046 トロフィー
「断る」
「分かってたけどはっきり断られるのは傷つくわね」
「クロスさん、身分関係なく姫様の婚約者候補になれるのかもしれませんのよ。クロスさんは最上級のトロフィーを欲しくありませんの?」
「私をトロフィー扱いするのやめて欲しいんだけど……」
ジト目で睨むシャルーンに対し、ファリナはやんわりと口を噤んだ。
「儂が出るの反則じゃろう。あくまで短期入学なわけだし横槍感が強い。おぬしが脅されて止む無く優勝賞品になってるとかであれば話は別だが」
「嫌なのは嫌なんだけど……都合があってね」
正直シャルーンがそんなふざけた優勝賞品になることを簡単に引き受けるとは思っていなかった。
何か理由がある。でもそこまで真剣な話ではないと思っている。
「私、何だかんだ王女なのよね」
「儂もおぬしが王女ではないのでは? って思う時があるぞ。騎士というのは納得じゃが」
「成人前から騎士団に押し掛けて各地を旅したから。野営とかも経験してるし、虫も食べたことあるのよ」
なるほど、シャルーンの言葉遣いに奔放さがあるのはそういう所があるのか。
淑女としての教育の時間を剣に使った影響なのかもしれんな。
「クロスさん、王国の名誉として言わせて頂きますが王女としての姫様はそれは美しいのですよ。社交場での振る舞いも完璧で……騎士としての姫様だけで判断をしてもらっては困りますわ」
「ああ、分かっておるよ。シャルーンは王女としても騎士としても、どちらも魅力を兼ね備えていて、理想的に美しい」
「……」
「ひ、姫様が真っ赤になって口から何か出てます!」
「もう脱線はええからはよ理由を話すんじゃ」
「そこまで魅力的だと分かっていながら見惚れない理由が分かりませんわ」
だって15才なんて儂からすれば乳幼児と変わらんぞ。さすがに成人した以上は違うか。
それでも幼児感覚じゃな。可愛いし魅力的だとは思っていても恋愛感情など浮かぶはずもない。
しかし、何だかシャルーンの友人二人の理解を深めてしまったような気がする。
シャルーンは大きく深呼吸をして、続きを話し始めた。
「ごほん。私、成人したこともあってそろそろ婚約者を決めろって言われてるの。でも自分より強い男性じゃないと結婚したくないってお父様やお兄様にごねてるんだけど、永遠にごねられないのは私も分かってるの」
「それで学園祭の件が繋がるのか」
「だから決闘会で学園で一番強い男子を決めて、私の花婿候補の一人とすることに決まったのよ。本当は嫌なんだけどね」
今のシャルーンは王国最強の才女。今のままだと決まりそうにないから候補を決めて外堀を埋めておこうって話じゃろうな。
優勝者が釣り合うならなお良し。釣り合わないなら候補のまま終わらせてもいい。そんなところじゃろう。
「クロスが優勝してくれるなら……ちょっとお父様に武力でごり押し。ううん何でもない」
「今、とんでもないこと言わんかったか」
王女が絶大な力を持つと国王すらも動かしかねんのだな。
さすがにそれは冗談だとは思うが。
「……でもすっぱり断られるのははやっぱり傷つくなぁ」
シャルーンは少し落ち込んだように俯く。
孫ほど年下の子にそういう顔されると胸に来る。仕方あるまい。
「もし参加者が全員……おぬしに相応しくないものしかおらんかったら出てやる」
「クロス!」
「それで勘弁してくれい」
「うん、ありがとっ」
あっと言う間に笑顔を見せおって……。あの表情は嘘だったんじゃないかと思うばかりじゃ。 やはり儂が参加するわけにはいかぬゆえ、相応しそうな奴を探した方が良いかもしれぬ。
シャルーンが空を見上げ……学園内に大きくそびえ立つ時計台に目を寄せた。
「あ、やばっ! 用事あるの忘れてた。私、ちょっと行くね。あ、クロスはとりあえず今日から寮生活だから男子寮で部屋を確認して。あなたにもルームメイトがいるはずだから」
学生服と一緒に書類を受け取っていたな。
今日から二週間、男子寮の一室で寝泊まりすることになっている。
「夜、一緒にカフェでご飯食べよ! 後でね」
シャルーンは大急ぎで校舎へ走って行った。慌ただしい娘じゃのう。
「本当に姫様に信頼されてますのね」
「はい。異性の男性にあんなに穏やかな表情を見せる姫様を初めて見た気がします」
「そうなのか」
シャルーンの友人である二人は頷く。
「あの美貌と実力ですからね。他国の王子や権力者など取り入ろうとするものも多いのです。でも王女ゆえに万人に等しく接しなければなりません。だから本当の心は特定の人にしか見せないのです」
「王族特有の悩みというわけじゃな」
「だから……姫様の従者として、友人としてお願いします。姫様を、私達の大好きなシャルーン様を一緒に支えて頂けないでしょうか」
「もちろん、シャルーンは儂にとっても特別な友人じゃから当然じゃよ」
本当に友人想いの子達じゃな。そういう話であれば大歓迎じゃ。
儂もそんな友を得てみたいものじゃな。





