第二十二話 コスプレ仲良し大作戦2
「おお、意外と似合ってるじゃん」
「ふっ、だろ?」
「ああ、なんだか普通って感じが」
「おう、普通って感じが……それ、褒めてるのか?」
コスプレ衣装専門店にやってきた涼は、一人離れた位置で零、みや、康太、あおねが楽しそうに話しているところを見ていた。
四人は、すでに衣装を着込んでおり、店に馴染んでいる。
だが、涼はまだコスプレ衣装を着ていない。
少しは、緊張が解れてはいるが、それでも四人のようには馴染めていない。
(そもそも、すでにコスプレをしているようなものだからなぁ)
女物の衣装を着て、化粧をしている。
女装男装は、ある意味でのコスプレだ。
「あ、これ可愛い」
四人のことを羨ましそうな目で見ていると、気になる衣装に目が止まる。
アイドルが身に付けているような可愛さの中にかっこよさもある衣装。普段身に付けている衣装とは違い、派手な装飾が目立つが、それはそれで良いと思っている。
「そうだ! 次は、女子は男装! 男子は女装をしようではないか!」
「え!?」
そんな時だった。
みやの発言に涼は、顔の残像ができるんじゃないかというほどの勢いで振り向いてしまう。
「お、それいいな」
康太が、ノリノリで肯定をすると。
「まあ、俺もいいぞ」
「あたしも男装に興味がありましたので、その提案乗りましょう!」
零、あおねも続いて肯定をする。
その会話を聞き、少しもやが晴れたかのような感覚になった。
ずっと、女装をしている自分は変なんだと思っていたからだ。家族は肯定してはくれていたが、それでも周囲はどう思っているのか。
ネットなどで調べる手はあったが。
それで、否定的な意見ばかりだったらどうしよう? とマイナス方向に考えてしまい、調べられずにいた。
が、今目の前で、自分以外の男子が女装をしようとしている。
「リオちゃんはどう?」
みやの問い。これは、もちろん男装にする気はないか? というものだろう。
今の涼は、皆からは女と認識されている。
男装をする。
それはつまりただ女装を解き、元の男の姿に戻ること。
「……やります」
もしかしたら、これで女装男子だとばれてしまうかもしれない。
かなり危険な行為だ。
だが、それでもこれを機に自分を変えられるかもしれないと、涼は首を縦に振った。
「よーし! そんじゃ、男は女子のを。女子は男子の衣装を選ぶってのはどうだ?」
「いいですね。けど、大丈夫ですか? センスが問われますよ?」
「ふっ。覚悟しろ? 俺がめちゃめちゃかっこいい服を選んでやるぜ!」
こうして、再び衣装選びが始まった。
最初と違うことと言えば、他人及び男装女装用の衣装を選ぶ。
それは自分の服を選ぶよりも難しいだろう。
「いやぁ、まさかみや先輩が切り出すとは」
「え? なんのこと?」
「あ、いえいえ。なんでもありませんよ。お? これ零先輩に似合いそう」
・・・・
「どうよ?」
「うん。女装だな。ちょっと化粧濃すぎないか?」
「そうか? そういうお前は……うわぁ、意外と似合ってる」
「意外とってなんだよ。てか、二人とも。なんで男装してないんだ?」
予定通り、俺は女装をした。
計画とは違ったが、あおねも問題ないと言っていた。計画の本筋は、女装は別にそこまで変なことではないということを白峰先輩に教え、自信をつけさせること。
「順番ですよ、順番。まずは、先輩達の女装をじっくり観察して感想を述べてから、あたし達が男装をするのです」
「ごめんね、二人とも。この後にちゃんと男装するからさ」
「しょうがねぇなぁ」
それにしても、ロングスカートを穿いているが、若干足がスースーする。
というか、布が足に擦れてなんとも言えない感覚。
ダボダボなズボンを穿いている感覚と思っていたのだが。ついでに、キャラに合わせて金髪ロングヘアーのウィッグを被っている。
「いやぁ、康太先輩もいい感じですが」
「幼馴染くん。実にグッドだぜ!」
なんというか気恥ずかしいものだ。
女物を着るのも初めてだし、化粧をするのも初めて。適当ではダメだと店員さんに色々と教えてもらったのだが……うん、なんていうか目付きのきつい女番長って感じだな。
ちなみに、康太は攻め攻めのミニスカートを穿いている。
「ね? リオちゃんもなにか感想言ってみてくださいよ!」
「えっと……」
さあ、どうだ?
