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第二章 騎士VS警備兵・強がり(アジト捜索編)

すみません、20時に間に合いませんでした・・・。

医務室がある本館へと入ると、アドルフと私に注目が集まった。

狭い廊下で、すれ違う人たちが、私たちへ奇異な目を向ける。

うぅぅ・・・恥ずかしい・・・。

男のような格好をし、アドルフへとしがみついている様は滑稽に映っているのだろか・・・。


私は周りの視線から逃れるようにアドルフの胸に顔を埋めた。

そんな私の動きにアドルフは、ビクッと小さく体を震わせたのが、抱き抱えられている腕から伝わってきた。

アドルフの様子を確認するようにそっと顔をあげると、頬に赤見がさしていた。


「あの・・・私も恥ずかしいし・・・アドルフも恥ずかしいなら下ろしてくれないかしら?」


アドルフは私の言葉に応えることなく、私の視線から外れるようにそっぽを向くと、前に進み続けた。

はぁ、これは何をいってもダメね・・・。

私は下ろしてもらうことを諦め、彼の逞しい腕に体を預けるように力を抜いていった。


すれ違う人たちに好奇な目で見られ、神経を擦り減らせていると、ようやく医務室へと到着した。

はぁ・・・長かったわ。

アドルフは私を抱きしめたまま、ゆっくりと扉を開ける。


医務室へ入ると、中には誰もいない様子だった。

アドルフはベットへと向かうと、私を優しく下ろした。

私はアドルフの首に巻き付いていた手を緩め、ベットへと腰かける。

私がベットに座ったことを確認すると、アドルフは私の腕を慎重に持ち上げ、徐に私の前でひざまづき、赤く腫れている手に顔を近づけた。


「こんなに腫れて、痛いだろう?・・・・骨に異常はないようだな。」


アドルフは私の手を触りながらほっとした表情を浮かべた。


「平気よ、アドルフはいつも大袈裟なのよ」


私は平静を装うように笑顔を返した。

そんな私の様子にアドルフ深いため息付くと


「いつも言っているだろう?怪我をする事を止めることはしないが・・・まぁ、正直に言えば怪我もしてほしくはないが、止めても聞かないからな・・・」


頭をかきながら、アドルフは複雑な表情を浮かべた。


「百歩譲って怪我をすることには何も言わないが・・・痛みは我慢するな、と何回も何回も言ってきたよな?」


先ほどのほっとしたような様子は消え、太陽のようにギラギラと輝くオレンジ色の瞳の中に、怒りが見え始めた。

私はそんなアドルフの様子に困惑しながら


「本当に・・・そっそんなに痛くなかったのよ・・・」


私は口籠りながら答えた。

アドルフは私の手首をもつ手に徐々に力を込めていく。


「いたっ・・・」


私は赤く腫れ上がった手首に激痛を感じ顔を歪めた。


「ほら見ろ、お前との付き合いはアランやルーカス様よりも長いからな、放っておくと・・・お前はずっと我慢するからな」


アドルフは力を弱め、私の腕を優しく撫でる。

私はアドルフに視線を向けると、ごめんなさいと素直に謝った。

アドルフはそんな私の悄然とする姿を見ると、私の頭をくしゃくしゃにした。

そんなアドルフの様子に私は、


「昔、よく怒られていたわね。ふふふ」


遠い昔を思い出すように、アドルフを眺めた。

出会った時は、まだ声も高く、背も私よりも低かった少年が、こんなに逞しくなるなんて・・・。


昔の記憶に思いを馳せていると、アドルフは手際のよい動きで、布を水に浸すと固く絞り、私の腕へとそっと巻き付けた。

この世界には冷蔵庫はないため、アドルフは医務室に用意されているため桶の水をくみ上げ私の傍へと置くと、私の手首にかかっていた布が熱を吸収し、冷たくなくなると、桶の水へ布を浸し交換してくれた。

そんなアドルフの姿を目で追っていると、


「アランが、何も言わずにお前が出て行った事にショックを受けていたぞ。」


私は深いため息をつくと、アドルフへ問いかけた。


「ねぇ、アランについて何か知らない?」


アドルフは私を見つめたまま何も答えない。


「アランがね・・・あの事件後、私に対して急によそよそしい態度をとるようになって困っているの・・・、今日も変わらないアランの様子に、ちょっと離れたほうがいいのかしらと思って黙ってここへ来たの・・・」


