第三十一話 悪は許さない
「ん?」
次なる勝負の場所に向かっている途中で、ズボンのポケットに仕舞っていたスマホが何かを受信したようで震える。
今回の作戦において、緊急事態がない限り連絡は入らないことになっていた。
ということは、なにかがあったと言うことだ。
目的地までは、もう少しかかる。
とりあえずは。
「かむら。ちょっといいか?」
「なんだ?」
「少し、ここで待っててくれないか?」
「……ああ、わかった。早く済ませるのだぞ」
「あ、ああ」
まだ何をするのかを言っていないのに、了承を得た。
話が早いのは助かるが。
すぐ戻ってくると伝え、俺は近くの店へと入っていく。そして、そのまま出入り口近くにあるトイレへと駆け込んだ。
そして、個室へと入り、すぐスマホを確認する。
「……マジか」
メッセージには、みやが近くに来ていることが記されていた。
それを今は、あおねがなんとか食い止めている状況のようだ。
『おー、もしかして浮気をしていることを察したのかな?』
『浮気じゃないって。てかなんで浮気なんだよ。俺はみやとは付き合ってないだろ』
しかし、これはやばい。
みやとかむらが出会えば、この前のように……いや、もしかしたらこの前以上のことになるかもしれない。
『どうするん?』
どうするって……。
『ともかく、今はあおねを信じるしかない。俺は、かむらとの勝負に集中する』
『私もずっと見てたけど。今のところ好感度はちょっと上がったぐらいだね。やっぱりゲームのようにはいかないねー』
『当たり前だろ……てか、恋愛の神様なんだから。何かいい助言とかはないんですか?』
と、俺はあおねに引き続き頼むとメッセージを返しつつ、傍観している恋愛の神ことキュアレに問う。
『ふっ、その言葉を待っていた!』
お? なんかいいアドバイスをくれるのか?
『……』
『……』
『……えーっと』
おい、まさか。
『これか? いやいやこれかな』
こいつ、なにかで調べてる!?
『お? これがいいかな。いいかね? かむらちゃんのようなツンツンした子の好感度を上げるには』
『上げるには?』
『挫けず! 頑張ろう!!』
『……』
『さすれば、彼女もその気持ちに応えてくれるでしょう』
前々から思っていたが、やっぱりこいつ恋愛の神じゃないだろ。
アドバイスが雑すぎやしないか?
『ああいう子は、変化球よりもストレートの方が効く。うん、間違いない』
『野球の話か?』
『違いますー。ともかく、何かあったらアドバイスするから。がんばっ!!』
応援してくれるのは嬉しいが、もう少し頼りになるアドバイスをしてほしかった。
まあ、もしかしたらさっきのは恋愛の神だけが持っている必勝本みたいなもので調べていたかもしれない。
うん、そう思おう。
「さて、そろそろ戻らないと」
恋愛の神のありがたいアドバイス? を受けた俺は、スマホをポケットに仕舞う。
一応、したような思わせるためにトイレの水を流す。
用を足していないが、手を洗い、そのままトイレから出ていく。
「ん? なんだ」
待たせているかむらのところへ向かおうと店から出ると、野次馬のようなものができているのを目撃する。
なんだか嫌な予感がした俺は、足早に近づく。
「だ、だからなんでそんなこと」
「やましいことがないのなら、見せられるはずだ。そのバッグの中をな」
やっぱりかむらが騒ぎの中心に居た。
何やら太めの男が何かをしたのか威圧されている。かむらの後ろには、おそらく大学生ぐらいの綺麗系の女性二人が怯えた様子で身を寄せ合っている。
一人は、黒髪ロングで、二人目もロングだが、茶髪でウェーブがかかってる。
「お、おい。どういう状況だ? これは」
「ああ。ようやく来たか。なに、ただ悪行を働いていた奴が居たのでな」
「悪行?」
「だ、だから俺は何も」
男はスポーツ選手がよく持っているようなバッグを守るように抱きながら否認している。
状況から考えるに、かむらの後ろに居る二人に、男が何かをしたのだろう。そして、その何かとはおそらく……。
「まったく……自分もあまり目立ちたくはないのだが」
確かに、今もなお人が集まってきている。
人というのは、自然と騒ぎの中心に集まってしまう。それが最初小さなものだったとしても、人が人を呼び、大きくなっていく。
「なら、もし自分が言ったことが間違っていたら、謝罪として君の言うことをなんでも聞いてやろう」
「お、おいかむら。それは」
俺は、止めるように言おうとするが、かむらは手で制す。
よほどの自信があるからの言葉と態度なんだろうが……。
「マジか」
「なんでもって」
「リアルで聞いたの初めてだ」
案の定、野次馬がざわめく。
かむら……余計に目立ってるぞ。
正義感があるのは理解しているが、意思と言動が合ってないぞ。
「……わ、わかったよ」
男もさすがにこれ以上目立つのを避けたかったのか、抱いていたバッグを地面に下ろす。
そして、バッグの中に手を入れようとするが、かむらが止める。
「待て。自分が出す」
「な、なんで! これは俺のものだぞ!」
男の言い分は理解できる。他人に自分のものを触られたくないというのは、当然の考え。
「だったら、手を突っ込まず、中身を出してもらおう」
「……くっ」
男は、観念したかのようにバッグに手を突っ込まず、そのまま裏返すことで中身を出す。
出てきたのは、タオルに上着などの布ものばかり。しかし、ひとつだけ違うものがあった。
「カメラ?」
黒色のビデオカメラ。
やっぱりそういうことか。
「中身を見させてもらうぞ」
「……」
男はもはや反論することなく、ただただ黙っている。かむらは、ビデオカメラを手に取り、映像を再生する。
それを観たかむらは、やはりなと呟き、後ろに居た二人にその映像を確認させる。
「こ、これって」
「どうだ?」
「う、うん。私達の……」
怯えるように、そして少し恥ずかしそうにスカートを押さえながら答える。
「どういうことか、説明してもらおう」
どうやら、俺がトイレに行っている間に、男はバッグの中に仕込んでいたビデオカメラで、女性二人の下着を盗撮していたらしい。
そのことに気づいたかむらは、最初は穏便に済ませるため、静かに男へ問い詰めたのだが、いくら問い詰めても否認を続け、挙げ句の果てに逃げ出そうとした。
が、一般人が忍者であるかむらから逃げられるはずもなく、あっという間に回り込まれ、盗撮されていた二人も異変に気づき、野次馬も自然と集まってきた。
男はその後、通報した警察によって連行され、かむらは盗撮犯を捕まえた勇気ある少女として女性二人から感謝された。
「ふん。感謝されるのはいいが、なぜ頭を撫でられたのか」
そう。
かむらは、女性二人に感謝された時、頭を撫でられたのだ。
「子供だって思われたんじゃないか?」
「自分のどこが子供なのだ。自分はもう立派な大人だ」
確かに、ある一部はもう立派な大人だがな。
「それにしても、あの男は往生際が悪かった。しかも、あんな言い訳をするとは」
「あぁ……あれか」
盗撮犯は、警察に連行される時にこんな捨て台詞を呟いたのだ。
「あんな短いスカートを穿いているのが悪いんだ……」
と。
「さて、少し予想外のことはあったが」
「ああ。次の目的地に向かおう」
気のせいかもしれないが、どこか柔らかい雰囲気となったかむらを連れ、俺は次なる勝負の場所へと向かった。




