第三十二話 闇夜の来訪者
「うへへ~、みや先輩の膝枕極楽です~」
「よーしよし」
ゴールデンウィークから数日が経った。
白峰先輩ともだいぶ打ち解けた、ような気がする。そんなある放課後。あおねと白峰先輩を含めた五人で公園に立ち寄っていた。
「……」
「おい、康太。どこへ行く」
康太が、無言でスカートを覗こうとしたので、俺はそれを止める。
「あおねちゃん。スカートで無防備に寝転ぶのは、よくないと思うよ……」
「白峰先輩の言う通りだ。こいつのように覗こうとする奴が居るからな」
「お、俺は覗こうなんてしてないし」
嘘をつけ。
こうした学校帰りの平和な一時。こんな中でも、俺には普通の人には見えないものが見えている。
『おー、なんだかかなりぶれぶれになってきたね』
『……ああ』
能力により見えているみやの名前。
ゴールデンウィークの最終日には少しのぶれだったが、今はバグったゲーム画面のようにめちゃくちゃだ。
『これはかなり精神が不安定になってるね。なのに、それを表に出さないって。凄い演技力だね』
『もしかしたら、表に出ている方の人格じゃなくて、内に居る人格の精神が不安定なのかもしれないな』
今のみやではなく、別人格だと思われるほう。
俺の予想では、そいつは昔の……俺が最初に知ったみや。確信があるわけじゃない。
けど、あの日。
一瞬だけ聞こえた声の雰囲気は、あの頃のみやのようだった。
「そうだ。ゴールデンウィークも終わったら、次は夏休み! 今のうちなにをするか考えないとな!」
「そ、それはちょっと早すぎるんじゃ、ないかな?」
「まだ二ヶ月半もありますからねー」
「でも、今年の夏休みは今までとは違う感じになるじゃろうな。なんてたって零が居て! あおちゃんも居て! 白峰先輩も居る! 個性豊かなキャラが揃ってなにも起きないわけがない!! ね? 零」
飛びっきりの笑顔で問いかけてきたみやに、俺は飛びっきりの笑顔を返す。
「ああ。今年の夏は、いつもとは違う思い出が作れそうだな!」
「だね!!」
「うおー!! そう考えると夏が待ち遠しいぜー!! 夏と言えば、海! 海と言えば水着! そう……ここには水着が似合う三人が居る!」
「三人?」
興奮した康太の言葉に、白峰先輩だけが首をかしげる。
「リオちゃん。可愛い水着の用意はできていますか?」
ノリノリなあおねは、ぐっと親指を立てる。
「ええ!? さ、さすがにそれは……普通に男物を」
「お前ら。いくら白峰先輩が女装しているからって、それは無理があるんじゃないか?」
「ふっ、成せばなる!!」
「ならないこともあるだろ」
夏に何をしようか。そんな話をして時間は過ぎていく。
日も落ち、それぞれが自宅へと帰っていく。
俺は、いつものようにキュアレに出迎えられ、料理を作り、風呂に入り、後は寝るだけとなった。
「今日も別人格さんは出てこなかったねー。あの様子だと、相当精神が不安定なはずなんだけどね」
布団の上にころころと寝転がりながらゲーム機を操作しているキュアレ。俺はその側で、天井を見上げている。
「……明日、聞いてみるか」
「別人格さんに?」
「みやだって、外面ではいつも通りに振る舞っているけど、もうぐちゃぐちゃなはずだ」
これまでは、みやはみや。
別人格があろうと、みやなんだと思って様子を見ていた。
けど、日に日に精神が不安定になっているということは、みや本人はなにかを抱えているということ。
「当たって砕けろーってやつ?」
「砕けるのは勘弁したいな。そういえば、ずっと気になっていたんだが」
俺は自分の左目を手で覆い隠しながらキュアレに問いかけた。
「いつになったらレベルアップするんだ?」
レベルアップの予兆があってから、結構能力を使っているはずなのにレベルが上がっていない。
そもそもレベルが上がった時に、わかりやすい表記はあるのだろうか?
「そろそろだと思うんだけどね。主神様も、かなりアバウトな説明しかしなかったから、私にもわからないのだー」
「テスターとしてその辺りは知っておきたいんだけどな」
「ねむねむ……」
「……そろそろ寝るか」
いつの間にか時刻は、十一時を過ぎていた。
明日も学校があるし、夜更かしはしないようにしないと。
とりあえず、明日は俺にとっての一大イベントだ。
覚悟を持って登校しよう。
「ーーーん?」
目が覚める。
眠りが浅かったのか。それとも覚悟のあまりすぐ起きてしまったのか。
ピンポーン。
インターホン? こんな夜更けに?
時刻を確認すると、夜中の一時を過ぎていた。隣では、キュアレが呑気にすやすやと眠っている。
ピンポーン。
ピンポーン。
いまだになっているインターホン。俺は、かなり怪しいと感じ、キュアレを叩き起こす。
「おい、キュアレっ。起きろっ」
「ふわ……?」
今回は、すぐ起きてくれたか。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
なんかどんどん回数が増えてきている。
「え? え? なにこのインターホン連打は。こわっ!?」
さすがのキュアレも、不気味さに恐怖する。
さて、キュアレが起きたところで。
「お前は、とりあえず隠れてろ」
「了解!」
母さんの時は油断していたが、キュアレにはちゃんと隠れる手段がある。それは、人間の体を解除すること。
それにより肉体のない状態となり、普通の人間には見えなくなる。
まあ、俺には見えているのだが。
これで、後は布団を一度片付けてっと。
「行くか」
準備がと整ったところで、いまだにインターホンを鳴らし続けている主の確認だ。
静かに、足音をたてずに移動をする。
そして、覗き穴からそっと外の様子を確認した。
「……」
戦慄が走る。
外に居たのは……みやだった。
しかも、パジャマ? 上着も着ず、パジャマ姿のままみやは、ずっとインターホンを鳴らしていた。
明らかに様子がおかしい。
(あれ?)
念のため、能力でみやを見ると名前のぶれがなくなっていた。
精神が安定しているってことか?
でも、明らかに今のみやは……とりあえず。
「どうしたんだ? みや」
今の状態を確かめるために、みやを出迎えることにした。
「……」
うつむき、表情がよくわからない。
「とりあえず中に」
玄関のドアを閉め、みやを奥へ案内しようした刹那。
「うわっ!?」
突然押し倒された。
「み、みや?」
みやは俺に馬乗りとなり、静かに笑みを浮かべる。
「零くぅん……」
ねっとりと、だがどこか妖艶な声。
気のせいか、目が怪しく光っているような。
「好き」
「え?」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き! ……大、好きっ」
「お、おい! みや?」
「もう我慢の限界……もう止められない……やっぱり襲っちゃう……えへへ、えへへ……興奮しちゃうね? 零くん」
いや、俺は怖いんだが。




