第三十五話 浄化の光を
「ですが、セリルさん」
「これは、私がやらなくちゃならないんです」
あおねの言葉に、セリルさんは決意を示し、一歩前に出る。
俺達が見守る中、両手を前に突きだし、意識を集中させる。
すると、眩く優しき光が集まっていく。
それは、いまだに地面に寝転がっている【欲魔】へと降り注いだ。
「ぐっ……! さ、さすがは聖女。だが! 俺は粘り強い悪魔! このぐらいならば耐えてみせる! そして、堪えれば堪えるほど、この体と精神は傷ついていく!!」
「くっ!」
発言通りの粘り。
セリルさんも負けじと、浄化術を使い続けるが【欲魔】が田辺の体から出ていく様子がない。
「は、はははは!! 見ろ! 俺は堪えている!! このままではこいつが傷つくぞぉ? ほれ! ほれほれ!! もうひとつしか手がないぞぉ? んー?」
冷や汗を流しながら【欲魔】は必死に股間をアピールしてくる。
表情を見る限り、セリルさんもかなり必死だ。
それでも【欲魔】は、浄化されまいと堪えている。
……俺に、俺に何かできないのか?
俺にも浄化の術があるんだ。
せめて、彼女の手助けができれば。
『だったら、零の中にある力を彼女に分け与えれば?』
『そ、そんなことができるのか!?』
そうか。俺自身が、浄化術を扱えないのなら、力をセリルさんに分け与えて浄化術を強化できれば。
『どうすればいいんだ?』
『そうだねぇ。じゃあ、手を繋いで力を送るイメージをすればいけるんとちゃう?』
アドバイスは嬉しいが、ふわっとしてるな……けど、やってみる価値はある。
俺は、キュアレのアドバイスを受け、行動に移す。
「セリルさん」
「は、はい」
隣に立ち、俺は彼女へ手を差し出す。
「手を握ってください。俺の力をあなたに分け与えます」
「なんと!? パイセン、そのようなことができるんですか!?」
「やったことはないけど。なんだか、やれるような気がするんだ」
これまで、俺の体を護ってくれた力。
意識をし始めてから、なんだかやれると思っている。
皆の視線が集中する中、セリルさんは俺の目をじっと見詰め、静かに左手を差し出す。
俺はそれをぎゅっと握り締め、意識を集中させる。
イメージするんだ。
俺の中にある魔を祓う光を、セリルさんに譲渡するんだ。
最初の数秒は、何も起こらなかった。
だが、何かが沸いてくる。
これが……よし、これを握っている手から流れるように。
「……これが、零様のお力」
どうやら成功したようで、セリルさんは声を漏らす。
どこか幸せそうな、それでいて力強い。
目を開けると、俺達の体は優しき光に包まれていた。
「セリルさん」
「はい」
また視線が合う。
先ほどの苦しさはなくなり、穏やかな表情で笑みを浮かべている。
「き、貴様らぁ!! 何を微笑み合ってる!! 俺のセリルと手を繋ぎやがってぇ!!!」
あっちの精神は大分不安定のようだ。【欲魔】かと思えば、田辺の意識が出てくる。
能力で確認すると、名前がかなり乱れている。
このままではまずい。精神が壊れるかもしれない。
「さあ、この眩き浄化の光で……魔を祓います!!!」
セリルさんの叫びに呼応するかのように、右手に集まっていた光はより大きくなる。
それは一瞬の出来事。
弾けた光によって、暗闇に包まれていた空間が明るく照らされた。
「ぐあああ!? な、なんだこの光はぁ!? 先ほどの光とは比べ物にならないぐらいの……アアアアアアアッ!!!」
苦しそうにもがく【欲魔】の姿に、精神的なダメージはないかと心配するが、徐々に静まっていく。
よく見ると、まるで死人かと思うほどくすんだ肌が、精気を取り戻したかのように綺麗になっていた。
「浄化は、終わったのか?」
「……はい。無事に【欲魔】を祓うことができました」
よかった……ちゃんとできて。
ほっと胸を撫で下ろすと、セリルさんが握っていた手に力が入る。
「ありがとうございます、零様。あなた様のおかげで、無事浄化することができました」
「いえ、俺はただ力を分け与えただけですから」
「ふふ……あなた様の光に包まれた時、心が温かくなって、何でもできるような気持ちになったんです。それと同時に」
なんだろう? と顔を覗く。
「なんだか、あなた様とひ、ひとつになったかのような感覚に……!」
「え?」
ここまでの真面目な空気が一気に破壊される。
本当に、美しき聖女様という雰囲気だったセリルさんの表情は、とてもだらしなく、頬が緩んでいた。
「も、もうこれは実質、零様のものになってしまったのではないでしょうか!? いえ! なりました!!」
懐かしき興奮状態のセリルさん。
聖女様とは思えないほど口から涎を垂らしながら、俺の手を両手でぎゅっと包み込む。
「つきましては、今後の未来について二人っきりでお話を」
「いや、ちょっ!」
久しぶりの暴走に、俺は圧される。
「待てぇ!!!」
みやの声がしたと思えば、体が巨大な黒い手で掴まれ、セリルさんから無理矢理引き剥がされる。
「零くんは渡さない。この変態聖女!!」
「ふふ。あなたにだけは変態と言われたくないですわ」
「おぉ! 【欲魔】との戦いはまさかの前哨戦! ここからが、本の気なバトルが!!」
「始めなくていい!!」
たく……絞まらないなぁ。
『シリアスよりはいいんじゃない?』
そうかもしれないけど。
「この際だから言いますが、あなたの力は零様に悪影響を及ぼしかねません。零様は、いつも神々しき光に包まれたお方でなければならないのです」
別に、俺は崇められるような存在じゃないんだが。
「悪影響? それはこっちの台詞なんだけど。あなたのような変態が側に居たら、零くんが汚されちゃう!!」
みやよ。
これまでの行動を考えると、お前も大分変態だと思うんだが。
「あらあら? それ、完全にブーメランですよ?」
くすっと笑うセリルさんの隣で、いつの間にか集合していたエルさんが、光るプラカードに特大ブーメランが二つ刺さってるぜ? と書いていた。
ちなみに、エルさんは俺達が【欲魔】と対峙している間、周囲の警戒をしてもらっていた。もしかしたら、何か不確定なことが起こるかもしれないと思ったからだ。まあ、その心配はなかったようだが。
「それにしても、今回は自分達の出番はなかったな」
「まあ、相手が相手だし。適材適所だね」
「さあ、ヒートアップしてきました! 闇の幼馴染VS光の聖女! いったいどんな戦いを繰り広げるのでしょうか!?」
お前ら! 少しは止めようって気はないのか!?
俺もなんとかしたいんだが、なんだろう……急に体へ脱力感が……まさか慣れないことをしたからか?
くそ、せめて口だけでも動けば……あ、やば……意識がもう……。
そんなこんなで次回エピローグです。




