第四章 お兄様VS謎の男・倒れたお兄様(亡国の謎編)
お兄様の部屋の前につくと、そこには執事やメイド達が集まっていた。
血の気が引く思いで、お兄様の部屋へと駆けこむと、そこには荒い息をしたお兄様が臥せている姿が目に入った。
私は扉の前に佇んでいたメイドに視線を向けると、
「お兄様はどこで倒れたの?」
「いえ・・・先程たまたまエントランスを通りかかった際、倒れておりましたルーカス様を発見致しまして・・・」
私は急いでお兄様へと駆け寄り、そっと額に手を当てるとかなり熱い。
お兄様の額には汗が流れ、苦渋の表情を浮かべていた。
軽く汗を拭き、次にお兄様の腕を持ち上げると、赤い湿疹がポツポツとできていた。
蕁麻疹・・・。
「お嬢様いけません!下がってください!」
アランはお兄様の腕を持ち上げている私の姿を見て、焦った様子で私を強く引き寄せた。
「アラン、離しなさい。少し様子をみているだけよ」
「いけません、何かのはやり病の可能性もあります。お医者様がくるまでお嬢様はお部屋の外へ」
私の腕を強く引っ張るアランに鋭い視線を向けるが、アランは有無を言わさず私を部屋の外へと引きずっていった。
廊下へと放り出された私はアランの腕を振り払い、通しませんと言わんばかりに扉の前に佇むアランを睨みつけていると、白衣を着た男がこちらへ駆けつけてきた。
アランは素早くお兄様の部屋へと医者を招き入れる。
私も何気なく、その後ろに続いてみたが、鋭い視線をしたアランに止められてしまった。
閉ざされた扉の前でウロウロと行ったり来たりしていると、ようやく扉が開いた。
アランは私に視線を送ると、黙って頷いた。
急いで部屋に入ると、お医者様は難しい表情をしてお兄様を診ていた。
「お嬢様・・・とても言いにくいのですが、ルーカス様は毒を盛られたようです」
「ど・・・く・・・?」
「短時間での発熱に、湿疹、手足の痙攣などの症状からして・・・よく矢毒などに用意られている植物性の毒かと見受けられます。先ほど診察した際、ルーカス様の肩に矢傷があることから、そこから毒が入ったのではないかと・・・・」
矢毒と聞き、手足が氷のように冷たくなっていく。
「・・お兄様は・・・・大丈夫なの・・・?」
「えぇ、命に別状はございません。ルーカス様は毒だとすぐ気が付いたようで、傷をすぐに水で洗い流したと思われます。ただ・・・毒が抜けきるまで、2~3日は痛みにたえる必要がありますね」
私は命に別状がないとの答えにほっと息をつくと、お兄様の傍へと駆け寄った。
お医者様は痛み止めを置いておきますと一礼すると、アランに連れられ部屋を後にした。
私は荒い息をするお兄様の手を強く握ると、ベットの傍へ腰かけた。
苦痛に歪むお兄様の頬にそっと手を伸ばすと、優しく撫でた。
ねぇ、お兄様・・・王都から帰ってきて一体何をしているの?
この青い宝石が狙いならはっきり私に言えばいいのに、どうしていわないの?
私を危険な事に巻き込むとわかっているから?
それとも・・・私に知られるとまずいことなの?
心の中で自問自答するも、もちろんお兄様からの返事はない。
お兄様の額に流れる汗を湿らせた冷たいタオルでふき取ると、眉間の皺が少し落ち着いた。
その後も何度か水を変えながらお兄様の側についていると、
「水・・・・」
掠れるような声が耳に届いた
私は慌ててグラスに水を注ぎ、お兄様の口元へ持っていくが飲む気配はない。
次第にお兄様は魘されるように、荒い息を繰り返した。
お兄様・・・。
私は水が入ったグラスをじっと見つめ、深く深呼吸した。
これは治療・・・ 、治療なんだから!
私は勢いよく水を口の中へ含むと、お兄様へと顔を寄せた。
目の前には痛みに顔を歪め、荒い息を繰り返している薄いピンク色の唇を見つめた。
えぇい!女は度胸!
私は一度深く目を閉じると、そっとお兄様へ唇を重ねた。
想像していたよりも柔らかい唇を意識し、頬が熱くなる。
これは治療、これは治療・・・。
そう心の中で何度も唱え、心を落ち着けさせた。
慎重に口に含んでいた水をお兄様に流し込むと、ゴクッと喉がなった。
ゆっくりお兄様の唇から離れると、頬が火のでるほど上気しているのを感じた。
治療だと言い聞かせても、恥ずかしいわね・・・。
前世でキスの経験あったのかどうかはわからないが・・・、この世界では初キスになるのかしら?
そんなことを考えると、また熱が高まってくる。
一人恥ずかしさに悶えていると、
「・・・もっ・・・と・・・」
その言葉に私は慌てて水を口へと含むと、またお兄様の唇に重ねた。
水をゆっくり流し込むと、お兄様の腕がピクピクと動いた。
口に溜めていた水がなくなり、お兄様から顔を離すと、うっすら瞳が見えた。
「・・・これは・・・・ゆめ・・・・?」
そうボソッと呟いたお兄様の姿が可愛く、私はクスッと微笑みを浮かべると
「えぇ、これは夢よ。ふふふっ」
するとお兄様は徐に小刻みに震える腕を持ち上げると、私の髪を力なく撫でた。
心地よい感触に浸っていると、突然撫でていた手に力が入り、私は思わずお兄様へとバランスを崩した。
急いで手を付くが、その前にお兄様の唇が重なった。
私は顔を真っ赤に慌てて離れようと体を動かす前に、お兄様の舌が私へと入り込んだ。
「おっ・・・兄様、んぅっ、はぁん、ふぅ・・・」
あまりの驚きにお兄様の胸を強く押すと、ベットから飛び退いた。
いったい・・・何が・・・。
私が手で口を覆うと先程のお兄様のディープキスがよみがえった。
私は水を飲ませていただけなの!
決して疚しい気持ちがあったわけじゃないわ!
どっどうしてこんな事になっているの!?
恐る恐るベットへ寝ているお兄様へ視線を向けると、こちらの様子に気づくことなく、浅い呼吸で寝息をたてていた。




