・。
君に笑いかた、泣きかたを教えてもらうまでは・・・。
君は今まで蔑まれてきたこの容姿を初めて認めてくれた。
私は・・・・。
勢いよく光の中へ飛び込むと、愛しい彼女の声が響き渡る。
「ねぇ、楽しいときは笑っていいのよ・・・あなたが笑えば私も嬉しい・・・悲しい時は一緒に泣きましょう・・・ねぇ我慢しないで・・・だって私とあなたは家族なんだもの。ずっと一緒よ・・・」
先程の息苦しさから解放され、元の姿に戻った私は大きく息を吸い込んだ。
ゆっくりと光の中で目を開けると、目の前に彼女の姿があった。
今にも唇が触れてしまいそうな距離に胸が高鳴った。
「これは・・・ゆめ・・・?」
目の前にいる彼女はニッコリ優しい微笑みを浮かべると、夢よと囁いた。
夢か・・・。
当たり前だ・・・僕と彼女の距離はこんなに近くはない。
常に家族の距離を保っていたのだから・・・。
ふと目の前に映る赤く艶やかな唇がとても美味しそうに見えた。
あぁ、欲しい・・・。
そんな事を考えていると、ふと喉が渇きだす。
夢なら・・・。
彼女の唇がどんどん近くなっていく。
そんな彼女に私は手を伸ばすと、美しい滑らかな髪に触れた。
私は彼女を引き寄せるように力を込めると、そっと彼女の唇へ舌を伸ばした。
冷たくて・・・・柔らかい。
心地よい感覚に私は彼女の唾液をすいてるように、渇いた喉を潤していった。
ずっと・・・ずっと・・・こうしていたかった。
でも本当の君は私を家族としてしか見ていないことは分かっている。
それに・・・本当の君が私の正体を知ってしまったら・・・君はもう側に居てくれなくなるだろう・・・。
だから・・・今だけは・・・。
柔らかい彼女の唇へ舌を沿わせていくと、先程の苦しさはどこへやら・・・体の痛みが引いていくにつれて、次第に彼女の姿は薄れていった。
お兄様に付きっ切りで看病していると、いつの間にか寝てしまったのか、気が付くと太陽が昇り始めていた。
眠い目をこすりながら起き上がると、アランだろうか、肩にはブランケットがかけられていた。
そっとベットへ横になっているお兄様へ目を向けると、荒い息を繰り返し、苦悶の表情を浮かべていたお兄様の様子がだいぶん落ち着いていた。
お兄様の額に置かれたタオルを絞りなおし、私は徐に立ち上がると部屋を出て行った。
私は調理場へと向かうと、そのまま食材の保管場所へと入って行く。
厨房にいた他のコック達はこんな早朝に突然現れた私の存在に驚く様子もみせず、誰一人止める者はいない。
さて、どうしようかしら・・・。
お兄様の様子を見ていた限り・・・目が覚めた時に食事をとることはできないと思うのよね。
でも何か口にしないと・・・、水だと栄養が取れないわ・・・。
私は寝ぼけた頭をフル活用すると、前世の記憶を引っ張り出し、食材を眺めながら必死に頭を悩ませた。
よし、とりあえず・・・
私は数ある食材の中から生姜を取り出すと、まな板の上にのせ、小さくみじん切りにしていく。
みじん切りにすると、ブクブクと沸騰するお湯を救い上げ、別の容器へと移し、冷たい水を少し入れると、
その中に器を沈めておく。
その間に次に以前、山の中で見つけた木から採取し、試作として用意していた葛粉と似た粉を取り出すと、お湯につけ温まった小さな器へ粉を入れていく。
粉の入った器の中にぬるま湯を少し加え、しっかりと粉を溶かしていくと白い液体が出来上がった。
白くなった液体に、沸騰したお湯を一気に注ぎ入れ、素早くませると、白かった液体が次第に透明へと変化していた。
良い感じだわ。
最後に砂糖と細かく刻んだ生姜を加え、とろみをゆっくりと混ぜていくと前世で言う葛湯が完成した。
私はそっとスプーンで一口掬い味見をしてみる。
うん、ちょうどいい甘さね。
厨房でガッツポーズを決めていると、私の邪魔にならないように避難していたコック帽をかぶった青年が恐る恐るといった様子で声をかけてきた。
「あの・・・お嬢様・・・そのドロドロしたものはなんでしょうか・・・?」
「これ?これは飲み物よ、よかったら味見してみる?」
私は余ったお湯でパパッと葛湯をもう一つ完成させると、器を青年へ手渡した。
青年は透明でドロドロした液体を訝しげに見つめながらも、そっと器を持ち上げ、一口飲んだ。
「うおおおお!これは、不思議な舌触りですね・・・なぜか体が・・・ポカポカしてきました」
「ふふふ、よかったわ。一つはお兄様にもっていくわね」
「はい!あの・・・これもギルド系列のレストランに取り入れても宜しいでしょうか」
「えぇ、いいわよ。でもあまり貴族向けしないんじゃないかしら・・・?」
「いえ、この不思議な触感を使って新しいレシピを考えてみます!」
目をキラキラさせる青年にふふふと微笑みを浮かべていると、怒った様子のアランが厨房へとやってきていた。
あら・・・ご機嫌斜めのようね・・・。
「お嬢様、勝手な行動はいけません。ルーカス様のお部屋におられないから探しましたよ!」
「あら、ごめんなさい。すぐに戻るつもりだったのよ・・・」
アランは私が手にしていた器へ目を向けると、私が持ちますと手を差し出した。
そっと器をアランへ手渡すと私はコック達へと向き直り、厨房の皆に優雅に礼をとった。
「早朝にごめんなさいね」
そう微笑みかけると、厨房のいた人たちはお嬢様の突拍子もない行動はいつもの事ですから、と笑いあっていた。




