第二十七話 誘い出してみよう
緊急二家族会議があった次の日の朝。
父さんと母さんは、俺のところに遊びに来ていた。今回は予め連絡を受けていたので、準備は万端。
今後のことについて話し合うということで、朝食を早々と済ませ、二人分の飲み物を用意して待っていた。
父さんは、ホットコーヒーで。母さんは、アイスコーヒー。
ちなみにインスタントとパックである。
「ふむ。君が、刹奈が言っていたキュアレちゃんか」
「どもー」
玄関側に父さんと母さん。その正面には俺とキュアレが座っている。父さんは、話でしかキュアレのことを知らなく、今回が初顔合わせ。
キュアレの失敗から、流れ的に家族には話してもいいだろうという結論に至ったのだ。
「刹奈の言っていた通り、かなりの美人だ。これは神様だと言われても信じてしまうな。だが、どうしてその神様が……ジャージなんだ?」
まあ、そこは気になるよな。
「いやぁ、この格好が一番落ち着くので」
「俺のジャージなんだけどな……」
もはや俺のではなく、キュアレのになってしまったので、仕方なく新しいのを買った。
ちなみに、キュアレが着ているジャージの色は緑だが、新しく買ったジャージの色は黒である。
「零。真面目な話なんだが、本当に彼女とは何もないんだよな?」
「父さん。信じてくれ。確かに、こいつはめちゃくちゃ美人だ。だが、仮にも神だぞ? 手出しなんてしたらどうなるか」
「そうか。なら、良いんだが」
「うんうん。何もないよー。私達はいわば相棒同士! テスターである零のサポートをするのが私の役目。そして、零はそんな私のお世話をするのが役目!!」
いつから俺は世話役に……いや、これまでのことを考えると完全に世話役みたいなことをしていたな。
料理を作ったり、遊び相手になったり。髪の毛がボサボサな時はブラッシングをしたり。
「そ、そういうことだよ」
「……まあ、今はそういうことで納得しておこう」
助かるぜ、父さん。
「それで、本題に入るが。キュアレ。みやに関して何かわかることはあるか?」
「うーん、そうだねぇ。二重人格かぁ……」
ずずぅっと、熱い緑茶をすすりながら思考するキュアレ。
もしかしたら、と思ったのだが。
「わからない!!」
うん、やっぱりそうだよな。
「あまり深く考えないほうがいいんじゃないかしら?」
「どういうことだ? 母さん」
「確かに、みやちゃんは犯罪行為じみたことをしているけど、結局のところ対象は零。そしてやっていることは添い寝やキス。だったら、そのままでいいんじゃないかしら?」
「確かにな。その意見には、俺も賛成だ」
それ俺がずっと夜這いされ続けるんだが。まあ、戸締まりとかをしっかりすれば……まさかピッキングをしてまで夜這いをするなんてことはないよな?
「一番は、零とみやちゃんが付き合うことなんだけど」
母さんの発言に、父さんも真面目な視線を向けてくる。
付き合う、か。
「……みやのことは好きだ。だけど、そこに恋愛感情があるって言われれば」
「まだない、か?」
「ああ」
みやとはずっと幼馴染、それか気の許せ合う友として過ごしてきた。だから、急に付き合えと言われても……。
「まあ、無理矢理付き合うのは後に色々と拗れる恐れがあるから、今はなしの方向でいきましょう」
「だが、どうする? 零も、みやちゃんの秘密を知ったからには、今まで通りとはいかないだろ?」
そうだ。今まで通り接していても、やはり別人格のことを思い出してしまう。
そうなれば、いずれボロが出て、みやにも気づかれてしまうかもしれない。
「だったら、その人格さんを誘い出すってのはどう?」
「誘い出す?」
キュアレの提案に、俺達は耳を傾ける。
「お母様も言っていたけど。あんまり難しく考える必要はないんじゃない? もし、みやに別人格があって、それが気になるっていうなら。その人格さんを零という餌を使って誘いだし、尋問すればいいのだよ!!」
決まった! とドヤ顔をするキュアレ。
誘い出す、か。
・・・・
「いやはや、零が二人っきりで遊びに行かないかと言ってきた時は何事じゃ!? と思ったけど……マジどったの?」
「昔はよく二人で遊んでただろ?」
「ま、そーだけど」
作戦は実行された。
父さん達が今まで集めた情報から、みやの第二人格は一度出るとインターバルがあるらしい。
そして、第二人格は俺と一緒に居れば居るほど出てくる確率が上がっていく。
最短で、二日。しかも、今回に限っては三年間会わなかったということからもしかしたら、またすぐに出てくるかもしれない。
そのため、第二人格を誘い出すために、俺はみやをデートに誘った。
『もしかしたら、キスの項目はみやというよりも第二の人格がやりたいことなのかもしれない』
能力で今も見えている。
昨日まではキス(頬)だったが、今ではキス(唇)になっており、矢印が俺の方に向いている。
『もし、みやがしたいことならそれを態度にも顔にも表さず、いつも通りにしているなら、物凄い演技力だね』
ちなみに、今日は父さんと母さんは別行動。
三年ぶりの故郷だということで、二人仲良く遊びに行っている。せっかくのゴールデンウィーク。
息子としては、休みをエンジョイしてほしい。俺は俺で頑張ってみると意思を伝えた。
「それで、今日はなにするのかね?」
「気ままに楽しそうな場所に行ったり、やったり」
「なんじゃそりゃ。いつも通りじゃん」
「本格的なデートがしたいのか?」
「べっつにー。私は、楽しければいいのじゃー」
二人きり。デートのようなものだが、やることは今までとあまり変わらない。
気ままに、二人で街を歩いたり、店に入ったり、小腹が空いたら手軽なものを食べたり。変わったことなんてやる必要はない。下手に凝ったことをすれば、なにかしらのボロが出るかもしれないからな。
知り合いと会うのも避けたいので、電車で少し遠出をしている。
「うおりゃあ!!」
「おー、よく飛ばすなぁ」
現在、バッティングセンターで勝負をしている。球速は百キロで、何回当てられるかという簡単な内容だ。
みやは、普通以上に運動能力が高く、やろうと思えばどんなスポーツでもやれるかもしれないほどだ。
「えいや」
「ナイスバント」
「イエス!」
当てる、なのでバントもあり。
「りゃー!!」
「空振り三振」
「くそー!!」
しかし、みやは楽しいやノリで生きている。
真面目に打っていると思えば、めちゃくちゃな打ち方をして簡単に空振りをする。
結果、勝負は俺の勝ちとなった。
「えへへ。負けちった」
だが、それでもみやは楽しそうに笑う。
ここがみやの良いところだろう。
真面目な勝負ができない、というわけではないのだろうが。だいたいが楽しさとノリを優先してしまうため、どうしても勝負の時でもそれを忘れないのだ。
「しょうがない奴だな」
「ふっ、負けちまったからには昼食は私が奢るともさ!」
「そんな賭けしてないだろ?」
「まあまあ。零も、一人暮らしで大変だろうしさ。幼馴染として、助けてやろうという優しさなんじゃよ」
「それはそれは、ありがたい」
「そうじゃろう! そうじゃろう!!」
さあて、次はどこで何をしようか。




