第三十五話 終わりはないのか?
景色は一変し、広がるのは障害物が一切ない隔離された空間。
そんな空間で、先に結界に閉じ込められた【欲魔】が暴れていた。
「まったくもう……やってくれたわね」
衛藤先輩の姿で【欲魔】は、手に青白い光を放出させ、細長い刃に構成させた。
「さっきまでの余裕がなくなったようだな」
かむらは、慌てることなく刀についている鍔だけを手に持つ。
鍔だけでなにを、と思っていると。
「あなたを倒してここから出てやるわ!!」
【欲魔】がこちらへ近づいてくる。
「かむらっ」
「慌てるな」
迫る凶刃。
かむらは、顔色ひとつ変えず……それを弾き飛ばす。
いったいなにで?
よく見ると、鍔から相手と同じく青白い刃が生まれていた。
「この!」
空中で体を捻り、その勢いのまま再び刃を振るうも簡単に回避する。
そのままかむらは、容赦なく【欲魔】の顔面に強烈な蹴りを入れた。
「あぐっ!?」
覚悟をしていたが、見知った人がなぶられるのは堪える。
それが偽物だとしても。
「安心しろ。すぐ終わらせる」
俺の気持ちを理解してくれたのか。かむらは、小さく呟くと吹き飛んだ【欲魔】を追い、瞬間移動をしたかと錯覚する速度で駆ける。
【欲魔】は、先ほどの攻撃の衝撃でなのか。
擬態が解かれ、本来の姿に戻っていた。
初めて見たが、あんな姿をしていたのか。
まるでマネキンのようなだ。
目も、鼻も、耳も、口もある。
だが、色がない。そのせいで、謎の不気味さが出ており、改めて本当に人ならざるものなんだと認識した。
「お前は、確かに強い。だが、相手を舐めすぎだ」
かむらは、トドメをさすために刃を振るう。
「あなたもね!!」
しかし、近づいてきたかむらに【欲魔】は、青白い刃を伸ばし。
「かむら!?」
かむらの体を貫いた。
そうか。
わざと隙を作ってかむらを誘ったってことか……!
【欲魔】は、やってやったとばかりに、笑みを浮かべる。
「馬鹿め」
「え?」
が、いつの間にか首を飛ばされていた【欲魔】は短く声を漏らす。
そして、すぐ光の粒子となって四散し、完全消滅した。
「え? え? か、かむらが二人?」
俺は、幻覚でも見ているのか? と何度も瞬きする。
「分身だ。忍の十八番という奴だ」
刺されたかむらの分身? は、腹に穴が空いているのにも関わらず何事もなく普通に喋っている。
うわ、血も普通に出てる……ほ、本当に分身なのか? というかどっちが分身だ。
「今回の【欲魔】は、擬態能力は高かったが戦闘に関してはまったくの素人だったようだ。念には念をと結界の中に閉じ込めたが、これなら閉じ込めずに仕留められたな」
鍔から伸びている青白い刃を消すと同時に、腹に穴が空いていたかむらも消える。
そっちが分身だったかぁ。
「……なあ、かむら」
「ん?」
これでもう被害は広がらずに済むはずだ。
少し安心した俺は、かむらに気になっていることを問いかけた。
「【欲魔】は……これからも増え続けるのか?」
「そうだな。奴らは欲から生まれる存在だ。この世から欲がなくならない限り、奴らは増え続けるし、強くなり続ける」
欲から生まれる存在。
ということは、永遠に増え続けるってことじゃないか。欲をなくすなんて不可能に近い。
もし欲がなくなったら、生物は生きていけない。
食欲がなくなれば、食事することを止め、栄養が取れなくなり、時期に餓死する。
性欲がなくなれば、子孫が増えず、時期に死を迎え、生物はいなくなる。
欲は、生きていくうえで必要なものだ。
なくそうと思ってなくなるものじゃない……。
「ある意味、自分達はこの世の摂理と戦っているようなものだ。終わりなど、ないのかもな」
「……つらくないのか?」
つらくないわけがない。
かむらも自分の戦いは、終わりがないと理解しているのだから。
「つらいな。だが、誰かがやらねばならない。奴らを倒せる力があるのなら、極限まで高め、最後まで戦い続ける。……それが自分が進む道だ」
「凄いな、かむらは」
まだ十三歳なのに、この覚悟。
住む世界が違うってのは、こういう感じなのか。
『まあ、実際住んでる世界は同じなんだけどね』
『そういう意味じゃねぇよ』
というか勝手に人の思考を。
こいつは、本当にもう……。
「君もな」
「俺?」
「一般人にも関わらず、戦場に堂々と立つその精神力。腹を刺されたり、首が飛んだ光景を見た後で、普通に会話をする奴を凄いと言わずなんと言う? それとも、ただの阿呆なのか?」
そ、そう言われて見るとあんなグロイ光景を見た後で、普通に会話している俺って……。
『零の精神力は普通じゃないからねー。なんてたって、神々のご加護を受けし主人公なのだからー』
もはや慣れすぎて、キュアレの言葉に納得してしまう俺であった。
「ははは。自分でも実は普通じゃないって思い始めてたり」
と、頭を掻きながら苦笑いをする。
「だろうな。普通だったら、あおねやここねも君にあれほど興味を持つはずがない。……自分もな」
最後にぼそっと呟く。
小さく言ったつもりなのだろうが、しっかりと聞こえた。
「え? それって」
思わず聞き返すと、かむらは素早く背を向ける。
「なんだ、変なことを言ったか?」
「いやさっき」
「結界から出るぞ!」
「あ、ちょっと」
まともな会話をする暇もなく、俺達は光に包まれた。
おそらく、次回かそのまた次回で二章は終わります。




