048 ジュリオはジュリア
「僕の本当の名前はジュリア・ペスターレ。もうバレちゃったからアレだけど、女です」
「本当にすまんかった。なんで男子寮に女子がいるのかという不思議を追及してもーたんじゃ」
「今までも何度か不思議に思われたことはあったけど、あそこまで乱暴に来たのはキミが初めてだよ!」
これはどうにも儂の悪い癖な気がする。
だって男子しかいないはずの男子寮に女子が男子のフリしてると思わないじゃないか。
ジュリアは乱れた服装を直し、ベッドの上に座る。
「僕は理由があって男性のフリをしているんだ。この件は……黙っていて欲しい」
「まぁ儂は3週間しかおらんし、ばらすようなマネはせんよ」
「ありがとう。でも理由は話しておいた方がよさそうだね」
儂も椅子に座り、ジュリアは身の上話をし始めた。
「ペスターレ家は王国の男爵家なんだ。昔は領地もあるくらい大きな家だったんだけど父の代で没落しちゃって正直貴族というのは名ばかりになっているんだ」
貴族といっても上から下まである。シャルーンやその友人であるファリナは上級貴族であるが、下級貴族であるジュリアの家は恐らく平民とさほど変わらないと思われる。
貴族の上下関係はどこの時代もどこの国でもあった。それこそ200年以上前からな。
「でも僕はこのペスターレ家をかつてのように再興させたいと思っている。僕は次期当主として王立学園にいる間に学園の有力者と知り合い、学業褒賞を得て卒業したいんだ」
学業褒賞。言えば優秀な生徒に授与される名誉みたいなものか。
パンフレットに書いてあったな。学業優秀者と特別活動で学園の名誉を挙げた者に与えられると。
褒賞を得れば家の格が上がる。貴族の生徒達が頑張る理由の一つじゃな。
「それは女子のままでは駄目なのか」
「残念ながらこの学園で女子で褒賞を受けるには社交ダンスの華麗さや身なりの美しさを要求されるんだ。そういった名誉は金に物を言わせた上級貴族が独占してしまう。ここ10年、下級貴族出身で女性で学業褒賞得たものはわずかしかいない」
王国では女性は美を求めている傾向にある。
シャルーンのような飛び抜けた逸材でもない限り、貴族の女は社交場で頑張れという傾向が強い。
もったいないものじゃがな。
「だけど男子は違う。女子に比べて実力で学業褒賞を得やすいんだ。だから努力次第で下級貴族でも褒賞を得て、卒業後に家が上級貴族と同じ扱いになった先輩がいたんだよ」
「だからおぬしは男子として入学したのか」
「剣術と魔法には元々自信があったからね。学業だけじゃなくて特別活動でも学業褒賞を目指してる」
ジュリアは強い意志を示した。
「それで上手くいきそうなのか?」
だがその質問にジュリアは俯く。
「正直難しいよ。やっぱり体格差があるし、選りすぐりの生徒が集まる学校だから僕の細腕ではどうやっても勝ち目のない相手も多い。今度学園祭で決闘会という催しがあるんだ」
その話、どこかで聞いたことあったな。
「それで優勝したら学業褒賞と一緒に第二王女のシャルーン殿下の婚約者候補になれるんだ。姫殿下の婚約者候補になればペスターレ家を上級貴族にすることも夢ではないんだ」
成り上がるための手段ということか。だけどジュリアはため息をつく。
「でも多分無理だろうね。剣術や魔術に覚えのある同級生だけでなく上級生も出るから正直万に一つも勝ち目が見えないんだ」
あの花婿争奪戦にはそのような意図もあったのか。
今のジュリアを見ているとまず無理じゃだろうな。だが……3週間あればできるかもしれん。
そしてこれなら全員が上手くいく選択肢が取れるかもしれん。
ジュリアに利を、シャルーンにも利を、そして儂も義理を果たすことはできる。
「ジュリアよ。おぬしに失礼なことをした借りを返させてもらおう」
「へ?」
◇◇◇
「そんなわけでシャルーン。例の決闘会にこやつを参加させ優勝させたい」
夜、晩ご飯を一緒にってことでシャルーンと合流したわけじゃが。
先の話もしたかったのでジュリア……じゃなくてジュリオを付き合わせた。
「ルームメイトともう仲良くなったのはいいけど……何言ってるのよ」
「ひ、ひ、姫殿下。クロス、キミは姫殿下と親しい仲なのかい?」
「どうじゃ。儂はジュリオをおぬしの婚約者候補にしたら良いと思うんじゃが」
シャルーンははぁっとため息をつく。
「あなたは確か男爵家のペスターレ家の子よね」
「は、はい! まさか姫殿下に知られているなんて……」
「同じクラスの子は全部覚えてるわ。それでなんでこの子を選んだの? 顔はいいけど、その細腕じゃ決闘会はとても勝てないわよ。そもそもさっき言ったとおり乗り気じゃないし、誰か以外に好かれても正直困るって言うか」
なぜか儂の顔をチラチラ見るがまぁええわい。
「その話、女子が優勝するなら良いのではないか?」
「え」
その言葉にシャルーンもジュリオも不思議そうに反応する。
儂はジュリオに胸に手をやり、制服の上から指を動かす。
ジュリオは過敏に反応する。
「ひゃぁんっ!」
「こやつ、実は女なんじゃよ」
「ほんと? どれ」
「やんっ! ちょ、姫殿下まで」
シャルーンがもう一方の胸に手を触れる。
二人でしっかりと指を動かし、ジュリオが男ではなく女の子であることを認識させる。
「ほんとだ……」
ジュリオが性別を偽った経緯を話し、今後の方針をシャルーンに伝える。
「ジュリオを決闘会で優勝させ、おぬしの婚約者候補とさせる。じゃがその正体は女の子である」
「なるほど。私が王族である以上女の子と結婚はできないから婚約破棄もたやすい。カモフラージュにはもってこいよね」
「ジュリオは家を再興させたい。王家と関係が深くなることを望んでおるからおぬしと婚約者関係になる利点は大きい」
「いい考えじゃない! うん、それなら私も受け入れるわ。この子を優勝させて私の婚約者候補にしましょう」
「あ、あの……胸を揉みながら話すのら、らめぇ……ああっ!」
よくある貴族設定だと結構問題になりそうな話ですが、この国はシャルーン王女の権力が強いのでだいたいのことはもみ消せます。そんなイメージでこの先もお読み下さい。
貴族関係の頭脳戦を書く物語でもないので脳をカラッポにしてお読み下さいませ。