「うわ! きっしょ!」
「は?」
白峰先輩が喋ろうとした刹那。
まったく関係のない人物の声が響く。誰だと、視線を向ければそこには明らかにコスプレになど興味がなさそうなヤンキーっぽい男が居た。
「ちょっと、なんですかいきなり!」
と、割り込んできた男にあおねが食いかかる。
「きしょいって言ってんだよ。男が女物を着て、化粧までしてよ!」
「はあ? そんなの人の自由だろうが」
康太も、いきなり現れ罵声を浴びせてくる男を睨み付けた。
やばいな。
この空気……。
「あーあ、きしょすぎて気分悪くなったわ。女装とか、マジできしょいわ!」
言うだけ言い、男はさっさと店から去っていく。
なんなんだあの男。
どんな奴なんだと能力を使い確認すると、初めて見るものがあった。恋人が居る証であるハートマークにばつ印がついている。
あれはいったい……。
『あー、あれは別れたって証拠だよ。あの人、最近彼女さんにふられたんだろうね』
つまり、あいつは、その憂さ晴らしをするために罵声を浴びせてきたってことか? ふざけた野郎だ。
「なんだ、あの野郎。ただ罵声を浴びせるためだけに来たのか?」
「どうせ、嫌なことがあったんでしょう。いますよねぇ、ああいう人。憂さ晴らしのためだけに、誰かに暴力を振るったり、叫んだり」
世間では、今日からゴールデンウィーク。だというのに、彼女にふられ、人が幸せそうにしているのを見て、イラつきってところか。
「……」
やばい。さっきの奴のせいで、白峰先輩が。
「ねえ」
「な、なんだ? リオ」
明らかに元気のない声で、白峰先輩は喋りだす。
「皆は、女装をする男子って、気持ち悪いって思う?」
直接言われ、自暴自棄になったか? 今ここでそんなことを言えば……いや、だが。
「……俺は思わない。さっき康太も言っていたが、何を着るかなんて人の自由だ。それが似合っているなら尚更。なあ、三人もそう思うだろ?」
チャンスなのかもしれない。あおねの立てた計画とは違うが、ここはこのままいく。
「だな。つーか、女装をしている人達なんて普通にたくさん居るぜ? 俺なんて時々、ネットで女装をしている人の姿を見るけど、え? マジで男? とかって思うことも少なくないからな」
と、女装をしたまま康太は言う。
「うんうん。そもそも女装っていう文化がある時点で世間が認識していることだからねぇ。さっきの人みたいに否定的な人がいないって言えば嘘になるけど。そんなの言わせておけばいいのさ。ね? あおちゃん」
「まさにです。なんだったら、マジで男が惚れるほどの女装をして、ドヤってやればいいんですよ! とりあえず、零先輩だったらこのまま街に出てもナンパは確実ですね!」
「それは同意!」
「さすがにそれは言い過ぎだろ」
「いや、こういう高身長で目付きの鋭い美人は俺的にはありだな」
そういえば、康太は変な扉を開いていたんだった。
なんか、目付きが……。
「おい、待て康太。なんだその目は」
身の危険を感じた俺は、本気で警戒心を高める。
「じょ、冗談だぜ零。だ、だがなんだろう……そのゴミを見るような目が俺の感情を」
「そこまでです! それ以上はグレーゾーンですよ、康太先輩!」
「くっ! それほど幼馴染くんの女装姿は魅力的だと言うのか! これは危険だ。世の中の男子達が、私の零にメロメロになってしまう!!」
おいおい。なんだこの展開は。このままじゃ、別の意味で変な空気になってしまうぞ。
白峰先輩だって、ドン引きして。
「……くす」
ない? なんだか、柔らかい笑みを浮かべてる。
「本当に仲がいいんだね、皆」
「リオ、ちゃん?」
雰囲気が変わった。まさか俺達の馬鹿さ加減で?
