エピローグ
「それで? あの後、どうしたんだ?」
キュアレの我儘ででかいプリンを作ることになった俺は、材料を揃え、現在大量の卵を掻き混ざている。
そんな作業の中で、あおねからの報告を聞いている。
報告内容は、楓を誘拐しようとしていた男である吉原丈太のことだ。
今は普通に生活をしているようだが……。
「はい。それはもう念入りに暗示をかけてやりましたよ。もう二度と犯罪を起こさないように」
くっくっくっく、とめちゃくちゃ怪しい笑みを浮かべるあおね。
確かに、ちらっと吉原のことを見たが、どこか明るくなったというか、真面目な好青年? みたいな雰囲気があったように感じた。
「本来なら、指の二、三本を斬る……いえ、折っていたところですが」
「おい、言い換えた意味ないぞそれ」
結局、指数本はダメになってるだろ。
いつも楽しいことを求めて行動している天真爛漫な少女って感じだが、やっぱり裏の世界で生きる忍者なんだなと思った瞬間だった。
「霧一さんが、ここは暗示をかけるぐらいで勘弁しようと提案してくださったので。あたしとここね、かむらちゃんはやる気満々だったんですが」
案外、一番の変人と思っていた霧一さんが一番まとも……うん、まともだったとは。
それにしても。
「随分とあのおっさんを気に入ったんだな」
「なにを言っているんですか。彼女は転生者と言っても、か弱い女の子なんですよ? 仲良くなったからには、全力で護らなければ!」
確かに、転生者って言えばかなり特殊な存在だが、結局あのおっさんは何の能力もないただの女の子。
異世界転生ものの最強主人公と違って。
「だったら俺の監視と護衛なんかやめて、そっちについていいんだぞ」
その方が俺も気が楽だ。
「いえいえ。あなたの監視と護衛は継続しますよ? というか、分身してしまえば済むことですし」
そう言って三人に分身する。
一人はなんかお馴染みとなった東栄の制服を着た奴。もう一人は、ポニーテールになっただけのあおね。
「というわけで、お手伝いしますよ。ね? 分身達!!」
「あい」
とポニーテールの分身が。
「エプロンつけましょう! エプロン!」
どこからともなくエプロンを取り出す青髪分身。
「ほんと、個性ある分身だな」
「これも修行のなせる業!」
「バケツ用意するかね?」
「どうせならどでかいのを用意しましょう!」
修行でどうにかなるものなのか……。
ともかく、あおねとその分身達のおかげででかいプリンは後冷やすだけとなった。
冷蔵庫に入るぐらいなので、そこまででかいとは言えないが。
「ん? 誰か来たみたいだな」
冷蔵庫に入れ終えたところで、インターホンが鳴る。
誰なんだと、覗き穴を覗こうとした刹那。
「れーいさんっ」
弾むような声音で名前を呼ばれる。
聞き覚えのあるその声に、俺は開けたくないと思いつつも玄関のドアを開ける。
「きゃはっ、ご無沙汰してます」
「なにがきゃはっ、だ」
数日ぶりに楓が訪れた。
俺の考えたシナリオでは、疲労により倒れたことになっている。なので、しばらくは安静にしていたのだ。まあ、普通に元気いっぱいなんだが。
「やあ」
「お元気ですか?」
「実にいいタイミングです。ビッグプリンを冷やしてますので一緒に食べましょう!」
「お、おおぉ……三姉妹あおねちゃん?」
分身だけどな。
「……とまあ、俺もなんやかんやあったが、今は周囲に注意して生活してるわけだ。もうあんな思いはこりごりだからな」
部屋に入れた後、楓は自分は変わったかのように話す。
どうやらさすがのおっさんも、あんなことがあったからか色々と改めて生活をしているようだ。
「なーに、心配いりませんよ。今度なにかあったら、あたし達が助けますから!」
「おー。優秀な忍者にそう言われると安心感があるな」
「そういう事態にならないのが一番なんだがな。ほんと頼むぞおっさん」
「わーてるって。いやぁ、おっさん。年甲斐もなくマジで恐怖したぜ。あのまま同人誌みたいな展開になってしまうんじゃないかって」
「パイセンが助けに行かなければそうなっていたかもしませんね」
「零の危機察知能力は凄いからねー」
ま、みやの能力がなかったらあそこまで迅速な対応はできなかったんだがな。
