第十八話 欲望
「くー!! 今日はエンジョイしましたなぁ」
みやは、ぐっと背伸びをし息を漏らす。
今日は、幼馴染である零に対抗して、女子だけで遊んでいた。
メンバーは、あおねとここねを加えた三人。
行き先は、零達が東に向かったので、ならばと西へと向かった。
普段あまり行かない場所ばかりだったため、探索すればするほど新しい発見が出てきて、気づけば夕方。
「ですねぇ。今度は思いきって遠出してみます? 来月は夏休みもありますし」
「おー、それはいいアイディア! ここねちゃんは、どこか行きたい場所はありますかな?」
「森」
「シンプルですねー」
「ならば、おすすめのもりもりを検索!!」
一日中動き回っていたのにも関わらず、まだまだ元気が有り余っている三人。
「よう、お三方。今、帰りか?」
すると、レンタルDVDが入った袋を持った康太が話しかけてきた。
「うむ。そっちはもう解散した後?」
「十分前にな。ところで」
首をかしげながら、みやを見詰める康太。
「お前、さっきまで一人でなにやってたんだ?」
「え? なんのこと?」
康太の問いにみやはわけがわからず言葉を返す。みやは、ずっとあおね、ここねの二人と行動を共にしていた。
単独行動をした覚えがない。
そんなみやの返しに、康太は頭を掻く。
「あれ? じゃあ、見間違い、だったのか。いやさ、店に入る前にお前を見かけたんだよ」
「それはおかしいですね。みや先輩はずっとあたし達と一緒でしたよ?」
「マジか。……確かに、今思えば服が違ったし、別人だったのか?」
「ふっ。世の中には、似た顔が三人は居ると言う! もしかしたら、ドッペルゲンガーというやつかもしれぬな」
おお、怖い怖いと身震いするみや。
しかし、そんなみやの側であおねとここねがこそこそと会話をしていた。
「ここね、もしかして」
「……ちょっと行ってくる」
「はい、任せましたよ」
ここねは、静かに頷きその場から去っていく。
それに気づいたみやは、あおねに問いかけた。
「ここねちゃん、どうしたの?」
「すみません。急な用事ができたみたいで」
「そっかー。ここねちゃーん!! また遊ぼうぜー!!!」
みやの叫びに、ここねは振り向くことなくぐっと親指を立てる。
「うーむ。それにしても、康太が見た私似の人……気になりますなぁ」
「まあまあ。その内会えると思いますよ? それよりも、この後みや先輩の家に寄っても良いですか?」
「いいともー」
「やったー」
「そうだ。このこと、零にも教えてやんねぇとな」
・・・・
「はあ……はあ……!」
俺は逃げていた。
背後を気にしながら、必死に走っていた。
『おい、キュアレ。あいつはいったい何なんだ?』
『うーむ。私も初めて見たからねぇ。この世界で生まれた異質な存在なんだろうけど』
キュアレでもわからないのか。
だが、これだけは言える。
あれは、普通じゃない。
見た目こそ、人間。というかみやそのものだったが、それは外見だけ。
能力により開示された中身は、まったく違うもの。
これまで見てきたどの人物よりも、やばい。
いったいどれだけの者達と性行為をしてきたのか。それに、どうしてみやと同じ外見、声をしているのか。
わからないことばかりだが、今は安全な場所に。
人が多い場所にまずは。
「ぐあっ!?」
そろそろ街中に入ってもいいだろうという時だった。
背後から強い衝撃を受け、地面に倒れる。
その後、仰向けにされ、そいつは馬乗りしてきた。
「もう、どこに行くのかね? 幼馴染くん」
この状況でまだみやのマネをしてくる謎の存在。
もう一度、能力を使い名前を確認する。
なんなんだ【欲魔】って。
「……なーんて。とっくに私がみやじゃないって気づいているんだよね?」
「ああ」
「どうして気づかれたんだろう? こんなに完璧な擬態だったのに」
擬態? やっぱりそういうことだったのか。
ありえないって思っていたが、二次元世界だからってマジか……。
「お前、何者なんだ」
「余裕だねぇ。でもまあ、教えてあげる。どうせ、すぐ忘れちゃうんだし」
ぺろっと自分の唇を舐め、みや? は話しだす。
「私達は、欲望から生まれた存在。あなた達が、抑えきれない欲望が形となったのが私。そして、私達の目的は……」
顔を近づけ、悪魔的な笑みを浮かべる。
「あなた達の性欲」
性欲? てことはサキュバス的な存在ってことなのか?
