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第三章 密偵VS暗殺者・シヴァルお爺様(赤いタトゥー編)

ダークブラウンの少女と男二人を連れたままスラム街を歩いていくと、道行く私の姿に、顔見知りの人たちがワラワラと集まってきた。


「まぁいい男を連れて!あんたの恋人かい?」


「これ持っていきな!この間うちの畑でとれたんだ!」


「お姉ちゃん!俺の剣上手くなっただぜ!!!」


私はスラム街の住人たちに挨拶と笑顔を返しながら、シヴァ爺がいる家へと向かった。

今にもつぶれそうなボロ家の前にたどり着くと、私の腕を取っていた少女が勢いよく扉を開けた。


「シヴァ爺!!!お姉さまが来たわ!!!」


奥から腰を曲げ、頬に傷をもった見知った姿が現れた。


「ほほっ!久しぶりじゃな、元気そうでなによりじゃが・・・して今日は何のようじゃ?」


私はジヴァ爺に深く礼を取ると、彼が立っている傍へ足を運ぶ。


「お元気そうでよかったわ」


私が挨拶すると一緒に来ていた男二人が私の前へと出る。


「シヴァ爺!これ腰の痛みを和らげる薬だ、ちゃんと飲めよ!」


「こっちは新しくギルドから販売された湿布ってやつだ,なんでも腰痛に利くらしいぜ!」


シヴァ爺の前に薬と湿布を並べると、シヴァ爺またな!と颯爽と出て行った。


そんな中、少女はヴァッカにもじもじしながら何かを話しかけていた。

ヴァッカはそんな少女にニコニコと微笑みを浮かべたまま話を聞いている。

私はそれらを横目に、ニッコリと微笑みを浮かべると、じっとシヴァ爺を見つめた。


シヴァ爺は、ほっほほと笑うと、私の意図が伝わったのか、徐に立ち上がると、奥の扉に視線を向け、二人を残し、私を連れて奥にある扉へと向かった。


奥の扉を開くと、薄暗い個室にシヴァ爺と私、二人きりになった。

シヴァ爺は個室の奥へ歩いていくと、ゆっくり椅子に腰かける。


「お気遣いありがとうございます」


「ほっほ、ここは防音もついておる、気軽に話しなさい。」


私はシヴァ爺に深く礼をとり、真剣な眼差しを向けると、


「赤いタトゥーについて何かご存じではありませんか?」


シヴァ爺は私の言葉に目を大きく見開くと、まさか赤いタトゥーについて聞かれるとはなぁとボソボソ独り言のように呟いた。

そして徐に左腕の服の袖を捲り上げていく。

どうしたのかしら?

私はシヴァ爺の腕に視線を寄せると、


「これのことかな?」


捲り上げられた袖からのぞかせた彼の二の腕には、蔓のような模様で丸く円を描かれた鮮やかな赤いタトゥーが露わになっていた。

私は驚きのあまり目を丸くする。


「どっどうして・・・?」


私は独り言のようにつぶやいた。

シヴァ爺はそんな私の様子にニヤリとすると、


「これは戦後間もない頃、王都に反感を持つやつらのトレードマークみたいなもんじゃ」


王都に反感を持つ・・・?

シヴァ爺はどこか空を見つめ、遠い記憶を思い出すように話し出した。


「お嬢はしらなくて当然じゃ、王都で流行っていたものじゃし、かなり昔じゃからのぉ・・・。この辺境の地では知っている者もいないじゃろうて。それにじゃ、最近はこんなものをつけているやつもおるまい。王都は王都でうまいこと統治をおこなっておるのじゃからなぁ」


私は腕のタトゥーを凝視していると、古い記憶が頭を掠めた。

あっ、あの時の・・・


「まぁ、ただのマークじゃな。昔はこのマークを掲げ、王都で暴動を起こしていた奴らもおったが、今ではめっきり聞かなくなった。きっと王都の若い連中もこのマークの事は今は知らないじゃろう」


「今の時代にこのマークを付ける意味はなにかしら・・・?」


「そうじゃなぁ、王都転覆を狙う輩の話も儂の耳には入ってきておらぬし・・・うーむ。」


シヴァ爺は眉間にしわを寄せ考え込んだ。

私はそんなシヴァ爺の袖に手を添えると、徐に袖を下していく。


「シヴァ爺も王都に反感を持っていたのかしら?」


「若い頃はなぁ、あの頃の王は如何せん頼りなかったのでなぁ・・・。」


私はシヴァ爺に視線を戻すと、


「これは・・・消さないの?」


「ほっほっ、これは一度入れると消せないのじゃ、なんせ肌に彫り込んでいるのでな。若気の至りじゃったなぁ」


一度入れると消えないのね・・・。

私はシヴァ爺に深く礼を取ると、彼に背を向け部屋を後にした。


奥の部屋を出ると、ヴァッカが人懐っこい微笑みを浮かべ私を見据えていた。

先ほど話をしていた少女の姿は見当たらなかった。

私は軽くヴァッカに微笑みを返し、彼の横を無言で通り過ぎた。

彼は私の様子に何も言うことなく、静かに私が今出てきた扉を開けた。


一人になった空間で、私は立ちすくんだ。


王都の賊がなぜここに・・・?