楓を助けた後は、本当大変だった。
なにせ外靴に履き替えずにそのまま出ていったからな……もう必死に汚れを落としたよ。
それに腹痛で退席したから、帰ってきた時は皆にめちゃくちゃ心配された。
みやにフォローを頼んだはずだが、いったいどんな伝え方をしたらあれだけ心配されるのか。
「というわけで、実は兄ちゃんに助けてくれたお礼としてプレゼントを渡そうと思ってな」
プレゼントか。
別に欲しくて助けたわけじゃないんだが、くれるっていうならまあ。
「ほい、手を出せ」
「おう」
いったいどんなものをくれるのかと俺は右手を差し出す。
そして、渡されたものは。
「……おい、なんだこれは」
なにやら白い布のようなものだった。
これはまさか。
「喜べ。女子小学生のパンツだ。あ、俺のな」
……まったく、このおっさんは。
どうだ? 嬉しいだろ? と言わんばかりに親指を立てて笑顔を向けてくる。
「きゃっ、パイセンのエッチ!」
「きゃー、ロリコンよー」
そして、この二人の反応である。
「遠慮するな。これは本気で感謝してるからプレゼントするんだ」
「いや、いらんわ」
このおっさんは俺をなんだと思ってるんだ。
「……ははーん、そういうことか。だったらしょうがねぇ」
いったい何を察したのか。
少し気恥ずかしそうな表情で立ち上がり、スカートの中に……っておい!
「何をしようとしているんだ?」
「いや、洗ったものより使用中のものが欲しいのかと思ってな」
「どう考えたらそうなる! 純粋にいらないって言ってんだよ!!」
「まあまあ遠慮するなって。女子小学生の使用中パンツを手に入れることなんてそうはないぞ?」
別に遠慮してるわけじゃねぇっての。
「いいから脱ごうとするな!」
今にも脱ごうとするおっさんを俺は止めに入る。
その細腕をがっちりと掴み拘束しようとした……時だった。
「へい! 今日は焼きプリンのお土産を持ってやってきちゃったぜ!!」
「まさかみやさんと持ってくるものが被ってしまうとは……」
「はあ、やっと地獄の撮影会から抜けられた……」
「おつかれちゃん。……むむ?」
まるでラブコメにありそうなタイミングで、みや達が登場。
もはや自分の家感覚。
障害物が一切ないため、そのまま現在の惨状をロックオン。
人間は、突然のことに思わず体が動かなくなってしまうと言うが、マジで動かなかった。
そう。つまりみや達の視界には、俺が楓のパンツを脱がせようとしている、かのように見えていることだろう。
しかも、先ほど渡されたもう一枚のパンツが俺の足元に落ちている。
「……まあ、誤解しないで欲しいんだが」
数秒の沈黙の後。
俺は、誤解だと説明するためまず手をフリーにする。
「別に俺は女子小学生のパンツを脱がそうとかそういうあれではなくてだな」
いかん。説明しようとすればするほど、マジな感じに聞こえてくるような気が。
「なるほど。そういうことだったんだね」
そこで一番に切り出したのがみやだった。
しかもこの雰囲気……表の方か?
全てを察したような表情で、まず土産の焼きプリンが入ったレジ袋を置き、そのまま自分のスカートの中に手を……って!
「何も理解してないだろ!? そういうことじゃないんだって!!」
「零くんのためだったら、パンツの一枚や二枚!」
「そうです! 私の言ってくだされば、下着の一枚や二枚いつでも!」
「セリルさんも間違ってますから! まず落ち着いてくれ、二人とも!」
このままでは誤解に誤解を重ねて、在らぬ方向に!
そうだ。
かむら……かむらだったらなんとかこの状況を打破できるんじゃ。
「……」
あ、あれ? なんか軽蔑の眼差しが。
無言の圧と共に俺に鋭い眼光が……!
「まあ、零も男の子だもんね」
やめてくれ、そんな生暖かい眼差しを向けないでくれ。
「待ってください皆さん!」
お、おお! ここでなんだかんだで頼れる後輩が。
いつも以上に頼もしい後ろ姿に見える。
「いいですか皆さん。誤解しているようなので、言わせて頂きますが」
そうだ。これは。
「今は下着の見せ合いっこをしているだけなんです!! なのでパイセンが脱いでからにしましょう!」
「なんでそうなるー!!!」
その後、誤解を解くまで小一時間はかかった……。




