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閑話 アランの心情・中編

お嬢様が12歳になったある日、旦那様がルーカス様を邸へと連れてきた。


邸に来られてすぐの頃ルーカス様は、無表情で無口な少年だったが、お嬢様の積極的な猛アタックに心が折れたのか、次第に心を開いていくと、よく笑顔を見せるようになった。


お嬢様はルーカス様へ寄り添い、街の改革についての話をしたり、剣術の相手をさせたりと、ルーカス様と過ごす時間が次第に増えていった。

そんな二人の様子に僕は、ルーカス様がお嬢様を好きになっていく姿を肌で感じていた。


彼女が屈託のない笑顔をルーカス様に見せる姿を見て、心にモヤッとした何かが生まれたような気がしたが・・・僕はそれに気づかない振りをした。



お嬢様が社交界へデビューとなる13歳になったある日、旦那様はお嬢様の為に盛大なパーティーを開催する事になった。


お嬢様はパーティーへ参加する準備を進めていた。

僕は彼女の部屋の外で待機していると、お嬢様が呼ぶ声が聞こえてきた。

彼女の着替えを手伝っていたであろうメイドがゆっくりと扉を開けるとそこには、艶やかな姿の女性が佇んでいた。


彼女は美しい真っ赤なドレスを纏い、いつも下ろしているワインレッドの髪を頭の上でまとめると、可憐な髪飾りをつけていた。

彼女の日頃見ることがない露わになったうなじについつい目がいってしまう。

慌てて視線を逸らすと、お嬢様はドレスの裾を持ち上げながら優雅に僕の方へと近づいてくると、可愛らしい微笑みを浮かべた。


初めて見るお嬢様の貴族姿を呆然と眺めた。

いつもとは違う貴族らしく堂々とした様子に、大人の雰囲気を纏い、豪華なドレスから露わになる真っ白な滑らかな肌に目を奪われた。


あぁ、僕と彼女ではこんなに住む世界が違うのか。

彼女の姿にそう実感した瞬間だった。



パーティーのエスコートはルーカス様が行った。

ルーカス様の端正な顔立ちと貴族らしい堂々たる風貌に、多くの貴族女性たちがルーカス様の周りへ集まろうする。

ルーカス様はそんな女性を軽やかにかわし、お嬢様の隣を歩続けた。

お嬢様はそんなルーカス様の様子に、私は一人で大丈夫よと声をかけたが、それをルーカス様は華麗にスルーしていた。


ルーカス様はパーティー会場でも彼女の傍から離れることなく、ずっと彼女の腰に手を添え、寄り添っていた。

そして会場に集まった彼女を意識する男どもを牽制する。

妹を溺愛しているルーカス様の威圧感に耐えながら、パーティー内でお嬢様に話しかける強者は誰一人としていなかった。

パーティー後、誰一人自分に声をかけてくる男性がいないことに、自分はそんなに魅力がないのか・・・・、と少し落ち込んだ様子を見せていた。



お嬢様の専属執事になってから、ゆっくりと月日が流れていく。

今まで以上に彼女と寄り添っていく中で、僕は様々な彼女の姿を目にしてきた。

楽しそうな笑顔や、くやしそうな表情、困った時の小動物のような顔に、守りたくなるような切ない表情。

ずっと一緒にいるからだろうか、そんな彼女のコロコロ変わる表情に目が話せなくなり、次第に子供の時にはなかった別の感情が湧き上がってきた。

しかし僕は、その感情を隠すように彼女の忠実な執事として振る舞っていた。


彼女の存在が僕の生きる意味だった。

彼女は僕を誰よりも頼ってくれて、僕もそんな彼女に応えていった。



ある日、貴族が催す舞踏会にお嬢様が参加しなければならなくなった。

お嬢様は私の前に来ると、


「アラン、この舞踏会は同行しなくていいわ」


どんな時でも常に傍にいた僕に彼女はそう言った。


なぜ?

何かをしてしまいましたか?

どうして・・・・僕を連れていってくれないのですか?


お嬢様の言葉に動揺し呆然としていると、彼女の困った表情が見えた。

ごめんね、そう言い残すと立ち尽くしている僕を置いて、彼女はルーカス様の腕をとり、僕に背を向け歩き出した。


そんなことがあった翌日、寝静まった深夜にルーカス様が僕の部屋へと突然訪れた。

僕は暗い表情を隠さず、ルーカス様へ一礼をとると、部屋へと招き入れる。


「はぁ、そんな暗い顔をするな、今回の舞踏会は王都から大貴族が多く参加するパーティーなんだ」


それがなんだと言うのだ・・・。

僕は黙ったままルーカス様の言葉に耳を傾ける。


「王都の貴族はね、平民と貴族との差がはっきりと分かれているんだ。王都での常識では、貴族の執事はもちろん貴族だ。まぁ平民の執事もいないわけではないが・・・、ともかくアランが舞踏会に出れば、王都からくる大貴族が君に対して酷い態度をとるのは目に見えていた。だから彼女は君を連れていかないと判断したんだ」


その言葉に溜まっていた感情が露わになった。


「そんなこと!!!!!僕は・・・・」


ルーカス様は僕の言葉にかぶせるように


「そう、君ならそう言うとわかっている だから余計に連れて行きたくなかったんだろうね・・・・。僕の妹は他の誰よりも君にとても甘いから・・・」


僕はルーカス様へ視線を向けるが、薄暗い部屋の中でルーカス様の表情を確認することはできなかった。


「僕は部屋に戻るよ」


そう言い残すと、静かに扉が閉まった。



ルーカス様の言葉を噛み締め、僕は貴族について調べ始めた。

お嬢様の重荷にならないように、そして彼女に頼ってもらえるように・・・。


そんな僕の姿をお嬢様は複雑そうな表情を浮かべ眺めていたが、僕の努力を認めてくれたのだろうか・・・、次第に王都の貴族が参加するパーティーへも同行させてくれるようになっていった。

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