第六話 唐突な質問
なんとか宿題を終わらせた。
正直、いつもより間違いが多いかもしれない。
とはいえ、やることはやった。
もし間違っていたとしても、さほど問題はない……うん。
康太の方もそろそろ終わると言っていた。
夏休みが始まってまだ五日。
明日からは、全力で遊ぶことができる。
それにしても、高校生になってからと言うもの疲れることばかり。
夏休みぐらいなにも考えずに高校生らしくエンジョイしたものだが……。
「あら? こんにちは、零くん」
そうもいかないのが、この世界。
いや、俺の運命。
昼食を食べた後に、軽く散歩するついでに買い物でもしようとスーパーへ向かっている最中だった。
セリルさんとエルさんに出くわす。
手を繋ぎ、仲の良い姉妹のようだ。
「こんにちは。今日もエルちゃんと一緒なんですね」
実年齢が俺より上だとわかっているので、どうもちゃんづけに違和感を感じる。
「そうなの。エルったら、妙に外に出たがるの。子供らしくて微笑ましいんだけど、この子喋れないから」
「なるほど。何かあった時のためについているってことですか」
「まあ、それもあるけど。私も散歩は嫌いじゃないから」
こうして話しているとおっとりとした年上美人なのだが。
……何度見ても凄いギャップだ。
こんな美人が、年端もいかない子や七十の老人と性行為をしているなんて。
まあ、あれから何も増えていないことから想像するに。
もしかしたら、何か訳があってやっただけ、なのかもしれない。
うん、そう思おう。
「ところで」
「え?」
他愛のない話をしていると、セリルさんは突然俺の右手を包むように握ってきた。
「零くんは、年上の女性はお好き?」
急になにを聞いてくるんだこの人は。
その表情は、外面だけならば先ほどと変わらずおっとりお姉さんだが、なんだろう……何かを我慢しているように見える。
「それは……どういう意味なんですか?」
「他意はないの。ただ純粋に、一人の女として、男の子の好みを知りたいだけなの」
いや、完全に他意ありありなんですが。
まさか、狙われてる?
いったい何を企んでいるんだ?
あおねからの情報だと、狙われていることだけしかわかっていない。
それに彼女が俺のことを狙っている西の一員とは限らない。
「……嫌いではないです」
「まあまあ。では、もうひとつ」
「は、はい。なんでしょうか?」
まだ聞いてくるのか。
今度はなんだ? と身構える。
「あ……いえ、お尻に興味は?」
なんだその質問は。
え? というかなんか言いかけなかったか? この質問の意図はなんなんだ?
ほとんど他人な俺に、なぜ? い、意味がわからない。
「えーっと、考えたことがないので」
「で、では……はあ、はあ……」
おいおいおい、なんか息が荒くなってきたぞ。
この夏の暑さのせいだよな? そうですよね?
「あら?」
このままどうなってしまうんだ? と思っていると、携帯が鳴る。
俺のじゃない。
どうやらセリルさんの携帯のようだ。
「あの、鳴ってますよ?」
「……こほん。少し待っててね」
律儀に一礼をしてから、少し俺から離れ通話ボタンを押す。
「……」
「……」
なんで俺待ってるんだろ。
いつの間にかエルさんは、俺の隣に立っていたし。
「なるほど。はい、では」
通話はさほどかからなかった。
話が終わり、再び俺のところに戻ってきたセリルさんは、さっきの興奮気味な感じからおっとりへと戻っており、エルさんを見てから口を開く。
「ごめんなさい、零くん。この後、予定とかある?」
「いえ、特には。まあ、買い物に行くぐらいですかね」
「なら、少しの間だけで良いんだけど。エルと一緒に居てくれないかしら?」
エルさんと? なぜそんなことを。
「実は、急な用事ができちゃって。本当に少しの間だけでいいの」
「他人の俺に任せて良いんですか?」
「大丈夫。だってほら」
と、笑顔でエルさんのことを見る。
「零くんのこと気に入っているみたいだから」
その証拠に、俺の手を握っていた。
こうして見ると、小さな子供にしか見えないんだけど……。
「……わかりました」
「ありがとうね。用事が終わったら連絡するから……はいこれ。私の連絡先。それじゃ、エル! 良い子にしてるのよ!!」
了承すると、いつ書いたのか。
連絡先が記されたメモ用紙を俺に押し付け、足早に去っていくセリルさん。
その後ろ姿をエルさんと一緒に見送った後、俺はどうしたものかとその場に立ち尽くす。
「……アイス、食べるか?」
考えた末に発言した言葉に、エルさんはこくこくと首を縦に振る。
「じゃあ」
「私も食べる」
近くのコンビニでも行こうかと思った刹那。
空いている左手をここねが握りしめた。
こんなにも暑い日なのに、格好はいつもと変わらず。猫耳が生えたフードにマスクをしている。
そういえば、今日はここねが監視役だったな。
「……」
「……」
俺を挟み、無言のまま二人は見詰め合う。
「そ、それじゃあ行くか」
ここねは、彼女が危険だと思って接触してきたんだろう。
「あ、ついでにからあげも食べたい」
決して、お腹が空いて、俺に買ってもらおうとか。そう思って接触してきたんじゃ……ないよな?




