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第三章 密偵VS暗殺者・暗殺者エイブレム (赤いタトゥー編)

纏う雰囲気がガラリと変わった彼を凝視していると、ヴァッカは冷たい微笑みを浮かべた。


「おい、レム!女に守られるほどお前は落ちぶれたのか?」


突然、私の背にいるエイブレムに挑発的な言葉を浴びせた。

先ほどとはまったく違う強い口調に戸惑いを隠せない私は、ゆっくりとエイブレムに視線を向けると、青い瞳の中に怒りの炎が燃えていた。

そんな彼の様子に私は、落ち着いて・・・大丈夫だから、そこにいてと合図を送ると、エイブレムは不貞腐れた様子を見せながらも手にしていた短剣を下し、渋々私の指示に従った。


「ヴァッカ様、彼を蔑むのでしたらお引き取り下さい」


私は背筋を伸ばし、キッと彼を見据えると冷たく言い放った。


「あんたは何もわかっていない、そいつは人殺しだ。わかってるのか・・・?」


彼は探るような視線で私を見つめると、呆れた表情をのぞかせた。

あぁ・・・この雰囲気は最初に出会ったときの彼だわ。


「わかっているわ」


私は彼の豹変に動揺を見せないように静かに話した。


「あんたは甘い、暗殺者の本質を分かっていないんだ。どんなに剣術を磨こうが、武術を磨こうが、女のあんたじゃエイブレムに敵意を向けられた時点で抵抗できない。それをわかっているのかって聞いてんだ!」


怒鳴り声が静かな部屋に響き渡った。

ちょっと、もう!!一体なんなのよ!


そんなヴァッカの様子にエイブレムは鋭い眼差しで睨みつけると、ヴァッカは流れるような動きで懐からサッとナイフを取り出し、前に立つ私に素早く跳びかかってきた。


私の後ろに立っていたエイブレムがすぐに反応を見せ、私は守ろうと手を伸ばすが、それよりも早くヴァッカが私の腕を掴み引き寄せた。

突然の事に逃げ切れなかった私は、簡単にヴァッカに取り押さえられる。

首に腕が回され身動きが取れない中、背中越しにヴァッカの熱を持った体を感じた。


「レム動くな、動いたらこいつの喉を掻っ切るぞ」


エイブレムは怒りの表情を見せ拳を強く握りしめると、何かを押さえこむような表情を見せ、大人しくヴァッカの言葉に従った。

その様子を確認したヴァッカは私の耳元へそっと口をよせた。


「ははっ、震えもしないのか。・・・俺が本当に殺さないとでも思っているのか?」


ヴァッカはさらに私の首元へナイフを近づける。

まったく理解できない彼の行動に思わず本音がこぼれた。


「ヴァッカ様はいったい何がしたいのかしら?」


ヴァッカは私の言葉を鼻で笑うと、エイブレムには聞こえないように声を潜めた。


「レムの本性はこんなもんじゃないぜ、あんたにあいつの本性を見せてやろうと思ってな」


ヴァッカは私の首に手をまわしたまま、寝台の方へと移動すると私をベットの上に転がした。

バランスを崩した私は倒れ込むようにベットへと横たわると、ヴァッカは素早く私を捕まえ抑え込む。

彼は私の上に跨るように覆いかぶさり、ナイフを私へ突き立てた。


「なぁ、レム。こいつの胸にナイフを突き刺したらどうなるんだろうな・・・おぃ、女動くなよ・・・」


私は身動きがとれない状態のまま、真上にある金色に輝く瞳から視線を逸らし、エイブレムへと視線を向ける。

彼は先ほどまで宿っていた怒りの炎は消え、暗い瞳を浮かべ虚ろな様子で空を見つめるようにこちらを映していた。

ヴァッカは私の顔を掴むと自分に視線を合わせるようにグッと頭を掴み正面に向かせた。

吸い込まれそうな金色の瞳が私を映していた。


「ははっ、ほんとまったく怯えないんだなっ。面白い、なぁ俺の女にならないか?」


こいつ、何を言っているのかしら?


私はただただ不適な笑みを浮かべる彼の瞳をじっと眺めていると、何の反応も見せない私に舌打ちをすると、彼は視線をそらした。

するとヴァッカはエイブレムを見下すように視線を向け、大声で話し出した。


「人殺しが表舞台で普通に生きていけるわけねぇんだ。皆に蔑まれ、軽蔑され、ヒッソリと隠れながらそうやって生きていくしかないんだよ!信頼されて、殺しの生活から抜け、大事な存在なんて作るなんて許されるはずがねぇ!」


エイブレムは彼の言葉を暗い瞳を揺らし、表情を変える事無く聞いていた。

ふと拳に目を向けると、強く握りすぎたのかエイブレムの手から血が流れていた。


「殺していた過去は消えねぇ、殺し屋ってやつの傍にいるだけで周りは危険に巻き込まれる。まさかお前、あれだけ人を殺しておいて・・・恨まれてねぇなんて思ってるわけないよなぁ?」


「なっ何を言っているの・・・?」


「俺だって暗殺者だってことを隠して生きているが・・・俺が暗殺者だとわかると、一般人は恐怖の表情を向け、怯え逃げていく。周りからは異端者扱いされ、権力者たちは人殺しの道具にしようと近づいてくる。そして最後は使い捨てだとばかりに消そうとするんだ。そして俺が今まで殺したやつの仲間が復讐を考える輩も少なくない。毎日死と隣り合わせだ・・・。こんな生活が俺たちには日常なんだ。あんたみたいに暗殺者と知ったうえで普通に話したり、ましてや大事に傍に置いておくことなんてまずねぇな。まぁ暗殺者なんて普通信用するやつなんていねぇがな」


彼は話し終わると私を見下ろすように視線を向け、不敵な微笑みを浮かべた。


「なぁ、あんたも本音はそう思ってるんだろう・・・?」


彼の不躾な質問に私は顔に熱を持っていくのが分かった。

そんな事ありえない!

私は言い返そうと彼を強く睨みつけると、


「そっ・・・」


「うるせぇ・・・!お前に・・・お前に何がわかる!!!」


突然叫びだした声に私は慌てて視線を向けると、今まで見たこともないような氷のような冷たい眼差しをしたエイブレムが私たちのすぐそこまで来ていた。

彼の只ならぬ雰囲気に、私の体は自然と震えだす。

私を殺しにきたときとは全然違う・・・

これが・・・本当のエイブレムなの・・・?

エイブレムは私を一瞥すると、持っていた短剣を素早くヴァッカの首へと突き刺した。

ヴァッカは軽やかに私から飛び退くと、嘲笑うようにエイブレムを見つめていた。


「クックク、ほら、見ただろう?あいつの姿を・・・あんたはそれでもレムと共にいることができるのか?」


拘束が取れ、私はゆっくりとベットを起き上がると、エイブレムに視線を向けた。

エイブレムは暗い瞳をゆらゆらと揺らし、絶望の表情を浮かべ私を見つめていた。

私は彼の傍に近寄ると、彼は困惑した様子をみせ後退った。

そんな彼の様子にお構いなく近づいていくと、彼は困惑した様子を見せ立ち止まった。

手の届くところまで近づくと、私は彼の首に手をまわし優しく頭を抱きしめた。


「えぇ、もちろんよ。彼の本質がどうであれ、私には一緒にいない理由が見当たらないわ。そりゃ・・さっきの姿は驚いたわ・・・でも、私は違うエイブレムも知っているもの。」


振り返るようにヴァッカに視線を戻すと、私は艶やかにほほ笑みを浮かべた。

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