第十一話 バッサリ聖女様
「……なんだこれ」
俺は、目の前の光景に頭を抱えていた。
皆で、新しくできた大型レジャー施設に遊びに来たのだが……流れるプールに行ってくるぜ! と宣言した親友を見つけた。
……海パンをズリ下ろされ、うつ伏せに倒れた状態で。
周囲に誰もいないのが幸いだが。
「おい、康太。何があったんだ?」
まずは、海パンをぐいっと上げてから康太を助け起こす。
「ふっ……最近の悪ガキ共は、やんちゃが過ぎるぜ」
と、苦笑い。
「子供にやられたってことか?」
「ああ……そして、言われたぜ」
「なにを?」
「うわ! 僕と同じぐらいだ! ってな」
……あ、うん。
俺は、なんとなく察した。どこか遠い目で、天井を見上げている康太の目からは、キラリと光る涙が流れていた。
「女の子に言われるなら、まだしも。あんな子供に馬鹿にされると……きついぜ」
のそりと立ち上がる康太は、やれやれと呟く。
「童貞を卒業しても、変わらないものは変わらない……こんな俺を受け入れてくれる女子はいるのかね……」
「どこかには、居るんじゃないか?」
「……そうだといいな。じゃあ、俺はちょっくら男を磨いてくるぜ」
「お、おい。どこに行くんだ?」
「度胸試しさ」
戦場へ向かう戦士かのような顔で、康太は歩き出す。
「……いや、だからどこに行くんだよ」
「トルネードじゃないですかね」
「もしくは、ナンパ?」
焼きそばをずるずると食べながら登場するあおねとここね。
まだ昼は早いぞ。
ちなみにトルネードとは、この施設にあるウォータースライダーのことである。
ぐるぐると何回も回り、徐々にそれは小さくなっていく。外から見たら、まるで竜巻。
一人で滑るのもよし。
二人で体をくっつけながら滑るのもよし。今もなお、あの竜巻の中からは悲鳴のような、しかしどこか楽しそうな声が響いている。
「康太がナンパか……」
想像できないな。確かに女には飢えているが、それはいつものこと。あれだ。女子を見たらつい興奮してしまうやつ。
康太の性格ゆえに、童貞を捨ててもなお継続しているようだが。
「ところで、先輩。食べます? ここの焼きそば美味しいですよ」
具だくさんの焼きそばが入った容器をずいっと差し出してくるあおね。
「いや、いい。それよりこっちに来たってことはなにか問題でも起きたのか?」
俺は、康太のことが気になり一旦離れた。
その間は、セリルさんとエルさんのことを見張っていてくれるように頼んだのだ。
「いえ、別に」
「普通に焼きそばが美味しそうだったから」
「あ、そう」
とりあえず、戻るか。
・・・・
「ほほう? 度胸試しとな?」
「男の子ねぇ。ということは、あのウォータースライダーに行ったのかしら?」
戻ってきてそうそうセリルさんは体を寄せてくる。
自然に。
他意はないと言わんばかりの距離感で。
しかし、俺には明らかに自分の体を見せつけているように感じる。
「トルネード! ですな!」
そして、これまたみやが強引に間に入ってくる。
「度胸試しって言ったら、そこしかないからな。ところでかむらは?」
みや達は、しばらく波のプールでまったりとしていたようだ。
「泳いでくるって言ってましたね」
「あの様子だとたぶん本格的な泳ぎをするつもりなんじゃない?」
となると、おそらくかむらが居るのはトレーニングルームか? ここにはそういう場所があったはずだし。
「まあかむらちゃんなら大丈夫ですよ」
「だな。さて、俺達もそろそろ遊ぶか」
ちなみに、慶佑と優菜さんは別のアトラクションに二人仲良く……いや、優菜さんが慶佑を無理やり連れていった。
そのためこの場に居るのは、俺、みや、白峰先輩、あおね、ここね、セリルさん、エルさんの七人。
端から見たらハーレムみたいに見られるだろう。
というか、完全に見られてる。
四方八方から突き刺さる殺意の籠った視線がな。康太、慶佑……こういう時になんで居てくれないんだ。
「おい、あそこ」
「うお、レベル高っ!」
「声かけてみるか?」
「待て、男が居るぞ」
「おいおい、しかも一人か?」
一人じゃないんだ。俺の隣にもう一人可愛いけど、性別的には男の人が居るんだ。
まあ、今の格好でそんなことを言っても信じてくれないだろうけど。当の本人は、ずっと周りを気にしている。
他の知り合いはいないか。
正体がばれないか。
なんで自分はこうなってしまったのか。
色々と頭の中で悩みながらおろおろと。
「ねえ、君達」
おっと、勇気ある者達が話しかけてきたようだ。
「俺達と遊ばない?」
「うはっ! 美の化身が六人も!」
「うわぁ、よくありそうな言葉ですね」
「ナンパかね? 久しぶりにされましたな」
声をかけてきたのは、おそらく大学生。
四人組で、先頭に居るのは金髪オールバックに顎髭を生やしたいかにもな男。
その後ろに、サングラスと小太りとマッチョ。
能力で確認したが、四人とも彼女はおらず、性行為をしたことがないのは小太りの男だけのようだ。
先頭の金髪は、なんともマニアックなプレイをしているようで。おそらくサディストだな。
マッチョは尻好き。
サングラスは……脇フェチか? なんだこのマニアック集団は。
明らかに小太りの男は、数合わせに見える。
「あら? なんでしょうか」
声をかけられたのはセリルさん。
振り返った時に、ぶるんと揺れる胸に金髪は反応する。
「だから、暇なら俺達と」
「お断りします」
「え?」
一刀両断。
まるで切れ味が凄い刃で切られたかのような感覚。
笑顔で、きっぱりと断ったセリルさんに男達は呆気にとられていた。
「は、ははは。手厳しいなぁ。でもさ、そこに居る坊主よりは」
「きえ、あ、いえ。お断りします」
うーん、これまたバッサリと。
というか今何かを言いかけなかったか? きえって。まさか消えろとか? ……いやまさかな。
「お、おぉ……なんだかわからないけど。凄いプレッシャーだぜ!」
まるでバトル漫画の登場人物かのような台詞を吐くみや。
それだけ彼女の圧が凄いってことだ……俺もつい言ってしまいそうだったからな。
「ま、まあまあ。人数が多い方が」
「皆ー。あっちの流れるプールにいきましょー」
サングラスの男も会話に参加したが、これもバッサリ。
セリルさんは踵を返し、引率のお姉さんかのように俺達に言ってくる。
「さあ、零くん。お姉さんについてきてね? ……じゅる」
え? 今、じゅるって聞こえたような。
「こらー! 離れろー! 零は私のだぞー!」
どうやら、あそこまでバッサリ言われると男達も愕然。
見ていた他の男達も、これで相手は手強いという認識しただろう。
それと同時に……俺への殺意が増した。
「人気者はつらいですね」
「嬉しくない……」
「がんば」
疲労で倒れそうだ……。
「ね、ねえ。さっき美の化身が六人もって言ってたけど。それって、僕も入ってたり?」
苦笑いする俺に、白峰先輩は立ち尽くす男達を見ながら問いかけてくる。そういえばそんなこと言ってたな。
「でしょうね。今の先輩は、どう見ても美少女ですし」
「もっと自信を持ってください!」
「例えるなら、渚に降り立ったプリティガールってところですかな」
「うぅ……早く着替えたい」
さすがに水着はまだ難易度が高かったようだ。
とはいえ、顔を赤くし、うつ向く白峰先輩は、まさに女子そのものだった。