こんな辺境の地に何のために・・・?


私は壁に背を預け、今まで起こった事を整理するように頭を悩ませる。


お兄様が戻り、王都から王宮関係者がやってきた。

赤いタトゥーの賊は何かをするために戸籍を売買し資金集めをしていた。

エイブレムからもらった宝石を今は亡き国の王族、もしくは貴族が狙っている。


あのアドルフと行った小屋に襲撃にきた赤いタトゥーの男に雇われたあいつらは、私たちが狙いじゃなくて本当はそこにいたはずの王族を捕まえようとしていたら・・・。

それに気が付いた王族たちは早々に小屋を後にし、偶々そこに私たちが居合わせた。


赤いタトゥーたちは、王都に反乱を起こすため、神輿を必要としてるのかもしれない・・・。

そのために、亡き国の王族を使うことに辻褄は合う。

それに戸籍を売って資金調達を行っていたのも、もし戦争を始めるつもりなら資金は欠かせないから・・・か。


そのことに気がついてお兄様と友人たちは王都から調査にきた・・・?

いやおかしい、もし彼らを捕まえに王都から人が来たのだとしたら、少人数すぎる。

しかも第一王子の関係者ばかりだ。

王都なら今の王に仕える優秀な人材はいくらでもいるだろう。

なら彼らは第一王子から指示を受け内密に何かを調べているのかしら?


赤いタトゥーをガゼルが見たのかはわからないが、あの時の彼は彼女の正体について知らなさそうだった。なら狙いは亡き国の王族か・・・もしくはこの青い宝石なのは間違いない。

なら、私を王都に連れていきたいと言った理由はもしかしたら・・・。


太ももに隠し持っている青い宝石の存在を確認するように、強く握りしめた。


確か、アランと捕まえたあのフードの男は、噂を耳にこの街へ来たと話していた。

それにしても、そもそもそんな噂がなぜ広がっているのか。

亡き王族たちをこの街に集める為?

でも噂を流すことで、余計な輩が集まり、問題事が増えるのは目に見えているはず。

じゃなぜ、そんな噂が出回っているのか。

亡き国の民衆もこの地に集める為・・・?

王都へ戦争をするために・・・?

うーん、なんかしっくりこないわね。

青い宝石を持っていたのはエイブレム、安直に考えてみて、噂を流したのは彼なのかしら?


そういえば、お兄様とあの友人たちが正体を明かした頃に、お父様は王都へ出かけて行ったわ。

今の時期、大きなパーティーもなければ、各町が集まる会議もないはず。

なら彼らが、第一王子の命でこの地にやってきたと仮定して、王都から何らかの報告を父にしたとして、なぜお父様を王都に行かせたのか。

第一王子はいったい何を考えているのだろう。

見目麗しく、頭は切れる優秀な王子と噂を聞いたことがあるが、一体どんな人物なのだろうか。


どのくらい壁にもたれていたのだろうか、私はシーンと静まり返った部屋で、ヴァッカが入っていった扉をじっと見つめた。






ヴァッカが薄暗い部屋へ入ると、呆れた様子の爺さんが目に入った。


「次は坊やか。二人っきりになるなら女の子のほうがいいのぉ」


「あんたに聞きたいことがある、あんた王都で反乱軍を率いていたボスだろう?」


爺さんは挑戦的な目で俺を見据えた。


「なんじゃい、お前さん。王都の坊主か・・・?そのオレンジの髪は王族直属の隠密シリルの息子じゃな?」


親父の名前を知っているのか・・・。

俺は沈黙のまま爺さんを鋭く睨みつける。


「それで、お前さんは何を聞きたいのじゃ?」


「あんたたちは、また王都に反乱を起こそうとしてるのか?」


爺さんはキョトンとした顔を見せると、肩を震わせ笑い出した。


「ほっほっほ、面白いことを聞く坊やじゃ、何のために?こんなおいぼれが王都転覆をはかるのじゃ」


「あんたが考えた赤いタトゥーを付けた奴らが、何かきな臭いことをしてる。あんたが指示しているわけじゃないのか?」


爺さんは笑いを消すと、眉間に皺をよせ、苦心する様子を見せた。


「儂は知らんが、うーむ、少しこちらでも調べておこう」


そう一言話すと、出ていけと鋭い目を俺に向ける。

この爺さんの周りの調査を行ったが、何も出てこなかった。

今の反応を見る限り・・・本当に何も知らなさそうだな。


俺は爺さんに礼を取ると、部屋を後にした。


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