第二章 騎士VS警備兵・出会いは(アジト捜索編)
女が窓からでたのを確認すると、私はすぐにアドルフへと伝達を行ったが・・・
結局あの黒髪ツインテールの少女を見つけることはできなかった。
皆で屋敷へ戻ると、お兄様が心配そうな表情を浮かべ、私を優しく抱きしめてくれた。
そんな中、私は助けてくれたガゼルに謝意を示すと、この借りは高いですよと彼は意地悪そうな微笑を浮かべていた。
捜査が難航する中、私は父の書斎へと足を運び、赤いタトゥーについて調べ始めた。
あの赤いタトゥーどこかで見たことがあるんだけど・・・。
そう思いながら書斎の本を漁るが、結局見つけだす事はできなかった。
あの時、もう少しタトゥーの形を確認できていれば・・・。
深いため息をつき私は書斎を後にした。
あの事件からアランは何か思いつめた様子を見せ、私に対する接し方が変わってしまった。
そんなアランに私は詰め寄るように問いかけるが、苦笑いを浮かべるだけで、決して私に理由を話すことはなかった。
そんな状況が続いていたある日、
アランから私が以前アドルフへ調査依頼を出していた案件が、もう少しでわかりそうだとの連絡が入った。
「ありがとう、また情報が入り次第教えて」
アランは深い礼を取ると、私と視線を一度もあわせることなく、素早い動きで私の前から消えていった。
はぁ、気が滅入るわ・・・。
私はむしゃくしゃする心を落ちるかせるために、騎士とメイドを呼び寄せ、ワインレッドの髪を隠すと、アランには告げず剣道場へと足を運んだ。
いつものように一礼し、剣道場の門を潜り歩いていくと、黒髪に燃えるような赤い瞳が見えた。
あら、彼は確か・・・王子の護衛騎士のグラクス様?
じっと彼に視線を向けていると、少年たちが私の姿を見つけ、私を囲うようにあつまってきた。
「ねぇちゃん来て来て、あいつすっごいの!剣の振りが見えないんだ!」
「そう!初めてみた!あいつすごい!」
そうはしゃぐ彼らに笑顔を浮かべていると、私の前で楽しそうに話していた少年が私の手をとり、グラクスの方へと引っ張っていく。
私は少年に引かれるままについていった。
彼の近くまで来ると、赤い瞳と視線が交わる。
私はグラクスへ一礼を取ると、思わず疑問を口にした。
「グラクス様はこんなところで何をしているのかしら?」
グラクスは私から視線を逸らし低い声でボソッと答える。
「ルーカスに頼まれた、ここに通う少年達に剣を教えてくれと」
淡々と話す彼の様子を覗っていると、元気な少年の声が聞こえてきた。
「ねぇ、ねぇ!にぃちゃんもう一回剣振って!」
「にぃちゃん!!もう一回!!!お姉ちゃんにも見せてあげて!」
少年たちはグラクスの周りにわらわらと集まると、憧れのような眼差しを浮かべ、グラクスを見ていた。
グラクスはそんな子供たちに一切表情を変えないまま、私たちから少し離れた場所へ移動すると、腰に下げていた剣を構えた。
シュパッ
「わぁぁぁ!!!」
少年達から歓声が上がる中、私は彼の動きをじっくり観察していた。
すごいわね・・・太刀筋が見えないわ。
関心しながらグラクスを眺めていると、少年が私のもとへとやってきた。
「ねぇ!ねぇちゃん!おにぃちゃんと戦ってよ!僕見たい!」
少年は純粋な眼差しを私に向け、満面の笑みでそう話す。
私は、少し離れた場所にいるグラクスへと視線を向ける。
グラクスは聞こえていないのか、私と目を合わすこともなく無表情のままだった。
「いいわよ、着替えてくるからちょっと待っててくれる」
私は少年に微笑みを返し、少年たちの輪を抜け更衣室へと向かおうとすると、グラクスが私の前に立ちはだかった。
「俺は、女と剣を交えるつもりはない」
無表情のまま、またも淡々と話す彼に、私はニッコリ微笑む。
「まぁいいじゃない、私も自分の実力でどこまであなたについていけるか試したいもの」
私は、彼の横をすり抜け更衣室へと向かった。
誰もいない更衣室へ入ると、ブラウンの髪を一つに束ねしっかりと紐で縛ると、ワンピースを脱ぎ、動きやすい服に袖を通し、ズボンへと履き替えた。
腰に剣を下げると一度目を瞑り大きく深呼吸をする。
最後に気合を入れるように頬を叩くと、私は広場へと足を進めた。
広場へ戻ると、先ほどよりもあきらかに増えた少年と青年たちが集まってきていた。
私は背筋を伸ばし、広場の中央へとゆっくりと進み一礼を取る。
