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第一章 側近VS執事・真実は(戸籍の男編)

男のゲスな笑い声が響く部屋に、トントントンとノックの音が響いた。

男が扉の方へ目を向けた瞬間、こちらの返事を待たずに扉は勢いよく開いた。


そこにはツインテールのメイドがおびえた様子で扉の前に佇んでいる姿が視界に入った。

その後ろからメイドを押しのけるように男が入室する。


「失礼する」


突然現れた存在に、私の脚を撫でていた手がとまり、侯爵の男は怒りの表情を見せると、現れた男へ鋭い視線を向ける。


「あぁ、誰だぁお前は!!・・・おい、護衛騎士を呼んでさっさとこいつを連れ出せ!!!」


男の怒号が響き渡る。


ソファーへと横たわる淫らな私の姿を確認すると、プラチナの髪をなびかせた男は侯爵の男へ冷淡な視線を向けた。

そして扉の前に立つ男は徐に胸元から眼鏡を取り出し身に着けた。


「お久しぶりですね、侯爵殿」


眼鏡を掛けた彼に見覚えがあったのか、侯爵男はみるみる血の気が引き顔が真っ青になっていく。


「なっなぜ、ガゼル殿が・・・」


おびえた様子で侯爵の男は言い淀んだ。


「私は友人を迎えにきただけですが・・・?どうしてこんな状態に?」


ガゼルはぞっとするような鋭い視線で侯爵の男をじっと見据えると、男は歯をガチガチといわせ震え上がっていた。


「ガゼル様のご友人とは知らず、しっ失礼致しました!・・・誠に申し訳ございません!」


男は慌てて私から体を退かすと、ガゼルの前まで素早く移動し、深い土下座を行った。

ガゼルは目の前で土下座する男の頭を踏みつけると、耳元に顔を寄せボソッと呟く。


「あなた・・・王都で私から受けた罰をもう一度味わいたいのでしょうか?またあのときのように・・・」


「ひぃっ!!!すみませんでした、本当に勘弁してください、許して下さい!」


男は恐怖に震え上がり、ひたすらガゼルの前で頭を床に何度も打ち付ける。

そんな様子に部屋にいた他の者達は、唖然とした表情を浮かべていた。


そんな状況の中、押さえつける力が緩くなったのだろうか、アランは屈強な男たちの腕からすり抜けると、二人を殴り飛ばし気絶させた。

口にかかる布を手早く解き、焦った様子で私の傍へと駆け寄った。

アランは自分の着ていたジャケットを脱ぎ、私をソファーから優しく抱き起こすと、手に持っていたジャケットを肩に羽織らせると、私を優しく包み込んだ。

私を抱き締めると、アランは暗い瞳を浮かべながら、何度も何度も苦しそうな声で謝り続けていた。

そんなアランに、大丈夫よ、未遂だし・・・問題ないわ!と言葉にするが、アランの苦しそうな声は止まらなかった。



ガゼルの登場後、暫くするとアドルフが部屋へと突入してきた。

よかった・・・証拠をつかんだのね!

アドルフは床に頭を打ち続ける侯爵の男の前に立ちはだかると、戸籍売買の動かぬ証拠を突きつける。

男は口を歪め、脱力した様子を見せた後、警備兵に取り押さえられた。

アドルフはジャケットの隙間から見える、あられもない私の姿に痛々しそうな視線を向けた後、項垂れる伯爵の男を蹴飛ばしながら部屋の外へと出て行った。


警備兵が皆、部屋から撤退し外へと向かう中、若い執事が逃げ出そうとする姿が目に留まった。

私は若い執事を追いかけようと、アランの腕をすり抜けようとするが、アランは私を強く抱きとめ、近くに立っていたガゼルへと引き渡す。

ガゼルの胸に収まった私を確認すると、アランは私が向かおうとしていた方向へと走り去っていった。

姿が見えなくなってしばらくすると、逃げていた若い執事を連れてアランが戻ってくる姿が見えた。


私はドレスを拾い上げ、空いている部屋を見つけると、急いでドレスを着なおした。

部屋から出るとそこには、優男の執事が顔を真っ青にしてアランに取り押さえられている姿が目に入った。


「あなたでしょ?主犯は、あの頭の悪い侯爵が戸籍を売るなんて思い付くはずないわ」


「違う、違う・・・俺はしゃべらないから!!!、許してくれ・・・頼む、あぁぁっぁぁぁ」


男は私たちと視線をあわせることなく、誰かに語りかけるように叫ぶと、狂ったような声を上げ、意識を失った。

私は焦って彼の腕に手を当て、脈を確認するが動いていない。


彼が懇願する視線の先に目を向けると、先ほど扉の前でおびえた様子で佇んでいた、黒髪のツインテールの可愛らしいメイドがニッコリ微笑みを浮かべ立っていた。


「初めまして、皆様」


そう軽く挨拶するメイドに眉を寄せる。

メイドは私たちの様子を気に留めることもなく、窓のそばで私たちと距離を保ったまま話続けた。


「あ~ぁ、せっかく良い金儲けを見つけて利用していたのに・・・残念」


まったく悪びれる様子を見せることなく、彼女は窓の淵へと手をかけ身を乗り出した。


この距離から彼女を捕えるのは難しいわね。

しかもこの死んだ男を観察したが、はっきりした死因が特定できていない。

彼女は遠隔で攻撃できるもの・・・そう、例えば毒針のような物を・・・備えている可能性が高いわ・・・、うかつに近づくのは危ない。

私はガゼルの服を掴みながら、アランへ視線を向けると待機するようにと目で訴える。


「まさか執事までここでつかまるとは予想外だったわ・・・、あのバカな侯爵だけが捕まって、あいつヘタレだからね、きっとすぐに執事の存在が明るみにでたとは思うんだけど・・・その捜査が始まる前にその執事を殺して、そして警備兵達は殺された彼を見つける。この事件はそこで未解決のまま終了するはずだったのに、なかなかシナリオ通りには進まないわね」


話す少女を観察するように上から下までゆっくり眺めると、窓へ足をかけた少女のスカートの隙間からチラッと見える赤いタトゥーが目に留まった。


少女は楽しそうな笑顔を浮かべ私たちを見据えていた。


「まぁ、目標の金額も溜まったし問題はないんだけど、それに王都の者が動き出している事もわかったしね、いい収穫だったわ。ふふふ」


少女は可愛らしい微笑みを浮かべガゼルに視線を添わす。


「あぁもう少しあなたを足止めしていれば、私たちの周りをこっそり詮索しているあなたが手篭めにされ、絶望した表情が見れたかもしれないのに・・・はぁ、残念」


残念そうな様子を見せる彼女を私はをじっと見据えると、


「あなた達は何が目的なの?」


少女はニヤリと笑うと、


「そんなの~教えるはずないでしょ~!じゃまたねー!」


少女はそれだけ言うと窓から飛び降り、慌ただしくなっている会場の中へと消えていった。


次はアランについてのお話です。

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