第二十二話 言えない悩み
六月もそろそろ終わりか。
なんかあっという間だった気がする。
六月が終われば、七月。
学生であれば、待ちに待った夏休みが訪れる時期だ。まあ、その前にテストがあるのだが。
テストで赤点をとってしまえば、楽しい楽しい夏休みも補習という悪夢で潰されてしまうだろう。
俺は体験したことはないが、体験した者達から聞いた話だと、いつもは人が密集している教室がガラガラで、そこで数人だけ真面目に勉強をしているのは、まさに地獄らしい。
しかも、それが夏休み。
自分は勉強している時に、他の生徒達は学校から解放されたかのように夏をエンジョイしているんだろうなという想像をしてしまう。
雲一つない晴天だったらなおさらつらくなるとか。
まあ、自慢ではないが、俺はそれなりに勉強ができるほうなので、問題はない。みやも、あんな感じだが成績は学年トップクラス。
問題は、康太だ。
ここ最近は、それなりに勉強を頑張っているようだが、それでも五分五分と言ったところか。
「そんなわけで、期末テストに向けて今度勉強会を開こうかと思うんだが」
東栄生四人組で仲良く食堂で昼を食べている時。
康太が、真面目な表情で切り出す。
「いいんじゃないか。最近、俺も勉強できてないからな。不安を少しでも無くすためにやるか」
キュアレと同棲するようになってからは、一人で居る時間が少なくなった。
先ほど問題ないと言ったが、不安がないと言えば嘘になる。
これまでなんとか勉強をしていたし、成績だって普通より上を維持しているが、もしもってことがあるからな。
「白峰先輩も協力してくれませんか!」
「うん。僕で力になれるなら協力するよ」
「あざーす!」
「おーし! 皆で夏をエンジョイするために、頑張るぞよー!!」
「おっしゃあ!! キラキラの夏が俺を待ってるぜー!!」
元気に叫ぶみやと康太を見て、俺と白峰先輩は小さく笑みを浮かべる。
今年の夏は、何が起きるのか。
俺がこの世界のことを知ってからというもの、日常が変化した。
今の状態でも、かなりぶっ飛んでいる感じだから、夏なんてどうなるか。
よく夏には魔物が住むだとか、そんなことが言われているが。
この世界だとマジな魔物が居そうだよな……。
特に海の中とか。
幽霊だってそうだ。マジもんの幽霊が墓地を漂っているなんてこともある。
「……」
「どうかした? 零くん」
みやと康太が、夏だったら! という話題で盛り上がっている中。俺はとある人物へと視線をやる。
それに気づいた白峰先輩も、釣られて視線を向けた。
「あっ、木村先生だね」
「はい」
そこに居たのは、隅っこで昼食を食べている木村先生だった。
いつもだったら弁当なのに、最近は食堂の料理ばかり。
ちなみに、俺はどうしてそうなっているのかを知っている。これもまた偶然見つけてしまったのだが。
木村先生が食べていた弁当は、衛藤先輩が作ってきたものだったのだ。
「先輩。最近、木村先生元気なさそうですよね」
「そう、だね。ここ最近は、更に悩み事が増えた感じで、壁にぶつかったりとかしてたよ」
「あー、それ。俺も知ってます。同じオタク仲間の先輩から聞きましたよ。五月の中旬頃から、様子がおかしかったらしかったようですけど。最近は、マジでおかしいって」
やっぱり衛藤先輩関係だろうか。
精神も大分不安定になっているようだ。
最近は、それどころじゃないほど濃いことが起きて忘れかけていたけど、どうなっているのか。
「うーん、大人な悩みごとですかね?」
きらりと、鋭い目付きで言うみや。
まあ、うん。
大人な悩み、かな。
他人には絶対言えない大人も大人な悩み。もし、ばれたりしたら色々とやばいことだ。
「ほほう? 恋の悩み、とかか?」
康太は、適当に言っている感じがあるが、当たっているから否定できない。まあ、肯定しないが。
「木村先生だって悩むことぐらいあるだろ。あんまり変な考えするなよ」
「わーってるって。俺もあんな顔を見たら心配になるけど。ただの男子高校生にどうにかできる問題じゃなさそうだしな。あの様子だと」
と、カツ丼を口の中に掻き込む康太。
「相談ぐらいは乗れると思うけど……話してくれそうにないよね」
「どうしてだ?」
みやの言葉に俺は問う。
本当のことを知っている俺から言わせればそうだろうと思うところだが。
「仲の良い二年の先輩がね? 心配になって相談に乗りますよって言ったらしいのだよ。でも、大丈夫だよって軽く受け流されたんだって」
まあそうだろう。生徒と秘密の付き合いをしていて、その生徒との関係で悩んでいるだなんて、口が裂けても言えるはずがない。
……衛藤先輩も近くに居たか。
木村先生から大分離れた席に衛藤先輩がぽつんっと座っていた。
弁当を広げているが、中々進まない様子。
それもそのはずだ。
木村先生のことが気になってしょうがないのだ。
「……細くなってる」
「なにが?」
「あ、いやなんでもないですよ。それより、最近先輩が輝いているように見えるんですが」
「あっ、それ俺も思った! なんかこうオーラっていうのか? そういうのが変わってきてるよな」
「そ、そう? ……たぶん、皆のおかげ、かな」
「どういたしましてー!!」
「わっ!? み、みやちゃん。声大きいよ」
なんとか回避した。
そんな中で、俺は再び能力を使う。
あの時は、まだ大丈夫だったが、二人を繋ぐ線が今では大分細くなってきている。
このままいけば二人は……とはいえ、俺にどうにかできる問題じゃない。毎度のことだが、見守る他ないのだ。




