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閑話 アドルフとの関係・後編

お嬢は俺が警備兵にいる間、剣道場なるものを作り、そこに俺の爺さんを先生として雇い入れていた。

俺は爺さんに会いに剣道場へ向かうと、楽しそうに少年たちに剣を教えている姿を遠目に眺めていた。



ある日警備兵の訓練場で部下の指導をしていると、少し離れた場所で男どもがざわめき始めた。

すげぇ綺麗な人だな、誰に会いに来たんだ?

俺、休憩時間に話しかけにいこうかな・・・。

ちょっ、お前抜け駆けはやめろよっ!


俺はガヤガヤと騒がしい男どもの傍によると、後ろから渇を入れた。

騒いでいた男たちは、ビクッと肩を震わせると、すみませんでした!!と叫び、散り散りになっていく。

まったく・・・浮足立ちやがって。

俺は彼らが見ていた方向へ目を向けると、そこにはブラウンの髪をした見知った顔が目に入った。

っっ・・・・!!!

俺は急ぎ足でその少女の元へ向かうと、彼女は俺に笑顔で手を振っていた。

近くまで来ると、彼女は人差し指を口元に添えるとシーと微笑みを浮かべる。


「お嬢って呼んじゃだめよ、今私は平民なんだから。ふふふ」


いたずらっ子のように笑う彼女に俺は頭を抱えた。


「なんでこんなところに!」


「アドルフの様子を見に来たのよ、落ち着いたって報告も聞いたし、そろそろいいかなって。みんな頑張っているわね。」


彼女は訓練場を笑顔で見渡した。


「アランは・・・?」


彼女は肩をビクッと震わせると、街にいるんじゃないかしら、とボソボソとした調子で斜め下に視線を下しながら答えた。


「はぁ・・・俺が送っていく」


「大丈夫よ!アランには御遣いをお願いしていてね、すぐに合流するわ」


俺はまた深いため息をつき、アランが来るまでここで大人しくして居ろと彼女の手を握った。



そして彼女は度々訓練場に姿を見せるようになった。

彼女の見目に、訓練場の男どもは彼女の姿を見かけるたびに騒ぎ出した。

あいつら・・・後で締めとかねぇと・・・。

そんな訓練生の様子を見て苛立っていた俺の前に、部下が突然姿を現した。


「あぁ、アドルフ隊長はあんな綺麗な恋人がいて羨ましいなぁ」


「はぁ!恋人じゃねぇ!ただの幼馴染みだ!」


周りに集まってきていた野次馬共がえ"ー!!!と声をそろえて騒ぎだし、ガヤガヤと参戦し始める。


「嘘だろう!?あんないい女が会いにきているのに隊長ほっといていいんっすか?」


「あんな別嬪さんすぐに他の男に取られちまうよ」


「てか、アドルフ隊長の物じゃないんなら、今度声かけてみよっかなぁ~」


ワイワイガヤガヤと騒ぎ出す隊員たちに、我慢の限界が来た俺は勢いよく立ち上がると、


「うるせーーー!そんなんじゃねぇ!それとそこのお前!声かけたらぶっ殺すからな・・・」


周りの野次馬共は俺の怒りに怯える様子を見せることなく、ゲラゲラと笑い声が広がっていく。


「でもアドルフ隊長、彼女が好きなら早めに行動を起こさないと!誰か知らないやつに取られちまうぜ。」


俺はそいつの言葉に呆然と立ち尽くす。

好き・・・?俺があいつを・・・?


