第二十五話 幼馴染の秘密
「揃ってるな」
「おー、戻ってきたか零。なんだったんだ? 急な用事ってのは」
キュアレの救援騒動をなんとか片付け、俺は皆のところへと戻ってきた。
今日は、みやが店の手伝いがあるため、少しでも貢献しようぜということで、昼食は喫茶店で済ませようということになった。
俺が戻ると、すでに康太は昼食を注文しており、出暮喫茶特製スパゲティを食べている。
具は大きく、満足感のある料理だ。俺も、数えきれないほど食べているが、飽きがこない。
「実は、母さんがアパートに来ててな」
康太の隣に座り込みながら、ここまでの経緯を話す。
ちなみに、正面にはあおねと白峰先輩が座っている。
二人は、康太と違って俺が来るのを待っててくれたようだ。とはいえ、なにも注文しないのも店に悪いからか、飲み物は注文している。
あおねがアイスコーヒーで、白峰先輩はオレンジジュース。
「マジか。確かに、そりゃあさっさと帰るわけだ」
「ああ。後で、知り合いのところに挨拶しに行くんだと」
当然、父さんも一緒にな。
「ほほう? 零先輩の親御さんですか。こちらに来ているというのであれば、後輩として挨拶をしなければなりませんね」
「僕も、いいかな?」
「はい、良いですよ」
白峰先輩は、ちょっと変わったかな。まだ若干壁があるような気がするけど、それはこれからってことで。
「やあやあ、やっと来たね」
「ああ。悪かったな、急に出ていって」
会話が一通り終わった頃に、みやが近寄ってくる。
今居る客達に、一通り出すものを出したみたいだな。さすが、ゴールデンウィークだ。
普段は若干空いている席も、満席だ。
個人で経営しているから、そこまで広くないってのもあるけど。
「なんのなんの。ちょーっと寂しかったけど、お母さんが来ていたんだったらしょうがないよ」
「おう。さて、店員さん。さっそく注文頼むよ」
「あたしもお願いしまーす!!」
「ぼ、僕も」
「はいなー、ご注文承りまーす」
そんなこんなで、俺達の注文を聞き下がるみや。そんなみやに対して、俺は能力を使った。
……やっぱりある。
今朝もあったみやが、俺にやりたい行為。見間違いだと思っていたが、そうじゃなかったようだ。
『ほほう? 今すぐ頬にキスをしたいようだね。ひゅー! ひゅー! よ! モテモテ主人公!!』
『うるさい』
外面では、いつもの不思議キャラだが、内心では俺の頬にキスをしたいと思っているようだ。
最初、みやが俺にキス? なんて思ったが、マジなのか?
『これは……目覚めかけているのかもしれないわ』
『母さん? え? どうやって』
キュアレにしかできないことだと思っていた脳内会話。
それを母さんまでもがやっている。
『キュアレちゃんの力で、できるようになったの』
キュアレちゃんって……。
『お母様、この漬け物おいしいですー』
こいつ、餌付けされてやがる。
『……それで、どういうことなんだ? 母さん。目覚めかけているってのは。なにか知ってるのか?』
『ええ。もしかしたら、みやちゃんは……二重人格かもしれないのよ!』
二重、人格だと? それって、ひとつの体に二つの人格があるっていうあれか?
「みや先輩って本当働き者ですよね。いつもは不思議ちゃんですが、今は働く女って感じでめちゃかっこいいです!」
「まあな。けど、働いている時も結構不思議ちゃんなんだぜ? なあ、零」
「あ、ああ」
今のみやはどっちなんだ? 俺が知っているみや? それとも俺が知らないもうひとつの人格?
いや、そもそもまだ二重人格だってことが信じられないんだが。
『なんで、母さんはそんなことを知ってるんだ?』
『ごめんなさい、零。息子に隠し事はしたくなかったのだけど、これは出暮さん達との約束なのよ』
母さんだけじゃなくて、みやの親も知っていたのか。
『じゃあ、みや本人は?』
『たぶん知らない、と思うわ』
『そもそも、どういうことなんだ? 詳しく説明してくれ』
『……今から八年前のことよ』
八年前? そんなに前から。
『昔は、よく互いの家に泊まったりしていたわよね?』
『もちろんだ』
今でも覚えている。
……そういえば、昔のみやは今みたいな不思議キャラじゃなかった。最初の頃は、かなり無口で、親や俺以外の人達には近づこうとしなかった。けど、小学生になってからは、急によく喋る不思議キャラになっていたんだっけ。
『私が見たのは、お昼寝をしている時。ふと物音がしたから、起きたのかと思って部屋を覗いてみたの。すると』
すると?
『普段のみやちゃんからは想像できないほど、飢えた獣のような目で零を見詰め、馬乗りになっていた! 最初は、遊んでいるんだと思っていたけど、その瞬間! みやちゃんはおもむろに零の唇を奪った!!』
……いやいや、小学生がそんなことをするわけが。
「おまたへー。まずは、白峰先輩が注文した特製サンドイッチですよー」
注文した品をいつものように持ってくるみや。
こうして、普通に働いている中でも、俺へキスをしたい衝動はまだ続いている。
「あれ? ひとつだけいつもと違うものが」
「お? わかりますか? ゴールデンウィーク限定で、特別サンドと入れ換えているんですよ! ちなみに挟んでいるのは」
いつものみや。白峰先輩に特別サンドイッチを説明している姿、言動……俺が知っているみやにしか見えない。
『あれは、衝撃的だったわ。まだ早い! と思って止めようと思ったのだけど、キスをして満足したのか糸が切れた人形みたいに一瞬にして眠っちゃったのよ』
母さんの説明を聞きながら、今のみやを見詰める俺。
視線に気づき、にへらっと笑う。
俺は気づかれまいといつものように小さく笑みを返す。
『その後、みやちゃんになんとなく聞いてみたんだけど。自分はずっと寝てたって言うし。私の見間違いだったのかなってその時は思ったの』
『けど、その後も同じことがあった、か』
でも、なんで俺は気づけなかったんだ? さすがに唇を奪われれば気づいてもいいはずだが。
というか。
『その後もって、さすがに小学校三年辺りからは泊まりもしなくなったはずだが』
その頃には、俺も精神的に成長をしていて、お泊まり会のようなものはしなくなった。
別に仲が悪くなったわけじゃない。
人は成長する。その成長が、俺は他より早かったのかもしれない。みやもそうだ。性格もそうだが、体の成長も他と比べて早かった。
小学校三年の頃には、すでに胸はある程度成長しており、俺が引っ越す頃には、クラス一の巨乳となっていた
『それはね……』
それは?
『いえ、この先は後にしましょう。気になるかもしれないけど』
『……わかったよ』
少し心の準備が必要だな。みやが二重人格かもしれないというだけで、頭を抱えることだというのに、マジで夜這いされていた事実。
しかも、八年前からなんて……。
「へい! ご注文の品です!! お客様ー!」
「いえーい! 待ってましたー!」
「なにぼーっとしてんだよ、さっさと食べろって」
みや。今のお前は……俺の知ってるみやなのか? それとも。




