第二十四話 母は神を恐れず
「というわけがありまして……」
「おいこら。なに、息子の後ろに隠れてんだ?」
「息子ガード!!」
「おいこら」
ここまでの経緯をキュアレから聞いた俺は、今に噛みつきそうな母さんをなんとか落ち着かせる。
俺の母さん。
名前を、明日部刹奈という。
普段はほんわかした感じの女性なのだが、どうにも家族のこととなると昔の自分が出てきてしまうようだ。
母さんは、昔名の知れた女番長だったらしく、男だろうと容赦なく叩きのめし、ついたあだ名が不敗の紅女帝だったか?
ともかく、今のように気性が荒くなってしまうということだ。
「それで?」
「え?」
なんとか落ち着いたところで、母さんは俺のことを真っ直ぐ見詰め問いかけてくる。
「本当のことを話してくれないかしら、零」
「本当のこともなにも、こいつは居候で」
「零。お母さんに、隠し事はできないってことわかってるでしょ?」
……そうだった。昔から母さんは、俺の嘘を簡単に見抜いてしまうんだ。だから、俺は母さんには嘘をつくのを止めた。
けど、今回のことは。
『キュアレ』
まだ俺の後ろでびくびくと震えてるキュアレに念のため確認をとる。もちろん、母さんにばれないように。
『は、話しても、いいよ。というか話して。話さないと私が危ない!』
『お前、神様だろ』
『今は、人間と同じなんですー!』
まったく。少しは神様らしいところを見せろっての。
これじゃあ、ただのだらしない美女だろ。
『よくそんな感じで、一ヶ月も隠れ住めたな』
『普段はちゃんと力も使って、細々と過ごしてるんだよ? でも、今回はちょーっと油断してたっていうか……零と似たようなオーラだったから……』
これも人間の暮らしに慣れてしまった影響か。
今後が心配だ。
などと思いつつ、俺は母さんを見詰める。
「じゃあ、話すけど。かなり壮絶な内容になるぞ、母さん」
「ドン! とこいよ。母を舐めないで」
そんな母の覚悟を胸に、俺は話した。
この世界が、二次元世界だということ。俺が、その世界の主人公だということ。
そして、今現在とある能力のテスターをしていることを。
「てことなんだ」
俺なりの説明を終えると、母さんはふむと腕組をして考え込む。
「零」
「なんだ? 母さん」
こんなとんでもない話を聞かされた母親の反応は。
「やっぱり、零は主人公だったのね」
「……ん? やっぱりって」
ど、どういうことなんだ。まさか、母さんはこの世界のことを理解していて、俺が主人公だということも。
「だって、こんなにも優しくてかっこいい息子がモブなわけないもの~」
『親馬鹿!?』
本当に、変わらないな母さん。
結構過保護なところはあるものの、母さんのことは大好きだ。本当は、俺が一人暮らしをするのを絶対許可しないような人だったのだが、最後の最後で許可をしてくれた。
途中までは、自分も一緒にいく! などと言っていたのを今でも思い出す。
「信じてくれるのか?」
「もちろん。……それで、その能力を見せてほしいんだけど」
「いいけど、大丈夫か? 母さんの個人情報を見ることになるんだが」
「大丈夫。見られて恥ずかしい情報はないから」
いや、個人的にあまり母親の行為とかその回数を見るのは……。
くっ! なんて期待に満ちた目を。
「じゃあ、いくぞ」
「うん!」
気は進まないが、母の期待に沿うために、俺は能力を使う。
「使ってる?」
「ああ」
「でも、こう目が光るとか、紋章みたいなのが出るか、そういう変化がないんだけど」
「そ、それはですね。そういう変化があれば簡単にばれてしまうので。見た目的には、なにも変化がないんですはい」
まだ母さんが怖いのか、俺の後ろで説明をしてくれるキュアレ。
「そうだったのね。それで、どんな情報が見えるの?」
「どんなって、言えるわけないだろ。あ、でも」
「でも?」
みやを見た時もあったのものが、母さんにもある。
「抱擁って行為が点滅してるんだ。で、そこから矢印があるんだが、それが俺のほうに向いてる」
「あー、それはレベルアップの予兆だね」
「予兆?」
てことは、そろそろこの能力もレベル二になるわけか。
「ほら、よくゲームとかでもあるでしょ? レベルアップしたらこんなことができますよとかっていう先見せ。この能力の場合は、レベルアップした時に追加されるものを先行して使えるようにしてるの。その証拠が点滅」
「そういうことだったのか」
ゲームだとこういうことをすれば、期待に胸が躍りせっせと経験値を集めるところなんだろうが。
俺の場合は、能力が能力だけにあんまり気乗りがしない。
「それで、今使えるようになってるものの説明だけど。それは、矢印が向いている方に居る人へその行為がしたがっているっていう証拠だね」
なんとなく予想はできていたが、やっぱりそういうことだったか。
てことは、母さんは今、俺に抱きつきたいと思っているのか。
「そ、そんなことまでわかるなんて……」
「今まではなかったものなんだがな」
「ちなみに、本人がその行為自体をしてなくても、こんなことがしたいっていう願望により表示されるようになるってさ」
「なるってさって……説明書なんてあったのか」
いつの間にか、マル秘と書かれたメモ帳を読んでいた。
「だって、全部覚えられないからー」
レベルアップか。
レベルが二になれば、これまで以上に個人の情報が露になるかもしれない。
今、先行して使えるようになっているものだって、かなりのものだ。誰に、どんな行為をしたがっているかわかるのだから。
とはいえ、まだ不完全。
ただ思っているだけで実行しないってこともあるからな。
「思っていた以上にすごい能力ね。その能力があれば、浮気とかもぐっと減るってことね!」
「ええ、そりゃあもう。主神様も、そういう方向性で能力を作りましたので」
いつまでへこへこしているんだ、この神は。
「それで、母さんは何をしに来たんだ?」
俺の今の状況を理解してもらったところで、次は母さんのことだ。
連絡も何もないから、今でも俺は驚いている。
「もちろん、息子がちゃんと一人暮らしをできているか。ゴールデンウィークを利用して確認しに来たのよ」
「父さんは?」
「お父さんも、後で来るわ。今は、ホテルで荷物整理をしているんじゃないかしら?」
「てことは、ゴールデンウィーク中はずっとこっちに居るってことか?」
「ええ、そのつもりよ。私は、一足先に零のところへ顔だしに来たんだけど……そこで」
最初よりはマシになったが、その鋭い睨みでキュアレを見る。
「まさか、こんな美人さんと同棲していたなんて」
なんだろう。幻覚か? 母さんからドス黒いオーラのようなものが滲み出ているような気が。
「む、息子さんにはいつも美味しい料理を食べさせて頂いております!!」
「とまあ、こういう神様だから。問題は起こらない……と思う」
「わ、私は問題なんて起こさないよ!」
そうあってほしいものだ……。




