第一話 雨降る中でからあげを
「ひどい雨だ……」
帰宅した後、キュアレがハンバーグが食べたいと駄々をこねたので、仕方なく作ることにしたのだが、挽き肉がなかったことに気づき、雨の中スーパーへと向かうことになった。
下校の時は、そこまでではなかったが、今はごうごうと降っている。
夕方には止むって言っていたが、やはり天気とは気まぐれということか。
「さて、挽き肉とついでに食後のデザートとその他を買ったし」
さっさと帰るとしよう。
早く夕食を作らないとキュアレがまた駄々をこねそうだしな。
「ん?」
スーパーを出て傘を広げると、釘付けになる存在が視界に入った。
猫の口が描かれたマスクをしている金髪の少女。
見詰める青い瞳は本物の獣のようだ。
翡翠色のパーカーを着ており、フードには猫耳が生えている。
……いや、俺を見ているわけじゃないな。
たまたまあそこに居て、視線に俺が入っただけだ。
「……」
気になり、一度振り返る。
が、そこには少女はもういなかった。
「不思議な子だったな」
少し気になるが、今はさっさと帰らないと。
「メッセージ?」
そんな時だ。
スマホにメッセージが届く。
キュアレからだった。
<そういえば今日、コンビニで新しいからあげが発売だった!>
<つまり?>
<買ってきておくれー!!>
こいつは、ハンバーグをこれから食べるっていうのに。
俺はため息を漏らしながら、メッセージを返す。
<夕食を食べられなくなっても知らないぞ>
<余裕!!>
その後、商品名を聞き、急ぎコンビニへ向かうことに。
なんだろうなぁ、最近俺ってキュアレに甘過ぎないか?
完全に神に貢いでいる使途かなにかだよな。
「ーーーよし。丁度一個だけ残っててよかった」
今後、キュアレに対する接し方を変えた方がいいのではないかと考えつつ、目的のものを購入した俺。
さあ、今度こそ帰るぞと傘を広げる。
「じー」
「うおっ!?」
右へ方向を変えると、数分前に見かけた少女が立っていた。
しかも、なにか物欲しそうに先ほど買った新作のからあげを見詰めて。
これは、明らかにからあげを食べたいと言っている目だ。
小さいな。
あおねと同じぐらいか?
「なにか、用?」
偶然、だと思うが。
「美味しそうな肉の匂いがする」
あ、やっぱり。
「……悪いな。これは俺の知り合いに頼まれたものだから」
「しょぼん……」
うわ、凄い落ち込みようだ。
言葉でしょぼんとか言ってしまうほどに落ち込んでる。
「それじゃあ、俺はこれで」
心は痛むが、見ず知らずの子にあげるのは。
「……うーん」
自然と立ち止まり、振り返ってしまった。
まだ居る。
というか、俺のことを見てる。いや、正確には俺が持っている新作のからあげを、か。
俺は、少女とからあげが入った袋を交互に見て、頷く。
「ほら」
そして、少女に新作のからあげを差し出した。
「いいの?」
「ああ。俺は、違うところでまた買うから」
コンビニは一軒だけじゃない。徒歩で行ける範囲では、三軒ぐらいはある。
さすがに、その全てが売り切れってことはないだろう。
……たぶん。
「噂通り」
「え?」
噂通りってどういう。
「感謝。そして、さらば」
先ほどの言葉の意味を聞く暇もなく少女は雨の中走り去っていく。
「あ、また能力を使うのを忘れた」
・・・・
「むう……」
「売り切れだったって言っただろ? ほら、代わりにお前の分のハンバーグを大きくしたし、チーズだって乗せてやった。それで勘弁してくれ」
結局、あの後行ける範囲のコンビニ全てに行ったが、その全てで売り切れだった。
本当は買ったのだが、見ず知らずの少女にあげてしまったなんて言えるはずもなく、売り切れで買えなかったということにした。
「からマヨ味……あっ、ご飯おかわり」
悲しむのか食べるのかどっちかにしろよと思いつつ、俺はご飯を茶碗に盛った。
「それで、途中で会ったっていう子。そんなに不思議だったの?」
「ああ、不思議だったな。それと、たぶんだが猫好きだと思う」
今までに会ったことのないようなタイプ。
身に付けている服や雰囲気から、なんかこう……小動物感っていうのか。そういうものを感じる少女だった。
「能力で見なかったの?」
「忘れてた」
にしても、あの言葉の意味って。
普通に考えれば、俺のことを知ってる誰かに俺のことを聞いて、それが事実だったってことだろうけど。
あれほどの不思議なオーラを放つ子が知り合い……まさかあおねじゃないだろうな。
「ごちそうさまでした!!」
「食後のデザートも買ってあるぞ」
「やっふー!」
悲しみでいつもより早く平らげたキュアレにデザートのことを伝えると急ぎ食器を下げに行く。
「っと、メッセージが」
一度箸を置き、俺はスマホを手にしメッセージを確認する。
どうやらあおねからのようだ。
噂をすればなんとやら、だな。
<追加連絡です! 明日の放課後に私のお友達であり同級生をご紹介します!>
友達か。
脳裏に浮かぶのは、あのマスクの子。
<どんな子なんだ?>
<いやぁ、それは明日までのお楽しみということで。すみません>
仕方ない。
<わかった。明日を楽しみにしてる>
その後、場所と正確な時刻などを教えてもらった。
さあ、夕食を食べようと箸を持つ。
「うまー」
そこへ、デザートのプリンを持ったキュアレが帰ってくる。
随分と悩んでいたようだな。
「機嫌直してくれたか?」
「直った直ったー」
なんていうか、ちょろ過ぎて心配になるレベル。
「ちょろ過ぎだろ、お前」
「そんなことないよー」
と、クッションに腰掛けながら、うまそうにプリンを食べるキュアレ。
そんなことあるんだよなぁ。
とはいえ、この緩さ加減を見てると、安心してしまう。
なんでなんだろうな……。




