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第三章 密偵VS暗殺者・そして・・・ (赤いタトゥー編)

彼から視線を逸らし、私はエイブレムの目を覗き込むように視線をあわせると、泣きそうな顔をした少年がゆらゆらと青い瞳を揺らしていた。


「昔にも言ったでしょ?あなたが人殺しでも怖くないって。それにあなたの敵が現れたら、私も一緒に立ち向かうわ、だってあなたは私の仲間なんだから。さっきのは・・・初めてみる雰囲気のあなたに戸惑っただけ・・・悲しい思いをさせて・・・ごめんなさい。」


私は血が滲む彼の拳を優しく包みこんだ。

エイブレムはサファイヤのように美しい瞳をじっと私へと向ける。


「俺は・・・嬢さんの傍に居てもいいのかな・・・。」


掠れた声で呟かれた言葉に私は深く頷くと、微笑みを浮かべた。

ヴァッカは私たちの様子に目を丸くすると、突然笑い出した。


「はっはっは、さすが姫ちゃんだ。」


私は警戒するようにヴァッカをじっと睨みつけていると、彼は徐にナイフをしまい、金色の瞳が次第に橙色へと戻っていった。


「ふふ、怖がらせてごめんね。」


彼はフードを深くかぶりなおし、私たちの元へと足を向ける。

私はエイブレムを守るように、彼の頭をギュッと強く胸に抱きしめると、近づいてくるヴァッカを強く睨みつけた。


「そんなに威嚇しないで、姫さんのその姿勢・・・僕は好きだよ」


私たちの近くまで来た彼は、徐に顔を前に突き出したかと思うと、頬に柔らかい唇の感触がした。

ちょっ、何してるの・・・!?

咄嗟の事に驚愕し目を大きく見開いていると、


「じゃまたね、僕のお姫様」


彼は爽やかな笑顔に軽くウィンクをすると、風のように去っていった。

・・・・・。

はぁ、台風みたいな人ね・・・、終始振り回されっぱなしだったわ・・・。

彼が消えていった扉を呆然と眺めていると、抱きしめていたエイブレムの頭がモゾモゾと動き出した。


「ごめんなさい、苦しかったかしら・・・?」


「いやっ、嬢さん・・・あいつにキスされたの?」


「キス・・・?あれは単に、頬に彼の唇が当たっただけよ。はぁ、彼の行動は難解すぎて私には理解できないわ。」


脱力した様子でエイブレムに話すと、彼は真剣な眼差しでゆっくりと私に顔を近づけてきた。

うん、どうしたのかしら?

近づいてくるエイブレムの顔を茫然と眺めていると、ヴァッカにされた方とは逆の頬に冷たい唇の感触を感じた。


「えっ・・・」


私は目を丸くしエイブレムをじっと見つめると、彼は顔を真っ赤にし、勢いよく窓の外へ走り去っていった。

なっ、何だったのかしら・・・?

私は彼が出て行った窓の外をただただ茫然と見つめると、深いため息をつき、釈然としないままベットへと寝ころんだ。

なんか・・・疲れたわ。

私は考えることをやめ、そっと目を閉じた。



慌ただしかった夜が明けると、いつもと同じ朝がやってきた。

窓から差し込む光で目が覚めると、セリーナが部屋へとやってきた。


「おはようございます。お嬢様」


「ふふふ、セリーナおはよう」


表情を変えないセリーナに微笑みかけると、彼女はいそいそと朝食の準備を始めた。


「ねぇセリーナ。調査はどうだった?」


セリーナはサッと手を止めると、緊張した面持ちで振り返り、真剣な眼差しで私をじっと見つめた。


「そのことですが・・・お嬢様の読み通りこの部屋に侵入した者がおりました。侵入者は何かを探すように部屋の引き出しを開け、そのほかにも棚を物色しておりましたわ。数十分ほど探し続けましたが、結局見つからなかったのか、何も盗らずに部屋を後にしました。」


「そう、それで誰だったのかしら?」


セリーナは一瞬曇った表情を見せると黙り込んだ。


「ふふふ、お兄様でしょ?」


セリーナは私の言葉に大きく目を見開くと、黙ったままコクッと首を縦に振った。


私は目の前に用意されていく朝食をぼんやり眺めながら顎に手をあてる。


半信半疑だったけど、これでやっと確証できたわ。

王都からきた彼らは、この青い宝石が目当てだって事ね・・・。

まぁ、お兄様かなと思ったのは今日ヴァッカと会ったからなんだけど。


ヴァッカは私に今日は宝石を着けてないんだ?と聞いてきたが、私は表立っては一度も宝石を着けてはいない。

着けていても屋敷にいるときだけだ。

外出するときは、常に胸元に隠すように忍ばせていたから、普通の人なら青い宝石だとわかるはずがない。

あの言葉は日ごろ私が胸にこの宝石を入れていたと、気が付いていたってことだ。

最初から知っていたのかどうかは知らないが、私が普段宝石を身に着けなという事を知っていてかつ、この宝石の存在を知っている者に限られる。

そしてヴァッカが知っているという事は安易に考えて、お兄様が情報を伝えていると思うのは当然だ。


そして今日私はわざと胸元から太ももへネックレスの位置をかえたのは、以前山の中でエイブレムと話したとき、彼は宝石について話さないと言った。

彼から情報を聞き出せないとなると・・・他に青い宝石について知っている者を見つけるしかない。

安易ではあるが、一番楽に見つける方法として、宝石を胸からはずし、家に置いているのだろうと判断しやすくなるだろうと実行してみた。

何日もかかるだろうとは考えていたけど・・・まさか一発目で見つかるなんていい意味で想定外ね。

そしてまさかお兄様がひっかかるとは・・・。

冷静なお兄様ならきっとこんな安易な手には引っかからなかったはず。

それほどまでに、彼らはこの宝石を手に入れることを焦り始めたのかしら・・・?


ヴァッカと会うまでは、一度連れ去られたあのメイドが入ってくると思っていたんけど、お兄様が直々に私の部屋に侵入するなんて思ってもみなかったわ。

この宝石には一体何があるのかしら・・・?


私は太ももに忍ばせていた宝石を握りしめると、セリーナが用意してくれた朝食をゆっくり口へと運んだ。

あら、このヨーグルトおいしいわね。

私が朝食を食べ終わると、セリーナは綺麗な礼を取り、部屋を後にした。


一人になった部屋で私はベットへと戻ると、太ももから宝石を取り出しじっと眺めた。

宝石は窓から差し込む光を吸収し、澄んだ青い輝きを放っていた。

うーん、見る限りでは、高価な青い宝石ってだけなんだけど・・・。

父の書斎にある本には何も情報はないし、宝石の事はふせ、亡き国について調べさせているが・・・何の手がかりも得られていない。

さてどうしようかしら。

そっと宝石を首に着けると、青い輝きが強くなった気がした。


トントントン

扉からのノックの音に、私は入室許可を出すと、アランが何かをもって部屋へと入ってきた。


「お嬢様、パーティーの招待状が届いております。」


アランは封蠟のされた手紙を私に差し出した。

その手紙を受け取り、目を向けると、知ったエンブレムが目に入った。

次回は、閑話・エイブレムの過去になります。

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