私の声は次第に小さくなっていった。


「まぁ、あの邸での事が原因だろな・・・」


アドルフは何とも言えない表情を浮かべた。

私はそんなアドルフのオレンジ色の瞳をじっと見つめると、


「あれは・・・未遂だった上、あの状況ならしょうがないって何度も言ったのよ。アランが悔やむ事なんて一つもないわ、悪いのはあの侯爵なのだから。」


アドルフは私の様子にただ黙って耳を傾ける。


「昔、貴族が多く出席するパーティーの同行を断った時も、アランは同じような態度をとったこともあったわ・・・でもあのときはお兄様のおかげで元に戻ることができたのだけど・・・、今回はお兄様もお手上げの様子だし・・・私が問いかけても答えてくれないし・・・もう、どうすればいいのかわからないわ」


私は弱弱しくそう話した。

そんな私の様子にアドルフは優しく頭を撫でると、


「そうだな、何も言わず、何も聞かずにそっとしておくのが一番いい。あれはあいつ自身で解決しなければならないんだ。」


アドルフは私の前に跪き、手首にかかる布を取ると、腫れの状態を確認するように手を添わせた。


「男ってのはな、守りたい存在に守られるって事はなかなか堪えるんだ。それが・・・大事な人だったらなおさら・・・。俺だってそうだ、お前を守りたいと常に思っている。」


アドルフは私を見上げるように視線を向ける。

跪く彼との距離が次第に近づいているような気がした。


「アドルフ・・・?」


アドルフは私の言葉に慌てたように握っていた手を離すと、薬をとってくると言って、医務室の隣にある薬品が置かれている部屋へと、焦った様子で向かっていった。


私は医務室で一人となり、アドルフが入っていった扉を呆然と見つめていると、ガラッと医務室の扉が開く音が耳に届いた。

誰かしら・・・?

音がした方へ視線を向けると、黒髪に赤い目の男が心配そうな表情で立っていた。


「大丈夫か?」


グラクスは私に視線をあわせることなく問いかけた。


「えぇ、心配は無用よ。アドルフがちょっと大袈裟すぎるだけ」


私の布をとり、熱が引いてきた手首を揺らしてみせた。


「ほら、大丈夫でしょ」


私は、入り口に棒立ちしたままのグラクスに笑いかけると、彼は突然急ぎ足で私の前に走り寄り、揺らして手首を優しく包んだ。


「無闇に動かすな。」


ドスがきいた声が耳に届いた。

私は驚きを浮かべ、グラクスへと視線を向ける。


彼は真剣な表情で私を見据えると、私が握りしめていた布を手に取り、徐に水へと浸すと、優しく私の手首へと巻いていく。

そんな彼の様子に私は、


「あの・・・私が最初にグラクス様の反対を押しきって勝手に打ち合って、自分の力量不足で怪我をしたのだから・・・グラクス様が気にすることは何もないの。だから・・・そんなに思いつめた顔をしないで・・・・」


グラクス様の赤い瞳見上げるようにじっと見つめる。

そんな私の言葉に、彼の仏頂面が緩んだ気がした。

彼はゆっくりと私を覗き混むように近づいてくると、そっと耳元に唇をよせた。


「怪我をさせてすまなかった。傷が残るようなら・・・俺が責任を取る」


重低音の甘い声でそう私に呟いた。

淡々と話していた言葉とは違う、甘く囁かれた言葉の意味を考えると、次第に頬が熱くなっていくのがわかった。

私は咄嗟に下を向き、顔を隠すように大丈夫だと首を横に振った。


グラクスはそんな私の様子に和やかな微笑みを浮かべると、私の瞳を覗き込んだ。

近いっ!ちょっと、別人じゃないの・・・・。


「では何か、手伝える事があればいつでも言ってくれ。」


微笑みを浮かべる彼に、大丈夫だと口を開こうとした瞬間、ガラッと扉の開く音が聞こえた。

そちらへ視線を向けると。


「なら、手伝って貰おうか!」


アドルフが、薬の瓶を手にしたまま、鋭い目でグラクスを見据えていた。


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