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第二章 騎士VS警備兵・彼との再会(アジト捜索編)

視線の先には、青く潤んだ瞳が私を見つめていた。

見知った姿に、ほっと息をつくと、肩の力を抜き、足首をかばうように湿った土の上に、ゆっくりと座りなおす。


「なんで・・・そんなボロボロになるまで追いかけてきたんだ?」


私は肩で息をしながら


「はぁっ、はぁ、あなたが、とまってくれないからでしょ・・・」


彼は弱った私の姿をじっと見つめると、徐に私の足元へとしゃがみこんだ。

私の足へと目を向け、赤く腫れた足首を確認するように優しく手を添わせる。


「捻挫だな・・・はぁ、顔にもこんなに傷をつけて、本当に嬢さんは何をやってるんだ」


彼は揺れる瞳で、私をじっと見据えた。

そんな彼の様子に、私は深く息を吸い込むと、


「あなたが逃げるからでしょ!!!」


大きく声を荒げた。

そんな私の言葉に彼は真剣な表情を作ると、


「嬢さん、もう気が付いているんだろう?その渡した宝石の価値を・・・。そして俺が嬢さんを危険にさらしていることも・・・」


私はエイブレムから視線を逸らすことなく、服の上から青い宝石を強く握りしめた。


「えぇ、わかっているわ。でも私は・・・エイブレムを首にした覚えはないわ!ちゃんといつも通り、私のもとへ来なさいよ!」


エイブレムは私の言葉に驚いた表情を浮かべ、私の胸元へ視線をおくる。


「俺は何も話さない、それでもいいのか?」


「えぇ、わかっているわ。あなたとは長い付き合いだもの」


エイブレムは眉にしわを寄せると、私の真意を確認するようにじっと私の瞳を見つめる。


「私自身であなたの理想とする結末へと、辿り着くわ」


私を彼を見据えながら笑顔でそう言い切った。


エイブレムは目を点にしたかと思うと、突然声を上げて笑いだした。

そんな彼の日ごろ見せない様子に私はポカンとする。

私・・・何か面白い事いったかしら・・・?


