第二十六話 後輩ヒートアップ
「これは、大変です。セリルさんだけでも強敵だというのに、やみや先輩まで……でも負けません! 必ず二人の防衛を打ち砕き、パイセンにタッチして見せます! 待っててくださいね!」
いったい俺は何を待つんだろう。
よくわからないが、またあおねが変な方向にヒートアップしているようだ。
そもそも俺を捕まえるのが困難だとわかったなら、他の人のところへ行けばいいと思うんだが……。
「この零くん絶対防衛ラインを突破できるなら突破してみせて、あおちゃん」
俺、どうすればいいんだ?
逃げる?
それともこのまま棒立ち?
「零様。その場から動かないでください。あなた様だけは必ずお守りいたします!」
鬼ごっこをやっているんだけど。
「あ、ところで時間制限とかあるの?」
ふと、表みやがそんなことを呟く。
そういえば制限時間とかそういうのを決めてなかったな。さすがに明日は平日なので、永遠にやり続けるのは無理がある。
「そうですね。さすがに日が完全に落ちたら終わりにしましょう」
「ええ。私達としては、夜でも構わないのですが」
「というわけで」
刹那。
「後ろ!」
「およ?」
表みやが黒いオーラの腕を俺の背後へと伸ばす。
どうやら二人目のあおねが俺の背後から迫っていたようだ。
さすが忍者。
気づかれず、分身して背後からとは。
まあ、それに反応する表みやもすごいけど。
「すみません、本体。あっさり防がれてしまいました」
背後から襲ってきたのは分身のほうだったか。
「むう。せっかく結界を切り裂きつつ素早く強襲したのに」
「まさかこうもあっさり結界を切り裂かれるとは……」
セリルさんもかなり驚いている。
結界を切り裂くか。
表みやは結界を砕いたが、あおねは誰にも気づかれず一瞬のうちに結界を切り裂き、俺へと迫った。
ここねやかむらから強いと言われていたが、その片鱗が見えたような気がする。
「油断していたわけではありませんでしたが、今度はさっきよりも強力な結界を」
「日が暮れるまで耐えれば私達の勝ち。気を抜かないでね聖女さん」
「わかっています。あなたの方こそ、その力……しっかり制御してくださいね」
「しょうがありませんねぇ。今度は分身を増やしてみましょう。とりあえず十五人で!!」
十五人!?
俺が驚くと同時に、あおねの体から青白い光が溢れ出し、それが一瞬にして分身を作り出す。
「さあ、行きますよ」
「了解です!」
「いざいざ!!」
「あおねちゃん部隊突撃だー!!」
「絶対パイセンにタッチするぞー!!」
……最近、こういうのがなかったからなんだか久しぶりだな。
というか、あおねがここまで分身するのを見たのは初めてだ。
軍隊だって壊滅できますよ! とか豪語していたが、これはマジなのかもしれない。
・・・・
「……あの馬鹿。ムキになって」
周囲の木より一回り大きな木の上からかむらはため息を漏らしながら、遠くを見詰めていた。
視線の先には、あおねが分身までして零を捕まえようとしている光景。
それを防いでいるのは、みやとセリル。
鬼ごっこだというのに、壮絶なる戦いを繰り広げている。
「まあいいんじゃない? あおねは楽しそうだし」
ひょこっと顔を出すのはここね。
「とはいえ、他の者達をないがしろにするのはどうかと思うが」
これでは全力で隠れた自分達が馬鹿ではないかと。
「それにしても、十五人になったあおね相手によく戦ってるよね」
「仮にも聖女だからな。だが、出暮みやのほうは……本当になんなんだ?」
「さあ? なんか黒いオーラを自由自在に操ってるってことだけしか」
十五人ものあおねの攻撃をセリルは結界を張り防ぎつつ、みやが黒いオーラを自由自在に動かし払っている。
「あおねは、まだ実力の半分も出していない。まだまだ小手調べと言ったところか」
「そもそもあおねが本気を出せば、色々とやばいからね」
「あおねもそれはわかっているはずだ。これは戦いではなく遊び。少々ヒートアップしているようだが、相手も相手でヒートアップしているから、お互い様、と言ったところか」
とはいえこのままでは永遠に終わりそうにない。
さて、どうしたものかと頭を悩ませていると。
「しまっ!?」
足元からの気配に気づき、かむらとここねは飛び退く。
「また避けられちゃいましたか」
地面に着地し、身構えながら視線を上にやる。
先ほど自分達が居た場所には、二人のあおねが残念そうに立っていた。
「どうやらムキになって目の前だけしか見えなくなっていたわけではなさそうだな」
「当たり前ですよ。あたしは鬼ですからね。全員がターゲットです」
どうやら罠にはめられていたらしい。
派手に動いたのは、油断させるため。
零を捕まえることしか考えていないように見せかけ、分身を何人か森へ解き放っていた。
後僅か反応が遅れていたら呆気なく捕まっていたところだろう。
「油断大敵です。ちなみに、康太さんはもう捕まえて、その場に待機させています。後で皆と合流しましょうと言って」
「そうそう。エルさんも見つけましたが、いやぁやはり強敵です。分身じゃ無理っぽいですかね?」
相手は分身だが、油断はできない。
かむらとここねは、本気の戦に挑む覚悟で対面する。
「さあ、お二人とも! 小さい時の記録を超えてみてください!!」
「本気の鬼ごっこを!!」
「自分達もあれから成長している。そう簡単に捕まるとは思わないことだ」
「今日の私は結構本気」
三人は昔から遊びでも本気だった。
世界を護る者として、己を鍛えるため、遊びの中でも技を磨いていく。
今、成長した三人の本気の鬼ごっこが始まろうとしていた。