「俺はあいつが・・・好きなのか?」


野次馬共は俺のつぶやきに大きく目を見開き、ヒソヒソと話し始めた。

アドルフ隊長、鈍感だとは思ってたけど・・・まさかここまでとは・・。

彼女の姿を見てあんな嬉しそうな顔をするくせに、まさか気が付いてないなんてなぁ。

それに彼女に話かけようとする男を見つけると、鬼の形相で追い払うぐらい嫉妬丸出しなのにな・・・

まさか好きだと認識していないとは・・・。

隊長ニブすぎっす・・・。


ヒソヒソ囁かれる声に更に苛立ちを募らせ、俺の眉間の皺が増えていく。

そんな中、一人の男が輪の中から俺の方へ視線を向けた。


「隊長、彼女と一緒にいると楽しいでしょ?それに彼女が他の男と楽しそうに話していたりしたら嫌だと思うでしょ?彼女が悲しそうな顔をすると辛いと感じるでしょ?」


俺は部下の言葉に素直にうなずいていく。

部下はそんな俺の様子にニヤリとした笑みを浮かべると、


「それが恋っすね」


頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

嘘だろう・・・俺は彼女を好きだったのか。

あの時感じた胸の痛みは彼女を好きだったから・・・。


ようやく今までの不可解な苛立ちの理由がわかった。

俺は彼女に恋をしているのだと気が付いたんだ。


恋だと気が付くと、俺は彼女の姿を見るたびに顔が熱くなるがわかった。

いつも見ていた彼女がキラキラと眩しくみえる。


俺はアランにこの事を相談してみると、アランは変な物でも見るような目つきで俺を見据えると、好きだと自覚していなかったのですか・・・、と深いため息をついた。

俺はアランの言葉に詰め寄ると、あなたとお嬢様ぐらいですよ、その気持ちに気づいていないのは。と冷たい目でアランに言い捨てられてしまった。

俺・・・そんなにわかりやすかったのか・・・?



ある日お嬢様から指令が届いた。

この街の出た山の中にある、人が住める建物を探して。

ここから向かうとそうね・・・整備された道を歩いて約2~3時間かかる山の中だと思うわ。


範囲広すぎだろう・・・

俺は頭を抱えながらも、その指令に従った。

部下を何名か派遣し、建物を探す事半月、ようやく山の一角に不自然にある古びた小屋を見つけた。

彼女に報告する為、屋敷へ向かうと暗い表情をしたアランが立っていった。


「お嬢様はいません・・・剣道場へ行きました。」


アランは拗ねたような表情を浮かべ、俺にそう言い放つとおもいっきり扉を閉めた。

おぉ・・・何があったんだ・・・?

俺はいつもと違うアランに困惑し、後ろ髪をひかれる思いで屋敷を出ると、剣道場へと足を運んだ。


剣道場につくと広場に人が集まっていた。

何だ?

俺は人込みを掻き分けるように前に進むと、お嬢が男と剣を交えている姿が目に入った。

あいつっ!何やってんだ!

男の動きを見る限り、かなりのやり手だ。

くそっ、俺が止めに入ろうと動いた瞬間、お嬢が吹き飛ばされた。

俺は慌てて彼女が倒れた場所へ向かおうと、人込みを掻き分け彼女の元へと急いだ。


吹き飛ばされた広場へ近づくと、彼女は男と見つめ合うように立っていた。

そんな二人の様子に苛立ちを覚え、俺は割り込むように彼女の傍によると、彼女の手首に手を添わせた。

骨に異常はないな、軽い打ち身だが・・・すぐに治療したほうがいい。

俺は彼女の傍に立つでかい男を睨みつけると、ばつの悪そうな表情を浮かべていた。


怪我の治療をする気がなさそうな彼女を、横抱きにすると、俺は医務室へと向かった。

抱き上げると顔を真っ赤にした彼女が俺を見上げる。

くそっ、可愛すぎるだろう・・・。

俺は彼女から目をそすと、医務室へと急いだ。


医務室で簡単な治療を行い、塗り薬を取る為、薬部屋へと向かった。

そういえば、あのでかい男・・・ルーカスからもらったメモに書いてあるやつじゃないか?

俺はポケットに入れていた紙を取り出すと、グラクスと書かれた男の特徴に目を走らせる。

お嬢の力になるやつが何やってんだ・・・。

俺は紙を握りしめ、扉に近づくと話し声が聞こえてきた。

誰かいるのか・・・?

俺は話声に耳を澄ませる。


「怪我をさせてすまなかった。傷が残るようなら・・・俺が責任を取る」


あいつっ!!

俺は勢いよく扉を開けると、グラクスを鋭い目で睨みつけた。


彼女とグラクスの間に割り込み、見つけた建物について報告すると、今からいくことになった。

一人で守れないこともないが・・・、アランがいない現状、お嬢の安全を考えるなら・・・あいつも連れて行ったほうがいいな。

俺は不承不承ながらも、グラクスを巻き込むように連れていった。



小屋につくと戦闘が始まった。

あいつを連れてきてよかったぜ。

そんな中、お嬢は予測もつかない行動を起こした。

彼女が山の中へ走り去っていく。

次に彼女の姿を見つけた時はボロボロになっていた。

どうして・・・?


彼女の足には誰かにやってもらったとわかる、添え木がされていた。

彼女にその事を聞くと自分でやったと答えた。

一体誰を追いかけていたんだ・・・。


俺たちは、捕らえた男に話を聞き、屋敷へ戻ることになった。

彼女はボロボロの姿でも俺に頼ることなく、自分で山を下ろうとする。

俺はそんな彼女に苛立ちを覚え、彼女を抱きかかえた。

彼女は抵抗する様子を見せたが、大人しくさせると、彼女は俺の腕の中で静かに目を閉じた。

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