「はっはっ、本当に、嬢さんにはかなわないな・・・、俺は・・・まだ嬢さんの傍にいてもいいのかな?」


笑いが収まってきた彼は、晴れた空の様に青いまっすぐな瞳を私へと向ける。

彼は私と視線が絡むと、困ったような表情の中に笑顔を浮かばせた。

私もしっかりと彼の瞳を見つめ返すと、


「当り前じゃない!」


エイブレムは泣きそうな顔で笑顔を作ると、私から視線を反らし、傍に落ちていた枝を手にとった。

彼はその枝を私の足首に添えると、どこから取り出してきたのか、紐でしっかり固定し始めた。

ジンジンと赤く腫れあがった足首の痛みが、少し和らいでいく気がした。

私は彼に、ありがとうと微笑みを向けると、彼は無邪気な笑顔を見せた。

ふと強い風が森の中を通りぬける。


ザザァ


「あの小屋で・・・俺の目的は達成されるはずだったんだけどな・・・。」


木々がざわめく中で、彼の言葉は私の耳には届かなかった。


私が空を見つめていると、エイブレムは徐に私の頬へと手を伸ばした。

彼は私の頬にできた擦り傷をじっと見つめると、頬に顔をよせ、突然、頬にあった傷をペロリッと猫のように舐めた。

彼の突拍子もない行動に、驚きの目を向けると、彼は私の様子を気にすることなく、私の腕へと顔を近づけ、腕の擦り傷へと舌を添わせ、優しくなめていく。


「ちょっ、エイブレム!何をしているの!?きっ、汚いわよ!」


慌てて止めようとする私の腕を優しく捕まえると、エイブレムは次から次へとキズを舐めていく。


「ちょっ、エイブレム。やぁっ、まって、くすぐったいわ」


私は手を捕まえられたまま、彼から逃れようと、土の上をジリジリと後退っていくと、背中に木があたった。

エイブレムは私の手を離し、覆いかぶさるように、唇を近づける。


「エッ、エイブレム!!!」


「嬢さんのナイトたちがもうすぐここにやってくる、彼らにきっと怒られるだろうな・・・」


耳元でささやかれた声に、私は顔から血の気が引いていく。

あぁ、まずいわ・・・勝手な行動はするなと言われていたのに・・・。

アドルフが怒ると怖いのよね・・・。ううぅぅ・・・。

そんな事を考えていると、


「お嬢ぉぉぉ!!!どこだぁぁぁぁぁぁ!」


差し迫ったようなアドルフの声が聞こえてきた。

エイブレムは私からスッと退けると、ニッコリ微笑みを浮かべた。


「また屋敷へいくから」


そう言い残すと、彼は森の中へ姿を消した。


私は彼がいなくなったことを確認すると、木に手を付き、足を庇いながら必死に立ち上がると、大きく息を吸い込んだ。


「ここよーーーー!勝手な行動してごめんなさいーーー!!」


怒られる前に大声で謝ってみた。

きっと効果はないでしょうけど・・・。


アドルフに私の声が届いたようで、切羽詰まった様子で私のもとへと走ってきた。

その後ろからグラクスも慌てたように私の元へとやってくる。


私のボロボロな姿に二人は、驚愕の表情を浮かべていた。

そんな中、目を大きく見開いていたアドルフは、次第に般若のような顔になると、怒鳴り声が森へ響いた。

ひぃっ!これは・・・数時間コースのお説教ね・・・。

うぅ、私が悪いし・・・大人しく怒られましょう・・・。


グラクスは私の姿に痛々しい表情を浮かべると、私の傍へしゃがみ込み、どこから取り出したのだろうか、手にしていた塗り薬を血が流れている頬や腕の擦り傷へ塗りこんでいった。


ふとアドルフの怒鳴り声がやんだ。

あれ?もう終わりなのかしら?

私はアドルフを恐る恐る見上げると、彼は添え木のされた私の足をじっと見据えていた。


「その添え木、自分でやったのか?」


私は静々と頷く。

アドルフは私の答に、何か考える様子を見せるたが、結局何も言うことはなかった。


そんなやり取りの中、グラクスは徐に私の肩へ手をまわすと、脚を勢いよく持ち上げ、私を軽々と抱き上げた。


「あの、グラクス様!私は大丈夫ですわ、枝を杖にして歩くので下してください!」


グラクスは有無を言わせないと私をじっと見つめると、私を横抱きのまま、ゆっくりと山を下り始めた。

私は困った表情を浮かべ、アドルフへ視線をおくると、彼は怒りたりないのか不貞腐れた表情を浮かべていた。


揺れる山道に私は落ちないよう、グラクスの胸へとしがみつく。

私・・・結構重いと思うんだけど・・・。

まったく息の上がらない彼を心配そうに見上げていると、私の視線に気が付いたのか、優しい微笑みを浮かべた。



先ほどの小屋があった場所へ辿り着くと、周りには人の山が出来上がり、広場には至るところに血の後が残っていた。


こんなにもいたのね・・・。

私は積み重なった人の山を眺めていると、ふと柱にロープでつながれたバンダナの男が、ぐったりとしている様子が目に入った。

グラクスは私を抱いたまま、その男の傍に足を向ける。

アドルフは先に柱へ向かうと、ぐったりした男の腹に蹴りを入れた。


「グハァ、いてぇ・・・」


「お前たちは何もんだ、なんでここに来た?」


ロープにくくりつけられたバンダナの男はうなり声をあげた。


私はグラクスへ下して、とお願いすると、彼は少し残念そうな表情を浮かべ、私を丁寧な動作で地面の上に立たせた。

私は、足の痛みを振り払うと、背筋を伸ばし、バンダナの男を上から見据える。


「そのバンダナ見覚えがあるわ。あなた、隣町から来たのでしょ?」


バンダナの男は驚愕した表情を浮かべ、私をじっと見つめた。


「ねぇ、あなた只のゴロツキでしょ?いったい誰に雇われたの?・・・言えば解放してあるわ」


脅しではないと、私は凍てつくような視線でバンダナの男を鋭く睨む。

バンダナの男は私から視線をそらせた。


「もし、このまま言わないようなら・・・そうね・・・」


私は彼に冷酷な微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと彼に近づき、脚に隠し持っていた短剣を取り出す。

柱の裏へと回り、彼の指に刃を当て、ゆっくりと引いていくと、短刀が血で汚れていった。


「いてぇっ!くそっ・・・・・、わっわかった!!!言うから・・・もう、やめてくれ!!!」


私は刃を動かしていた手を止めると、彼の次の言葉を待った。


「やっ雇われたんだ、この小屋を襲えって!!!俺は・・・隣町でごろつきを束ねているリーダーだ・・・昨日、全身黒のローブに覆われた怪しい男が、俺らのアジトにやって来たんだ・・・。金をやるからって・・・」


「その男はどんな人だったかしら?」


「知らねぇ!!」


私は彼の指へ短剣を押し付けると、彼は痛みに顔が歪んでいった。


「っっ!!!ほっ、本当に知らねえんだ!フードをかぶっていて顔は見てねぇ」


「じゃ・・・どんな風貌だった?何か特徴とかなかったかしら?」


男は思い出すようにボソボソと話始めた。


「背が俺と同じぐらいで、声は少し高めだった。気味の悪い雰囲気で・・・・・っ、そうだっ、そいつの首に赤い入れ墨があった・・・フード越しでチラッ見えただけだが、確かに見た」


赤い入れ墨ね・・・。

私は彼の指から短剣を離すと、脚をかばいながらアドルフの元へと向かう。

行きましょう、と彼らに声をかけると、私たちは柱の男をそのままにその場を後にした。

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