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閑話 アランの心情・後編

月日は流れ、私は14歳になった。

ルーカス様は王都の学園に入学することが決まり、屋敷を出て行った。

王都へと向かう前日に、ルーカス様は私の部屋へやってくると.


「アラン・・・私がいない間、彼女の事を頼んだ」


ブラウンの強い眼差しで、真っすぐ私を見据えながらそう言った。



私は数年前まで彼女と同じ身長だったが、今では彼女の頭一つ分以上成長していた。

今まで正面から彼女と視線を交えていたが、今では彼女は見上げるように私へと目を向ける。


そしてルーカス様がいなくなって1年の月日が流れた。

街は発展し、経済が安定すると、王都に次ぐ大都市へ進化していた。


そんなある日王都から手紙が届いた。

差出人を確認すると、王都で有名な学園の名前がそこにはあった。


これは・・・学園の入学案内状か・・・。

ルーカス様の話を聞く限り、この学園は貴族や有力者が集まる場所だ。

男性は自分が家を継ぐ事に必要なステータスを得る為、学問の知識を深める目的の者が多いが、女性は良い家柄の貴族との縁談や婚約相手を探すために入学すると聞いたが・・・・

お嬢様も入学してしまうのだろうか・・・。

胸の奥がズキリと傷んだ。


手紙を渡すため、お嬢様が仕事をしているであろう書斎へと足を運ぶ。

お嬢様に手紙を差し出すと、宛名を見て眉間にしわを寄せ、手紙の内容に目を通す。

お嬢様は手紙から目を離すと、


「学園にはいかないわ、アラン断りの返事をお願いするわ」


そんなお嬢様の言葉を聞き、ほっとする自分がいた。

私は、お嬢様に一礼すると、静かに部屋を後にした。


いつかお嬢様も誰かのものになり、誰かに愛を囁くのか・・・。

平民で、親も誰かわからないような自分が彼女を手に入れれるはずがない。

暗い感情が胸を支配していきそうになるのをグッとこらえ、静かに前を向いた。



そうしてお嬢様は16歳の誕生日を迎えた。

普通の令嬢であれば、王都の学園に通う為、家を出るものが多い中、彼女は変わらずそこにいた。


そんなある日、彼女の胸に見慣れない青のネックレスに気が付いた。

彼女は装飾品をあまり好まず自分で買うこともない。

人からもらった物もパーティーや舞踏会以外ではあまり身に着けない。

そんな彼女が普段でも身に着けるネックレスにまた胸の奥が傷んだ。


いったい誰からの贈り物なんだろうか・・・。


モヤモヤした気持ちを隠し生活を送っていると、

街に奇妙な事件が発生していると仲間から報告が上がってきた。

彼女は奇妙な事件の解決に向け捜査を進めていく中、何かに気がついた様子だが、長い付き合いの中、話さないことは話せないことだとわかっているので聞くことはしなかった。


青いネックレスを売りさばいていた商人に接触し、情報を得た翌日


「アラン、あの商人が言っていた酒場まで一緒にきてくれない?」


お嬢様の突然の言葉に目を丸くする。

まさかお嬢様自身が向かうつもりだったなんて想像もしていなかった。

誰かに密偵調査を頼み監視させるぐらいだと思っていが・・・、何か考えがあるのだろうか。

ここで止めてもきっと部屋を勝手に抜け出し、酒場に向かうことは安易に予想できる。

深いため息をつくと、わかりましたとお嬢様の目をじっと見据えた。



酒場へいく当日。

太陽が沈み、辺りが暗くなった頃、お嬢様が酒場へ向かう為の準備を進めていく。


酒場につくと、お嬢様は私に外で待てと、そう指示をだした。

すぐに彼女が一人で行こうとする事を否定し、家に帰りましょうと提案するが彼女は聞き入れない。


わかっていたが、さてどうするか。

