第十九話 動き出す忍
「……」
俺は、つい数分前に起こったことを考えながら帰宅していた。
今までは、確かにそれなりに非現実なことが起こっていた。
幼馴染が二重人格だったり、忍者が居たり。
まあ、初っぱなから神様が現れている時点で、あれなのだが……。
神様があんな感じなので、とりあえずなかったことにして。
今回は【欲魔】という悪魔的な存在が現れた。
しかも、そいつは俺のことを狙ってきた。
ターゲットが一番性欲が湧きそうな人物に擬態するというとんでもない奴だ。
俺も、最初は気づかないぐらいに完璧な擬態。
キュアレの指摘と能力があったからこそ、気づけたが……普通だったら、偽物なんて気づかないぐらいに本人になりきっていた。
顔も、仕草も、声も。
もし、俺が普通の人間だったら。
能力がなければ、簡単に騙されてあのまま……。
「けど、どうして助かったんだ」
俺には見る能力はあるが、戦闘能力はない。それなりに身体能力はあるが、忍者や悪魔のような明らかに強い存在と戦えるほど強くはない。実際、あの悪魔に組み伏せられた時はまったく抵抗できなかった。
だが、あの【欲魔】は消滅した。
原因は、俺の生命力を吸ったからだろう。
……俺って、やっぱり普通じゃないのか?
「零?」
森を抜け、だんだんと人気のある街中を歩いていると、ここねと遭遇した。
一瞬だが、なにか焦っていたように感じたが、いつも通り感情が読みにくい雰囲気で近づいてくる。
「ここねか。どうしたんだ?」
「ちょっと散歩。零こそ、こんなところで何をしてたの?」
「俺は」
なんて言う? さすがに、さっきのことは忍者であろうと知らない、はず。
だが、ここね達は俺のことを疑っている。
自分達の正体に気づいているんじゃないのか? と。
もしかしたら、あの【欲魔】という存在のことを知っているかもしれないが、今は。
「散歩だ」
「こんなところまで?」
「ここねこそ人のこと言えないだろ?」
「そうだね」
何事もなかったかのように振る舞うのが最善。
「俺は、もう帰るけど。ここねはどうする?」
「私は、まだ散歩してる」
「そっか。あんまり遅くならない内に帰るんだぞ。じゃあ、また」
「うん」
と、俺はそのまま立ち去ろうとここねの横を通り過ぎようとした。
「零」
しかし、すぐ服を掴まれ無理矢理止められる。
「どうした?」
「……やっぱりなんでもない。またね」
「ああ」
何かを言いたそうにしていたが、何だったんだろうか。
やはり、俺に何かがあったことを気づいている?
俺は、ここねのことが気になったが、その場から去っていく。それから、何事もなくアパートに辿り着いた。
そういえば、ずっとキュアレが静かなままだったな、と思いつつ玄関のドアを開ける。
すると、奥の方からドタバタと騒がしい音が響く。
「ただい」
「うわあああん!!!」
「くおおっ!?」
予想はしていたが、キュアレが勢いよく飛び出してきた。
そのまま俺に突撃し、勢いを殺せなかった俺は閉めたドアに背中を思いっきり叩きつけられる。
うおっ……息が。
「よかったよぉ!! 無事でよかったぁ!!!」
まるで子供のように泣きじゃくるキュアレの声を聞きながら、詰まった息をなんとか整える。
「あのなぁ……心配してくれるのは嬉しいが、うるさい」
「ひどい!? こんなに心配してたのにぃ!!! うわあああんっ!!!」
マジでうるさい。
とはいえ、それほど心配してくれていたという証拠だ。俺は、キュアレを安堵させるためにそっと頭に手を置く。
「まあなんだ。心配してくれてありが」
「零がいなくなったら、誰が私のごはん作るのー!!!」
「……いや、自分で作れよ」
「はぶっ!?」
余計な一言に、俺は頭から頬に手を移動させ、無理矢理キュアレを引き剥がす。
「とりあえず離れろ。俺は色々と疲れてるんだ」
「そうだね! それじゃあまずはお風呂に」
「そうだな。風呂に入って疲れを」
「入ってくるねー」
「お前、俺のこと本当に心配してるのか?」
・・・・
「【欲魔】が倒されたようだ」
月が闇を照らす中で、かむらは言う。
それを聞いていたのは、あおねとここねの二人。
「倒したのは、君達のお気に入りである明日部零。しかも、自分がようやく見破った【欲魔】をだ」
かむら達が倒している【欲魔】は、この世の欲望から生まれた存在。その強さ、擬態能力は、欲望の大きさによって変わる。
「信じられないことだが、この目ではっきりと見てしまった。何をしたのかはわからなかったが、倒したと言う事実は変わらない」
「零は無傷だった」
「マジですか。それはパないですね……」
無傷で倒したことには、さすがのあおねも驚きを隠せないでいた。
かむらでさえ、多少の傷を負う可能性があったほどの相手を無傷で、あっさりと倒した。
これは、今までにない衝撃だ。
「自分は、彼に接触する」
夜空を見上げながらかむらは決意の言葉を呟く。
それを聞いたあおねは、自然と笑みが零れた。
「なんだ、その顔は」
「いやいや。フラグ回収が早かったなーと」
あおねの言葉に、かむらはやれやれと眉を潜める。
「勘違いしてもらっては困る。自分は、君達のように個人的な感情で接触するわけではない」
「本当ですかー?」
「本当だ。これからは、自分なりに彼と接触するが邪魔だけはしないでもらおう」
「はーい」
返事をするあおねの次に、ここねへと視線を向ける。
その意図を察し、首を縦に振るここね。
「では、自分は失礼する」
いつもより素早く姿を消すかむらを見送ったあおねは、ふうっと息を漏らす。
「零先輩がまさかそこまで強かったとは」
「あおねでも予想外?」
「そうですね。さすがに予想外でした。何かがあるってことはわかっていたんですけど。まさか【欲魔】を倒しちゃうとは」
でも、とあおねは跳ねる。
「ますます零先輩に興味が出てきちゃいました。かむらちゃんも興味を示したみたいですし……ふふ。これからが楽しみです」
本当に楽しそうな笑みを浮かべるあおねを見て、ここねも自然と笑みが零れた。




