第二十話 迷宮でおもてなし
「くおー!! やられたー!!!」
あおねは頭を抱え、腹の底から叫んでいた。
周囲は、真っ白なブロックで囲まれており、進むべき道はひとつ。
その横には、迷宮でおもてなし! と書かれた立て看板があった。
「何かあるとは思っていたが、屋敷に入った瞬間に仕掛けてくるとは」
「まあ、あっちはあくまでおもてなしのつもりなんだろうけど」
あおね以外には、ここね、かむらの二人だけ。
どうしてこうなったのか。
それは、今から一分ほど前に遡る。
セリルに案内され、屋敷に入った瞬間。
床がなくなったのだ。
警戒していたためすぐ反応できたが、それは相手も同じ。零を自分達のところに引き寄せようとしたが、見えない壁に阻まれてしまったのだ。
そして、零と離ればなれになってしまった。
「ここまでの強行手段とは」
「先輩が心配です。おもてなし? 上等ですよ! 迷宮なんてさっさと突破してみせます!! おらー! いきますよー! 二人ともー!!」
「おー」
「いつになくやる気だな、君は」
うおー!! と雄叫びを上げ、あおねは我先にと進んでいく。
「なんと!?」
が、すぐネバネバとしたゲル状のものが飛んできた。
あおね達は、回避したためパイは通過していく。
「さっそく仕掛けてきたな」
「スライム?」
「あんなネバネバしたもの当たりたくないですね」
他に何があるかわからない。
より一層の警戒心を高め、あおね達は進んでいく。
・・・・
「いやぁ、驚いたな。まさか床が抜けるなんて」
「び、びっくりしたね。二人とも怪我してない?」
「俺は大丈夫ですけど……おい、みや。大丈夫か?」
零達と離ればなれになったみや、康太、涼の三人は、互いの状況を確認していた。
「……」
康太の問いかけに、みやは何も答えず沈黙したままだった。
どこか怪我でもしたのだろうか? と二人は顔を見合わせる。
「みや?」
「ね、ねえ。康太くん。気のせいかもしれないけど、なんだかみやちゃんから黒いオーラ出てない?」
「そんなアニメや漫画じゃないんですから……」
ははは、とそんなわけないだろうとみやを今一度確認する康太。
「え?」
が、視界に入ったのは黒いオーラを纏ったみやだった。
「お、おい。みや?」
「え? どった?」
三度声をかけると、黒いオーラも最初からなかったかのように消え去り、いつもの不思議キャラなみやが振り替える。
「あ、いや。お前、さっき」
「見たまえ、諸君! あそこに看板があるぞ!!」
「え? あ、本当だ」
先ほどの黒いオーラのことを聞こうとしたが、みやの発言に阻まれてしまう。
やっぱり気のせいだったのか? と康太は看板のほうに視線を向ける。
「おもてなし、か」
「凄いサプライズだね」
「うむ。まさか屋敷に入った瞬間に、床が抜けるとは……やってくれたね」
「だなぁ。でもまあ、楽しそうだしいいんじゃねぇか?」
「他の人達も、同じ感じなのかな?」
「さあな。人数的に三人ずつで分けられてると思うけど……とりあえず、進むか」
ここで話し合っていてもしょうがないと、康太は歩を進める。
「ふっふっふ。こんなところさっさと突破してやろうぞ!」
「ふ、二人とも! 迷宮だから考えなしに進まないほうが」
「大丈夫っすよ。だって、おもてなしでしょ? さすがに大怪我をするような仕掛けなんてあるわけ」
と、康太が油断しているところに。
「へぶっ!?」
突然ゲル状のなにかがが飛んできた。
それは見事顔面に直撃し、康太は立ち止まる。
「康太くん、大丈夫?」
「……こういうのは普通女子の役目じゃ?」
「そんな決まり、あるの?」
「さあ?」
・・・・
「ふふふ」
「やってくれましたね」
まさか屋敷に入った瞬間とは。
俺は、今セリルさんと二人っきり。
広い個室で、テーブルを囲み、硬直状態。
今から数分前。
屋敷に入った瞬間に、床がなくなって俺と父さん、母さん以外が落ちていった。
ちなみに父さんと母さんは、別室でおもてなしを受けている。
俺が個室に入る前に、笑顔で。
「頑張れ!」
と言い残していった。
何をどう頑張ればいいのか……今のところは、普通にお茶をしているだけだが。
「申し訳ありません。こうでもしないと二人きりでお話できないと思いまして。あなた様の側には常に護衛が居ましたから」
「でも、あんなやり方……みや達は大丈夫なんですよね?」
「ええ、それはもう。今は、彼女達のために用意したおもてなしを受けている最中かと」
おもてなし? 絶対一般的なおもてなしとは違うと思うが……。
「それで、こんなことまでして俺と二人きりになりたかった理由っていうのは?」
「もちろん。あなた様ともっと親密な仲になりたく」
刹那。
俺は身を引く。
「あらあら。そう警戒しないでくださいまし。この前のように襲ったりはしませんから」
「ほ、本当ですか?」
確かに、あの時と比べてまさに聖女様という雰囲気を保っているようだけど。
「あの時の私は、あなた様から感じる聖なる力にあてられて、魅了され暴走してしまいました。ですが、今は自分を戒め、ぐっと耐えています」
「そ、そうですか」
彼女の言葉を信じ、俺は遠ざかった椅子を元の位置に戻し、座り直す。
「あ、どうぞ。お召し上がりください。自信作なんです、そのマフィン」
と、テーブルに置かれた菓子を勧めてくる。
マフィンか。
自信作ってことは、セシルさんの手作りってことだよな。
良い感じの焼け具合とふっくらした形。
甘い匂いが食欲をそそる。飲み物は、紅茶のようで、これもセシルさんが用意してくれたものだ。
(さすがに、何かを入れてるってことはないよな)
大丈夫、と言われてもやはり警戒してしまう。
俺は、ノーマルなマフィンを手に取り、しばし見詰める。
「……はむ」
期待の眼差しを向けられながらも、俺は意を決しマフィンを口にする。
「お?」
「どうでしょうか?」
「美味しい、です」
正直、マフィンはスーパーで売ってるようなものしか食べたことはなかったが……手作りだとやっぱり違うな。
「よかったです。まだまだありますので、どうぞお召し上がりください」
なんだか、本当にただおもてなしをされているだけだな。
……警戒し過ぎだったか。
『まあ、あんなことがあったからしょうがないさー』
だよな。
とりあえず今は、素直にセシルさんのおもてなしを受けよう。
「……マジか」
マフィンを食べ終え、紅茶を口にしようとした時だった。
『ついに来たね』
それは突然に。
授かった能力がそろそろレベルアップするようだ……。
レベル二から大体二ヶ月? 遅くなりましたが、そろそろレベルアップです。




