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第二章 騎士VS警備兵・アジト探索(アジト捜索編)

私は目の前に広がる、森に圧倒されてた。

呆然としている私の手をアドルフはそっと握ると、案内人が指さした方向とは、逆へと連れていく。

次第に案内所は見えなくなり、私たちはアドルフの後に続くように、木々が生い茂る山道へと足を進めていった。


舗装されている道とは違い、険しい山道が続く中で、私の息は少しずつ上がってきた。

私はアドルフと繋いでいた手を離し、足に力を入れ、一歩一歩踏みしめながら前へ進む。

はぁ、はぁ、はぁ・・・。

ふと顔を上げ、登っている彼らの様子を確認すると、私の前を歩いているアドルフも私の後ろを歩くグラクスも、まったく疲れた様子は見えなかった。

はぁ、私の鍛え方が足りないわね・・・明日から筋トレの後、走り込みも追加しましょう・・・。


変わらない景色の中、どのくらい歩いただろうか、木々の間から差し込む光を見る限り、日が先ほどよりもかなり傾いていた。

アドルフは、スピードを落とさないまま、険しい山道をスイスイと登っていく。

私もそれについていくように乱れる息を隠し、必死に彼の背中を追った。


疲れが見え始め、足元の注意が散漫になった私は、歩いた先に飛び出た岩に躓くと、バランスを崩し、体が後ろへと傾いた。

あっ・・・まずいわ。

私は慌てて近くにあった木を掴もうと手を伸ばすが、宙を切った。

私の体は後ろへと傾き、倒れていく・・・私は咄嗟に目を瞑り、体を丸め、次にくる痛みを待った。


ボスッ


あら、痛くないわね。

ふと、私の体は何かしっかりした物に包まれている事に気が付いた。

恐る恐る目を開けると、目の前には大きな腕があった。

すぐに後ろを振り向き、腕の主を確認すると、ほっとした表情を浮かべたグラクスが私を抱きしめていた。

ごめんなさいと謝り、私は慌てて彼から離れようとするが、グラクスの腕の力が強く、逃れることができない。

えっ、どうして!?

私はそんなグラクスを見上げるように視線を送った。


「助けて頂きありがとうございます。もう大丈夫ですわ、腕の力を緩めて頂いてよろしいですか?」


「・・・あなたが無事でよかった、このまま抱き上げましょうか?」


ちょっと、何言ってるのよ!

私は顔を真っ赤にしながら、


「いえ、大丈夫ですわ」


グラクスはそうですか、となぜかガッカリした表情を浮かべ、私を抱きしめていた腕を緩めてくれた。

そんなやり取りの中、上からアドルフが慌てた様子で私のもとへ斜面を下ってきた。


「大丈夫か?」


私はアドルフにニッコリ微笑み、大丈夫だと伝え、グラクスの腕から逃れた。

アドルフはもう少しで着くからと、私の腕を掴み、サポートするように険しい山道をまた進みだした。


草木が繁茂する道を歩いていると、木造の古びた小さな小屋が小さく見えた。

アドルフは私たちの前に腕を出し静止させると、まったく疲れた様子もなく、軽い足取りで、小屋の近くまで一瞬で登っていった。

私はそれを肩で息をしながら呆然と見つめる。

すごいわ・・・。

グラクスは呆然とアドルフの背中を眺めていた私の腕をとり、近くにあった茂みの中へ引き込んだ。

私は倒れ込むようにグラクスの上に座り込むと、耳元で彼が戻ってくるまで茂みで休憩しようと囁いた。

またも甘い声に頬が熱くなるのを感じた。

この声、反則よ・・・。

私はグラクスから急いで体を離し、顔を隠すように茂みの中へしゃがみこんだ。


じっと茂みの中でグラクスと潜んでいると、足音が近づいてきた。

私は茂みの隙間から足音の主を確認すると、アドルフと目があった。

アドルフは茂みの中に隠れていた私たちの様子をみて、眉を寄せたかと思うと、私の傍にどっしりと座り込む。

そんなアドルフを横目で確認すると、なぜか不貞腐れた表情を浮かべていた。


「小屋には誰もいないようだ、グラクス殿は扉の外で待機。お嬢は俺と一緒に中へ入る」


グラクスと私は彼の言葉にしっかりと首を縦に振った。



私たちは、辺りを警戒しながら、足音を立てないよう注意を払い、アドルフの背中を追う。

そうして、木が生い茂る森の中に、不自然にできた広い空間に立っている、小屋へと到着した。

アドルフはそっと引き戸に手をかけ扉を開くと、横目でグラクスを確認した。

グラクスはアドルフの視線に頷くと、扉の前で立ち止まり、私たちに背を向けた。


小屋の中へ入ると、そこには一間の小奇麗な狭い部屋があった。

部屋の中央には火を使ったのだろうか炭が固まっている。

見る限り荷物らしきものはなく、私は部屋をゆっくりと見回り、事件の痕跡を探し始めた。

生活感はあるけど、荷物が何もない見当たらないとすると・・・、こちらの動きを感づかれたのかもしれないわね・・・。


ふと部屋に設置されていたボロボロの棚の隙間に入り込んだ、緑色の草が目に入った。

私は隙間から一枚の葉を手に取りだし、手の甲へ押し当てこすってみると、屋敷の地下牢で育てている草と同じように、白い汁が付着した。

あった、これだわ。


この草はある特定の地域でしか育たず、そのままならなんの効力もない為、普通の道端に生えている雑草と何ら変わりはない。

しかしこれをすり潰し、燻っていくと、幻覚作用を引き起こす特殊な香りを発生させる。

この香りを嗅いだ者は、脳の中枢神経に作用し、抵抗ができなくなる上、脳の働きを抑制し、思考能力を低下させる。

数十年前、この地で戦争があった時代、よく捕虜などに使用されていたと、父の書斎にあった本に書かれてあった。

この香りを嗅げば、自白剤と同じ効果を生み出し、聞かれたことには、どんな機密情報でも素直に答えてしまう。

ただこれを嗅いだものは一日中体を麻痺させ、動くことができなくなる上、使う量を間違えれば死に至る。

さらにもう一度この香りを嗅いでしまうと、自律神経に作用し、発狂してしまう。

まぁ同じ人には一度しか使えない物だ。


今は戦争もない水面下では平和な時代を過ごす中で、この戦時中に使用させていた自白剤は歴史書には記載されず、知っている者も少ない。


特にこの草が利用されていたのは・・・今はない戦時中に滅ぼされた隣国。

確かこの自白剤は、隣国の上層部に属する医療関係者しか知られていないはずだったわ・・・。

つまり、ここに居たのは、滅ぼさた隣国の貴族もしくは王族、そして部屋の大きさから、それを支持する数名か・・・。

私は胸に忍び込ませていた青い宝石を、服の上から強く握りしめた。


草をじっと睨みつけながら、頭を悩ませていると、突然扉が開いた。

夕日が入りこむ先へ視線を向けると、そこには鋭い目をしたグラクスが立っていた。


「まだ距離はあるが、数十人この小屋の周りに集まってきている」


私は腰にある剣に手をかけグラクスへと視線を返す。

アドルフはグラクスのもとへと歩き、小屋の外へと出ていった。

私は見つけた草を手に取ると、ポケットへと入れ、彼らを追うように小屋を後にした。


次話は本日の22時アップします。

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