グラクスはそんな私の姿を確認すると、苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべ私を見ていた。
子供たちにせかされるように背中を押されるグラクスは、深いため息をつくと渋々と言った様子で広場の中央へとやってきた。
「俺は手加減は苦手だ」
彼は剣を構えず私と向かいあうように立った。
そんな彼の様子には気にも留めず、私はゆっくりと剣を構え彼に微笑みを浮かべる。
「構わないわ、怪我は慣れているもの」
グラクスは私から目を逸らし、不承不承といった様子でおもむろに剣を構えた。
彼と対峙するとその存在感に圧倒された。
大きいわね・・・、彼の身長は目安で190cmはありそうだし、細身にみえるけれど、捲りあげている袖からのぞかせる引き締まった筋肉がすごいわ。
あの体格から繰り出される剣をまともに受ければ、私の腕の骨はきっと粉々ね・・・。
そんな事を考えていると
青年が私とグラクスの間に立ち、腕を振り上げる。
「はじめ!!!!!!!!」
少し高い声が広場に響くと、勢いよく腕が振り下ろされた。
私は一気にグラクスへと前傾姿勢のまま走り寄ると、構えている剣に全体重をのせ思いっ切り彼に振り下ろした。
カキッン
剣と剣が重なる音が広場に響く。
グラクスは私の渾身の力を込めた一撃を、軽々といった様子で片手で受け止めた。
剣に力を込め続けるが動く気配がない。
私は彼の剣がこちらへ押す力を利用し、交わっていた剣を外すと、バックステップをとり、彼から距離をとった。
この程度の力じゃ彼を動かす事もできないのね・・・。
私は作戦を変更し、剣を横に構えるとそのままグラクスへと素早く近づいた。
カキッンまたも簡単に受けられる。
しかし私は彼が受けた剣を受け流すように、剣先の角度を変える。
剣先の重心が動いたことで、彼の体が前に傾いた瞬間、懐へと潜り込んだ。
私は彼の胸に向かって剣柄を強く押し当てる。
その瞬間グラクスの体が後ろへと下がり、私の剣柄が届かない位置へと移動した。
よし、彼を動かすことには成功したわ。
私はすぐさま剣を持ち直し、バランスが崩れたままのグラクスに追い打ちをかけるように距離を詰め、体制が崩れている体を目掛けて剣を振りぬいた。
シュッ
その瞬間背筋がゾクッした。
振りぬく剣の隙間から赤く鋭い目が私を射抜いていたのが映った。
ヤバイッ
私は慌てて振りぬいていた剣を手放し、後ろへと後退するが・・・
彼が振りぬいたであろう見えない何かが私の手をかすったかと思うと、激しい剣圧に襲われ、私の体は後ろへ吹き飛ばされる。
私は咄嗟に受け身をとり、次来るであろう体の痛みを待つ。
ズザザザッ
私の体は地面へ強く打ち付けられると、倒れ込んだ。
グラクスは焦った様子で私の元へと駆け寄る中、私は受け身を解き、痛みを振り払うとすぐに起き上がる。
手首に熱を感じるが、平然を装う様に服についた砂を掃った。
「やっぱりつよいですわね、でも次はもう少し良い勝負ができるように精進しますわ」
私は彼にニッコリと微笑んだ。
彼は目を大きく見開き私をじっと見つめると、恐る恐る私の手を取る。
先ほど剣先がかすった事で、赤くなった手首を苦しそうな表情を浮かべながらじっと見つめると、ボソッとすまないとつぶやいた。
「こんなのすぐ治るわ」
私は彼に軽くそう伝えると、大丈夫だと伝わるようにまた微笑みを浮かべた。
そうしていると剣道場の門から誰かこちらへかけてくる、赤い髪の体格の良い男の姿が見えた。
あれ、アドルフじゃない。
どうしたのかしら?
彼は焦った様子で私の前に駆け寄ると、赤くなった手首を優しく持ち上げじっと見つめた。
「医務室へいくぞ」
彼は私の脚へと肩に腕を回すと、そのまま横向きに抱き上げる。
「ちょっ、私は大丈夫よ!」
彼の腕の中で暴れる私にを制止させるように持っている手に力が入っていく。
恐る恐るアドルフに視線を向けると、刺すような目で私を見ていた。
うぅ・・・これは大人しくしておいたほうがよさそうね・・・。
私は彼の首へ手をまわし、落ちないようにしっかりと固定する。
そっと彼の耳元へと顔を寄せ、
「重いでしょ・・・自分の足で医務室にいくから、下してくれて大丈夫よ」
アドルフは何の反応も見せず、ゆっくりと広場を離れ、本館へと足を進めた。
彼の背中越しに見えたグラクスは複雑そうな顔をし、私の姿をじっと見つめていた。