彼女の手を捕えたまま、しばし考えを巡らせる。

お嬢様はわかっておられない。

自分の魅力も、どれだけの人間があなたをお手に入れたいと考えるのかを・・・。

お嬢様がどれだけ剣を学び、武闘を身に着けようとも、結局は男の力には勝てないという現実を・・・。

やむ終えない、実力行使をさせていただきましょう。


私は彼女の腕を強く引き寄せ、狭い通路へ引きずり込むと、彼女の細い腕を冷たい壁に押し付ける。

突然の事に彼女は驚きの表情を浮かべていた。

そんな彼女へそっと囁くと、肌の露出が高いドレスを着た彼女が必死に逃げようと動き出した。

暴れる彼女の姿から露わになる、真っ白な美しい首筋に目を奪われる。


私はそんな彼女の様子に、逃がさないと掴んでいた手に力をこめる。

脚を動かし、蹴りを入れようとしているのだろうが、私の脚が邪魔で思うように動かせていない。

彼女の大きく開いたスリットから艶やかな脚が現れる。


ふと彼女の脚から目を離し、彼女へ視線を戻した。

悔しそうな表情の中、潤んだ瞳で見上げるように僕の名前を呼ぶ彼女と目があった。

あぁ、こんな表情を他の男に見られるなんて考えられない・・・。

黒い感情が胸を支配していく。

私は彼女の唇へと視線を向け、吸い込まれるように近づいていった。


ふと彼女の弱々しい声が聞こえた。

私は彼女の吐息がかかる距離で静止すると、一度深く目を瞑り彼女からゆっくり離れた。

そして、誤魔化すように笑顔を浮かべる。

危ない・・・ミイラ取りがミイラになるところだった。

そうして僕は彼女の腕を優しく包み込むと路地裏から連れ出した。


今もあの時の彼女が瞼の裏に焼き付いたままだ。


そんな中事件がおきた。

戸籍を売った男を探し出すため、私たちは侯爵家のパーティーに参加することとなった。

お嬢様は僕を同行させ、ルーカス様の指示によりガゼルも加わった。

ルーカス様は私に


「ガゼルは女をたらしこむのがうまいからね・・・、僕の純粋な妹が毒牙にかかりそうになったらすぐに止めてくれ。」


その言葉に答えるように、ベタベタと彼女に触れるガゼルを抑止しながら、私はお嬢様の隣に立っていた。

しかしあのパーティーの前にガゼルに言われた言葉が耳から離れない。


そしてパーティーに参加するとあの事件が起きた。

私がお嬢様を危険に晒し、あのままガゼル様が来なければきっと・・・

お嬢様は抵抗することなく最後まで受け入れていただろう・・・。

私を守るために・・・。


私は事件後屋敷へ戻ると、地下の牢屋へと足を運んだ。

私が小さいときに手を差し伸べた男に会う為に・・・。

ひんやりとした空気が包み込む地下で私はゆっくりと歩みを進めた。


地下を進むとお嬢様が大事に育てていた薬草が目にはいった。

薬草を四苦八苦しながら育てていたお嬢様の姿が映った気がした。


進んでいくと男は牢屋の端で丸くなって座り込んでいた。

私の姿を虚ろな目で確認すると、助けてくれ・・・と掠れた声で言った。


「平民が貴族になれるのでしょうか」


男は私の質問の意図が読めないのか、わけがわらかないといった様子で私へと目を向けた。


「平民が貴族になれるわけないだろう・・・平民は貴族の為に働き、貴族の為に死ぬそういうものだろう。」


当たり前の事のように男は言った。


私はゆっくりと短剣を取り出すと、牢屋の中にいる男へ投げつけた。

突然の痛みに蹲った男に、さらに短剣を投げ続ける。

牢屋には血たまりが広がっていった。


呻く男を上から見据え、私は地下牢を後にした。

前編・後編で終わらせたかったのですが・・・思った以上にアランの話が長くなりました。

次は新章となります。

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