第三十三話 接触せし欲望の悪魔
「たーまやー!!」
「それ、実際に言うところ初めて見たな」
「あたしも! たーまにゃー!!」
「猫になってるぞ」
宗英さんとみなやさんが遅れてやってきてからしばらく。
俺達は、今回のメインイベントとなる花火を見ていた。
色鮮やか。
それで居て、様々な形をした火の花が空に咲き乱れている。
「美しいですね」
俺の左隣で、セリルさんはぼそっと呟く。
そういうセリルさんも、美しいなんてキザな言葉が出てきそうだったが、俺は飲み込んだ。
今は、空に咲く、火の花を見るのに集中しよう。
「なんだか、こうして花火がうち上がっているのを見ていると、あー夏が終わるなぁって思っちまうよな」
なんとなくわかるな、それ。
人によっては始まったと思うだろうが。
「何を言っているのですか、康太先輩。夏はまだまだこれからです。気分的に九月までは夏ですよ!」
「一般的には秋だけどな」
「でも、去年の九月は結構暑かったよねー」
ふいー、と額の汗を拭う素振りで語るみや。
そういえば、そうだったかもな。
そもそも四月に雪が降った、なんてところもあるって聞くし。
自然には、一般常識なんて関係無いと言わんばかりだ。
「秋……焼きいも食べたくなった」
「ま、まだ食べれるんだね、ここねちゃん」
というか、もう秋に食べるものに目移りしているのか。
「お! あれが最後の花火ですね!」
「ほう。最後らしく、怒涛の打ち上げだな」
そろそろ花火も終わる。
最後となるのは、息をするのも忘れるぐらい怒涛の連続打ち上げ。
客達は、その打ち上げに歓声を上げている。
こうして、夏祭りも終わりに近づいていく。
辺りもすっかり暗くなった。
さっさと帰宅していく者達や、その場に残り余韻に浸っている者達。
俺達は、後者だ。
楽しそうに喋りながら帰宅していく者達を見詰めながら、余韻に浸っている。
「くー! なんとかオールコンプリートできました!」
「まさか本当にコンプリートするとはな」
来た時は萎んでいたバッグも結構なほどに膨らんでいた。
あおねは、それを背負ったまま軽く叩き、にししと笑っている。
「私も、屋台の食べ物全て食べた。満足」
「ここねちゃんの胃袋どうなってんだ? 二次元じゃあるまいし……」
二次元なんだよなぁ。
「ようやく終わったか。まあ、そこそこ楽しめたな」
「おやおや? かむらちゃんや。素直ですね」
「別に自分は、本当のことを言ったまでだ」
「焼き鳥美味しそうに食べていたよね」
そういえばそうだったな。それにタレばかりを食べていたと記憶している。
「っと、悪い。俺、先に帰るわ」
スマホを操作していた康太は、俺達に一言残し立ち去ろうとする。
「なにか用事か?」
「まあ、そんな感じだ。今日は楽しかったぜ! んじゃな!!」
こんな時間から用事か。
そういえば、夏になってから康太は、付き合いが悪くなったような。
もしかして、と思い能力を使おうとした時だった。
「あ、先輩先輩。ちょっと」
あおねにぐいっと引っ張られる。
それにより能力を使えず、康太は完全に姿を消した。
……まあ、後でいいか。
「どうしたんだ?」
「あそこ、見てください」
あおねが指差す方向に視線をやると、こちらをじっと見詰める男が居た。ぼさぼさとした黒髪に、猫背。
そう、セリルさんのストーカーだ。
「なんだかこっちをじっと見てるのだが?」
みやも気づき、気味悪そうに耳打ちをする。
セリルさんも、気づいていたようで表情を強ばらせていた。
さて、もし俺の予想通りあの男が、最近話題になっている奴だとしたら……ビンゴ。
能力を使い、男を見ると一般人とは思えない項目が表示されていた。名前は、田辺一郎。歳は二十五歳。
そして……【欲魔】に憑依されている。
名前の上にふりがなかのように【欲魔】と表示されている。
「あっ、お母さんからだ。えっと、皆。ちょっと電話してくるね」
「あ、はい。ごゆっくりどうぞ」
田辺に気づいていない白峰先輩は、母親からの電話に出るために俺達から離れていく。
さて、白峰先輩以外はとっくに気づいている。
普通なら、このまま気づかないふりをして帰るところだが。
「で? どうなのかね、幼馴染くん。能力で、見たんでしょ?」
「……ああ。あの男、あおね達が言っていた憑依型の【欲魔】を体に宿してる」
「ほう。自分達に気配を感じとらせないということは、それだけ上位の【欲魔】ということか」
「どうする? 殺る?」
楽しいままで帰りたかったのだろう。ここねが、珍しく殺気だっている。
だが、待て。
まだ確認しなくちゃならないことがある。
相手の目的だ。いや、セリルさんが狙いなんだろうが……もっと詳しい内容を知っておきたい。
となれば、あの力で。
俺は、以前セリルさんに使った相手の過去を見る力を田辺に使った。
一番新しい項目……。
「……なるほど、そういうことか」
相手の過去を見終わると、体にだるさが襲い少しふらつく。
「だ、大丈夫ですか? 零様」
「なんだか顔色が悪いみたいだけど」
そんな俺を、みやとセリルさんが支えてくれた。
刹那。
明らかの殺意がこちらへと向けられる。当然、その殺意を向けているのは田辺だ。
「セリルさん。ちょっと良いですか?」
と、視線を送り俺は考えた作戦を伝えた。
当然、他のメンバーにも。
皆は、静かに頷く。
「じゃあ、私はもう帰るわ。皆も、あまり遅くならないうちに帰るのよ? エルも、お兄さんに迷惑かけないようにね?」
そう言って、セリルさんはエルさんを俺に預け、一人で去っていく。
それを見た田辺は、チャンスと思ったのか。
静かに、人混みに紛れながらセリルさんの後を追っていく。
「お待たせ。なんだか、お母さんが迎えに来てるみたいで。よかったら、皆も……あれ? セリルさんは?」
それと入れ違うように電話を終えた白峰先輩が戻ってくる。
「用事があるとかで、先に帰っていきましたよ」
そう説明すると、当然エルさんへと視線をやる。
「でも、エルちゃんがここに」
「エルちゃん、先輩のところで預かることになったんですよ! もう、エルちゃんってば先輩にめちゃくちゃなついちゃって!」
「零くんのところに? だったら、安心だね」
普通なら、一人暮らしの男のところにいたいけな女の子を泊まらせるなんてことを聞いたら反論するところなんだろうが。
先輩……そこまで俺のことを信頼してくれているんですね。その笑顔が、眩しいです……。
「それで、さっきの提案ですけど。すみません。俺達まだ用事があるので」
「そ、そっか。なら、しょうがないね。じゃあ、僕は先に帰るけど。危ないことだけはしちゃだめだよ?」
「はい。大丈夫です」
……相手の出方次第では、危険なことをするかもしれませんが。




