第十話 ちょっとしたピンチ?
案外、ここねとのデートは普通だった。
なにかが起きるかと思っていたが、特にこれと言っておかしいことは起きず、昼食を食べ終えた。
予定としては、昼食を食べて終わり、ということになっている。ここねの気分次第で、このままデートを続けるか、終わるかが決まる。
さて、ここからどうなるか。
「ここね。これからどうする?」
「……」
なにか考え込んでいるな。
こっちの呼び掛けに気づいていないみたいだ。
「あれ? もしかして明日部か?」
「え?」
どうしようかと考えていると、第三者が介入してくる。
右側に視線を向けると、そこにはめがねの少年と年上のお姉さんが立っていた。
あれ? 確か駅で見かけた。
「久しぶりだな。東栄に行った友達から帰ってきているって聞いていたけど」
なんだろう。俺のことを知っているようだけど……まずい、思い出せない。
確か、名前は。
今一度能力を使い名前を確認した。
鈴木慶佑?
鈴木なんてよくある名字だし……慶佑…めがね……。
「お、おう。今は一人暮らししてるんだ」
「そっかぁ。大変だなぁ」
素直に思い出せないとは言えばよかっただろうか。
思い出せ、思い出すんだ。
なにかきっかけがあれば。
「ところで、そっちのお姉さんは?」
「え? ああ、そういえば知らなかったよな。俺の姉さんなんだ」
とりあえずなにか話題を出して、感づかれないように。
「初めまして。慶佑の姉で、優菜って言います」
と、ウェーブがかかった紺色の長髪が似合うおっとり系お姉さんが会釈をする。
えっと、歳は慶佑と五歳違いで二十歳か。
「初めまして、明日部零です」
「で? こっちも聞くけど、そっちの可愛い子はお前の彼女か?」
今だどれほどの関係だったか思い出せない慶佑から、ここねのことを聞かれる。
って、まだ考え事してたのか。
「いや、違うって。なんていうか……仲のいい友達、みたいなものだ」
「へえ、本当か?」
にやにやと笑みを浮かべ疑いの目を向けてくる。
そんな慶佑を姉である優菜さんは、あんまり詮索しないのと優しく注意。
「そっちこそ、綺麗な姉となにやってんだ?」
「気晴らしだよ。ここのところ勉強ばかりだったからな。たまには息抜きをしようって姉さんが誘ってきたんだ」
勉強……くっ、なんかそこまで思い出しかけてる。
もうちょっとなんだが。
「だって、慶くんったら毎日お勉強ばかりでお姉ちゃんに構ってくれないんだもん」
「姉さんだって、もういい歳だろ? いい加減弟離れしてくれよ」
「そう言って、いつも付き合ってくれるんだから。慶くんってばツンデレさん」
「ちょっ、友達の前だぞ!」
ブラコンな姉……思い出した!
「相変わらず姉さんには勝てないみたいだな。昔もよく姉に困ってるって愚痴をこぼしてたよな」
「え? なにそれ? 慶くん、どういうこと?」
「ちょっ、おま! それは内緒だって言っただろ!?」
やっと思い出せた。
こいつの名前は鈴木慶佑。俺が十歳の時に引っ越してきて、いつも勉強ばかりしていたこいつを俺とみや、康太が無理やり引っ張り遊んだのがきっかけで仲良くなったんだ。
それからは男三人で秘密の密談なんかもしたり。
その時に、慶佑がいつもいつも自分に甘えてくる姉が居て困ってるなんて愚痴を聞いていた。
対して、当初からエロに積極的な康太は羨ましいなどと叫んでいたなぁ。写真では、姉のことを知っていたのだが、実際に会うのはこれが初めてだ。
なにせ、慶佑がどうしても自宅には遊びには来るな! と本気で言ってたからな。
どうしても姉に会わせたくなかったのだろう。
けど、こうして見ると普通に仲いいよな。
……まさか。
「慶くん! ちゃんと説明して! お姉ちゃんのことお友達になんて言ってたの?」
「だからぁ……」
いまだ問い詰められている慶佑を能力で見る。
そして、注目したのは自慰(女性用下着)という行為だ。
そんなことはないだろう、と思いつつ俺はレベル二で追加された機能を使う。
「……」
「わ、悪いな。デートの邪魔して。こ、今度康太も含めて遊ぼうな!!」
「あ、慶くん! 待って!! もう……それじゃあ、失礼します」
逃げていく慶佑、追いかける優菜さんの後ろ姿を見詰めたまま俺はふうっと息を漏らす。
慶佑。
本当にツンデレだな。
まあ、あんな綺麗で可愛い姉が甘えてくれば、思春期な男子だったら我慢できないよな。
俺は、お前のことは責めない。
とりあえず、俺から言えることは。
「頑張れよ」
ピンチを切り抜けた俺は、視線をここねに向ける。
「話、終わった?」
「なんだ、気を利かせてずっと黙ってたのか?」
「途中までは、考え事してた」
やっぱりか。
「……最後に」
「ん?」
「最後に、行きたいところがあるんだけど。いい?」




