第三章 密偵VS暗殺者・場末にて (赤いタトゥー編)
私はセリーナから離れると、気配を殺し、一定の距離を保ちながら、オレンジの髪を追っていく。
ヴァッカが人通りが少ない狭い通路へ入っていくのを確認すると、私もそれ続くようにスラム街へと足を進めた。
彼は道を知っているのか、まったく迷う様子を見せない上、歩くスピードを落とすこともなかった。
こんな入り組んだ道を迷いなく・・・彼はこの街について詳しく調べているのね。
いったいなんのために・・・?
そんな事を考えていると、ヴァッカはさらに寂れた通路へと進んでいく。
私も後を追いかけるように細い通路を曲がると・・・・そこには誰もいなかった。
あら、見失ったかしら・・・?
私は慎重に辺りを見渡すと、
「ふふふ、かわいいお姫様、僕に何か用?」
私は慌てて声のする方へ振り返ると、ヴァッカが陽気な笑顔で私を見据えていた。
いつの間に・・・?
今まで私の尾行に気が付いた者なんて一人もいなかったのに・・・ヴァッカは何者なの?
私は彼に探るような視線を向ける。
「好奇心が旺盛な女性も可愛いとは良いと思うんけど、こんな狭い通路にまできちゃダメだよ」
彼はメッと私に叱りつけるような仕草を見せた後、寂れた通路に佇む私の元へ一歩一歩近づいてくると、私を壁際へとジ徐々に追い詰めていく。
私は彼からジリジリと後退ると、背中に冷たい壁を感じた。
彼から逃れようと体を横へずらすが、彼は私の行くてを阻むように、腕が私の顔の横に現れた。
これは、前世で言う・・・壁ドン・・・・。
私は観念するように彼に向き合うと、オレンジの瞳が私を見据えていた。
彼は私の顔をまじまじと見つめると、目を大きく見開いた。
「誰かと思ったら、ルーカスの妹ちゃんじゃないか!」
彼は私の視線と絡ますように、明るい微笑みを浮かべた。
「ルーカスの妹ちゃんならなおさら、危険なことはするなって言われてるんじゃない?」
「えぇ、でもあなたは危険じゃないでしょ?」
私は彼の言葉にニッコリ微笑む。
彼も私にニコニコと人懐っこい笑顔を向けた。
お互い探り合うように笑顔を向け合っていると、
「ねぇ、あの気配の消し方どこで覚えたの?」
彼は読めない表情でそんな事を尋ねた。
あの気配の消し方は、エイブレムから教えてもらったものだけど・・・。
「秘密ですわ」
私は微笑みを絶やさないまま彼にそう答えた。
沈黙が二人を包むなか、彼は人懐っこい笑顔を浮かべたまま動く気配を見せず、私も壁際から動けない。
彼はふと私の胸元へと視線を送ると、
「あれ?この間つけていた青い宝石のネックレスは今日はつけてないの?あれとっても似合っていたのに。」
「えぇ、あれは大切な物ですの、部屋に大切に置いてありますわ。」
私は彼の手から逃れようと、先ほどとは逆に体をジリジリと動かしていくと、彼は私を囲うように壁に手を付いた。
彼はそっかと呟くと、ゆっくりと私に顔を近づけくる。
「ルーカスの言う通り、君はお姫様なんだから、こんな場所へ来ちゃだめだよ!後、男の後をコッソリ追いかけるのもオススメはしないよ。」
彼は明るい声で私の耳元でそう囁くと、狭い通路をこちらに向かって歩いてきていた2人の男に目を向ける。
「おい、お前ら!こんなとこで何をしてんだ?」
「まったく、イチャつくならよそへいけよな!」
イライラしたような声色がする方へ目を向けると、ガラの悪そうな男がこちらへ近づいてきていた。
私は徐に彼の胸を強く押し、壁際から逃れると、こちらに向かってきている男2人に視線をあわせた。
男2人は私の視線に気が付くと、驚いた様子を見せた後、口もとを緩めた。
「おおお!姉御じゃねぇか!!・・・そっ、そいつは恋人なのか!?」
「久しぶりだな!また綺麗になって!!」
私は彼らに笑顔を向けると、
「ふふふ、久しぶりね、シヴァルお爺様は元気かしら?」
「爺さんならピンピンしているぜ!」
「シヴァ爺に会いにいくなら一緒に行こうぜ!俺も用があるんだ」
男たちは楽しそうな様子で私たちに近づいてくると、私の存在に気が付いた、可愛らしい少女が通路を勢いよく走ってきた。
「お姉さま!!久しぶり!!!会いたかったわ!」
そう叫びながらダークブラウンの長い髪をした少女は、可愛らし微笑みを浮かべながら通路に立っていた男二人を押しのけると、私の腕へとしがみついた。
見覚えのある少女は私がスラム街に通っていた時期に、私になついていた可愛い妹のような存在だった。
私は腕にしがみつく少女のダークブラウンの髪を優しく撫でると、
「大きくなったわね、どう生活は?」
「お姉さまのおかげでとっても快適よ!」
彼女の幸せそうな微笑みに私の心が癒された。
私は彼女から視線を逸らし、徐に後ろを振り返ると、
「あなたもシヴァ爺に会いに来たんでしょ?一緒に行きましょう」
私の突然の言葉に、驚きの表情を浮かべたヴァッカに目を向ける。
彼は一瞬私へニヤリと微笑みを浮かべると、私の傍へと歩いてきた。
「ルーカス、ガゼル、グラクスがお姫さんに興味を惹かれる気持ちが少しわかった」
彼は誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
私の隣にたったヴァッカに、腕に捕まっていた少女が頬を赤くしながら彼にチラチラと視線を送りながら、私の腕を引っ張った。
「お姉さま・・・この方はお姉さまの恋人なの?」
「ふふふ、違うわ、只の友人よ・・・知り合い程度かもしれないわね。」
そう私が答えると、少女はなぜかほっとしたような様子を見せた。
彼は人懐っこい笑顔を浮かべ、徐に腕にしがみつく少女の前にしゃがみこむと、
「今は違うけど、将来は恋人になるかもしれないよ!」
そんな適当な事を言った彼を強く睨みつけると、彼は人懐っこい微笑みを作りながら、私を楽しそうに見据えていた。




