第二十三話 突撃幼馴染
「いやぁ、すまんな。こんなによくしてもらって」
「いえいえ。お二人は、零様の親御さん。こうしておもてなしするのは当たり前のことです」
零とはまた別の部屋に案内された一八と刹那。
広々とした空間に、テーブルと椅子が二つ。
壁には薄型のディスプレイが複数設置されており、そこには零達の様子が映されている。
一八は、湯気たつブラックコーヒーを口にしながら、楽しそうに映像を見詰める。
「あおねちゃん達の方は、ずいぶんとハードなおもてなしなんだな」
「そうね。忍者だからって理由なんだろうけど……」
零以外は、地下迷宮に落とされ、それぞれおもてなしをされている。刹那は、みや達が映るディスプレイへと視線をやりながらクッキーを手にする。
「あら? みやちゃん……いないみたいだけど」
いつの間にかみやの姿は映っておらず、康太と涼だけが映っていた。
「どうやら先に脱出したみたいだな。お前が、メイドさん達と話しているうちにな。ものすごい加速だったぞ」
「えー、それ見たかったんだけど。メイドさん。これ録画とかしてるのかしら?」
「もちろんでございます」
「じゃあ、ディスクにダビングして渡してくれる?」
「かしこまりました」
満足げに笑みを浮かべ刹那は、再びディスプレイに目を向ける。
「それにしても、零ってば成長したわねぇ」
「ああ。話を聞いていた限りでは、あのお嬢さんに押され気味だったようだが……」
息子の成長を嬉しそうに見ていると。
ドゴーン!!!
屋敷中に響き渡るほどの轟音。
その原因をすぐ察した一矢と刹那は、零が居る部屋の映像へと集中する。
「おお、これは楽しくなってきたな」
「修羅場ね。さあ、零。どう切り抜けるか、お母さん達がちゃんと見てるからね!!」
・・・・
「急げ……急げ……!」
みやは走っていた。
どこへ?
決まっている。幼馴染である零のところへだ。
迷宮をいち早く突破したみやは、零の気配を辿り迷うことなく屋敷内を突き進んでいた。
「おっと! ここから先は通行きーーーうきゃあっ!?」
それを邪魔するようにメイド達が姿を現すが、みやは止まることはなかった。
黒いオーラを身に纏いながらメイド達を弾き飛ばしていく。
「止まらない……止まるわけにはいかない……待ってて! 零くん!!!」
「くっ……なんて力……」
「セリルお姉様……申し訳、ありません……」
まったく相手にならないことを悔いるメイド達を気にせず、みやはより強い零の気配を感じとり、曲がり角を左へ曲がる。
道の先には、明らかに周囲とは違う雰囲気の扉が見えた。
「あそこに零くんが……!」
早く助け出さないと。
みやは、扉に手をかけぐっと力を入れる。
だが、鍵がかかっているのか。はたまた何か不思議な力でなのか。びくともしない。
「むう……こしゃくな……!」
こうなったらと右拳に意識を集中させる。
すると、纏っていた黒いオーラが渦を巻きながら収束した。
「やったことなかったけど、できた」
これで、と構える。
「い、いや恥ずかしいですって」
「ふふ。良いではないですか」
刹那。
部屋の中から、零とセリルの声が聞こえた。
「でもですね」
「大丈夫です。私、慣れてますから。皆から大盛況なんですよ。ね? だから」
「じゃあ……どうぞ」
「ありがとうございます。では、じっとしていてください」
「何してるのー!!!」
より一層黒いオーラは大きくなり、振るわれた右拳で扉を粉々に粉砕した。
部屋に足を踏み入れたみやが見たのは。
「もう脱出したのですか……力を使えないように康太くんや涼くんの二人と一緒にさせたのに」
カップを持ったまま硬直した零とスマートフォンを零に向けて構えたまま不機嫌そうに頬を膨らませるセリルだった。
・・・・
これは完全に勘違いされてる。
おそらくさっきの会話を扉越しに聞いていたのだろう。
確かに、会話だけを聞けばいかがわしいことをしようとしているように……聞こえなくもないな。
『うーん、修羅場!』
『楽しそうだな、お前』
俺は、ドス黒いオーラを纏ったみやに驚きつつ、まずはカップをそっとテーブルに置く。
「みや。落ち着いて聞いてくれ。勘違いをしていると思うから、説明する」
「勘違い?」
うわ、明らかに目に殺意が籠ってる。
「別にやましいことはしていないんだ。これはな、セリルさんが写真を撮るのが趣味だってことで、俺のことをだな」
「写真……」
俺の説明に、みやはゆっくりとセリルさんのスマホに目を向ける。
「そうだ。ちなみに、補足すると。俺はお前達が迷宮を突破しようとしている中、普通に菓子を摘まみながら会話をしていただけなんだ」
「ほんと?」
説明しながら、みやを宥めるように近づいていく。
「ああ、本当だ。ですよね? セリルさん」
「ええ。本当です。私はただ零様と親密な仲になりたくて」
「親密な仲?」
ちょ、セリルさん。この状況で、その言葉は。
「そう、親密な仲。幸せな一時でした……凄く積極的で」
「積極的?」
「セリルさん! ストップ! ストッープ!!」
「優しく、甘い言葉で私をーーーむぐっ!?」
これ以上はやばいと思った俺は、強引にセリルさんの言葉を覆うことで塞いだ。
「セリルさん。今は、誤解を解いている最中なのであまり意味深な言葉は」
と、まず口を覆っている手を離してから耳元で囁く。
「あんっ……そ、そんな……耳元で……!」
しまったぁ! またもや選択ミス……!
耳に俺の息がかかったことで、艶やかな声を上げながら身をよじる。
やべぇ……なんか戦闘民族みたいにオーラが増大してるんだが。
「ふお!? みや先輩! なんですかその戦闘民族みたいなオーラは!?」
状況が悪化しているところに、あおねが現れる。
なんだかボロボロだが、元気そうだ。
くっ! こうなったら。
「みや」
俺は、少し移動しみやに叫ぶ。
「なーに?」
「俺の胸に飛び込んでこい!!」
正直、結構焦っていた。
そのため今のみやの状態で、この選択は明らかにやばいということを理解したのは、発言した後だった。
「わかったー!!」
しかし、今のみやもだいぶ精神が不安定であるがゆえに、そのまま駆け出す。
「零様!」
「零先輩!!」
俺のことを助けようと動くあおねとセリルさんだった、それよりも早くみやが物凄い笑顔で、物凄い勢いで、俺に飛び付いてきた。