「……僕も、一歩前進しないと」
なにかを決心した白峰先輩は、試着室へと駆け込んだ。
そして、しばらくして。
「お、お待たせ」
出てきたのは、軍服に身を包んだ白峰先輩。
髪の毛を束ね、化粧を落とし、めがねをかけている。つまり、リオから元の姿に。
白峰涼に戻ったのだ。
「おー! いい感じの美少年だ!!」
「ふむふむ。これはいいものですね!」
「でも、コスプレをするなら赤髪のウィッグを」
と、みやが赤髪のウィッグを手に取るが、白峰先輩は首を横に振る。
「ううん、これでいいんだ。皆、聞いて」
ついに正体を明かすのか? 知っているとはいえ、自然と身が引き締まってしまう。
「僕は……男なんだ!!」
言った。今まで隠してきたことを。自分は、女装をしていた男子だったということを。
これは男装ではなく、ただ元の姿に戻っただけなんだと。
今までの白峰先輩だったら、視線をそらしていただろう。だが、今の白峰先輩はじっと俺達のことを見詰め、俺達の言葉を待っている。
「マジかよ」
最初に切り出したのは、康太だった。
白峰先輩は、康太の言葉にびくっと体が跳ねる。
「うわ、マジで気づかなかった。え? マジで男?」
「う、うん」
「すっげ! 美少女にしか見えなかったぞ! うわ、すっげぇ!!」
「うんうん。私もびっくりで、変な顔をしちゃったよ!!」
なんとなく予想はしていたが、みやも康太も驚きはしているが、白峰先輩の女装のことは受け入れているようだ。
あおねは、ぐっと親指を立てていた。
「み、皆。気持ち悪いって思わないの?」
それでもまだ不安があるようで、白峰先輩は俺達に問いかけてくる。
「確かに、驚きはしたけど。いいんじゃないか? めちゃくちゃ可愛かったし。なあ? 皆」
「おうよ! というか、どこかで見たことがあると思ったら、同じ学校の二年生、ですよね?」
な!? 知っていたのか? 康太。
「確か白峰先輩でしたかな?」
みやまで。
「え? み、皆僕のこと知ってるの?」
これには、白峰先輩本人も驚いている。
教室での過ごし方を見る限り、あまり目立たないように過ごしていたんだということは理解できたからな。
自分のことを知っているだなんて思いもしなかったのだろう。
「当然っすよ。なんて美少年なんだ! って入学当時から記憶してましたから」
「私も私も!」
マジか。俺なんて、つい最近知ったばかりなのに。
『零は、あんまり他人に興味なさそうだもんね』
『人聞きの悪いことを言うな』
とはいえ、これは中々の好感触。
白峰先輩も、心なしか幸せそうな空気に包まれているような。
「うおー! このいい空気のままカラオケとか行っちゃいませんかみなさーん!!!」
「と、唐突だな」
もはや計画など無用! とでも言いたげなテンションだ。
結果的に、いい感じになりそうだしな。
「いいね! 俺の十八番を聞かせてやるぜ!! 零! デュエットしようぜ!」
「しょうがねぇな。今日は特別だ!」
俺も、今日はなにも考えずテンションを上げて楽しもうと康太と肩を組む。
「じゃあ、康太の次は私ともデュエットね!」
「白峰先輩も、一緒に!」
「ぼ、僕も一緒でいいの?」
「もちろんです! 今日はとことん五人で遊び尽くしましょう!!」
「さあ! いくぞお前達!!」
カラオケなんて本当に久しぶりだ。
引っ越した先では、一度もやらなかったし。三年ぶりか? さあて、今日は喉を潰すぐらいまで歌うか。
「あ、あの」
しかし、白峰先輩が俺達を止める。
なんだ? と一斉に振り返る。
「二人とも、まだ女装したまま、なんだけど」
白峰先輩の言葉に、俺と康太は互いの格好を見て、そういえば女装したままだったと思い出す。
「……着替えるか、康太」
「お、おう」
危うく犯罪者になるところだった。
少し出鼻を挫かれたが、その後女装を解き、五人仲良くカラオケ店に行くのだった。
そんなわけで、次回からは新しいお話へ。
みやを主軸とした若干ぶっ飛んだ話にしようかなーっと思っています。