「人間は欲望に忠実。これまでも、たーくさんの人間とヤッてきた」
ずっと必死に抵抗するが、全然体が動かない。
「ヤリたい人間に接触する時はね? その人間が一番性欲の湧く人間に擬態して近づくの」
俺が必死にもがいている最中でも【欲魔】は淡々と説明している。
「その方が、より多く接触できるしね。最初から腰を振る人間も居れば、あんたみたいに最初は必死に抵抗する人間も居たなぁ。でもね? 結局は、自分の欲に勝てず腰を振っちゃってるんだよ? あははは!!」
みやの外見、声でなんてことを言うんだ!
若干、表みやが暴走した時に雰囲気は似てはいるが、こいつの場合は完全に人間を見下している感がある。
『あわわ!? どうしよう……どうしよう……!』
さすがのキュアレも焦っているようだ。
「可愛かったなぁ……前は人気アイドルに擬態してたんだけど、そいつったらみーたんはそんなことしない! とかカッコいいこと言ってたのに、いざ性行為が始まったらみーたん! みーたん!! って名前を呼びながら必死に腰を振っちゃって! 最後には」
自分の腹部をとんとんと人差し指で叩き、高揚した表情で言う。
「盛大に出しちゃったの。えーっと、確か三回は出してたかなぁ?」
「おい、いい加減に!」
「大切な幼馴染の姿で言うなって?」
やっぱりこいつわかっていて。
「想像しちゃうよねー。他の男達と幼馴染ちゃんがヤッちゃってる光景を」
本来は違う姿でやっているのだろうが、今はみやの姿で語っているため自然に思い浮かべてしまう。
俺は必死にそんな光景を払おうとするが【欲魔】がそうさせないとばかりに服を脱ぎ始める。
「あんたも犯してあげる。あいつらが興味を示すほどの人間だからねぇ」
あいつら? いったい誰のことを。
「それにしても、これで立ってないの? ずいぶんと逞しいものを持ってるんだね」
やばい、このままじゃヤられる。
なんとかして、逃げなければ。
「ねえ? なんで立たないの? 普通、刺激したら自然に立っちゃうでしょ? しかも、こんなにもエロい体をしてる幼馴染ちゃんにだよ?」
「立たないものは立たないんだよ」
「……まあいいや。どうせヤリ始めればビンビンに立っちゃうに決まってる。まずは抵抗されないようにちょっとだけ吸っちゃおうかにゃー」
そう言って、俺の服を脱がし、右手を置いた。
「いただきまーす」
刹那。
俺の体から何かが奪われるような感覚が襲う。
まさか生命力を吸われているのか? やばい……このままだと俺は。
「え? な、にこれ……!」
様子がおかしい。
俺の生命力を吸っている【欲魔】の表情が突然歪んだ。
「アアアアアアアアッ!! あ、熱い! 熱い熱い熱い!!!」
体を抱き、悲痛な叫びを上げる。
その苦しさに【欲魔】は、俺から離れ地面に倒れもがき苦しむ。
自由に動けるようになった俺は、身を起こしわけのわからない状況に唖然としながら彼女を見詰める。
「あ、んた……な、にを……」
擬態を維持できなくなったのか。
みやだったその姿は次第に溶け始める。【欲魔】は俺がなにをしたんだと思っているようで、霞んだ声音で問いかけてくる。
「あ、あぁ……こんな……」
そして、最初からそこに誰もいなかったかのように光の粒子となって四散していった。
「いったい、なにが」
俺にも理解できない展開だったが、とりあえずは助かったことを喜ぼう。
まあこれぐらいの描写なら警告……されないよね?




