045 仲良しこよし
シャルーンがびくっと反応し、慌てて離れてようやく解放される。
ずっと握られていたから指が固まっておるんじゃが。
現れたのはシャルーンと同じ制服に身を包んだ二人の娘っ子。
一人は肉付きが良く、紫の髪を長くウェーブに靡かせた高貴な雰囲気の娘っ子。
もう一人は栗髪の髪が印象的で小柄で体格も小さい、気の弱そうな娘っ子だった。
「ファリナ、メール。どうしてここに」
「あの……、姫様が男性と一緒にいると噂になってて」
「隣の殿方が姫様がおっしゃてたお手伝いの方ですのね。でもうかつですわ。殿方の肩に寄りかかってる所を誰かに見られたら王宮で問題になりますわよ」
「ううっ、分かってるわよ」
まぁやんごとなき身分なシャルーンが夫でもない男と一緒にいるのは都合が悪いという話じゃな。
儂としてはなんとも思ってないが。
「はぁ……幸せな時間だったのに」
シャルーンは頭を抱え、ため息をつく。そのまま立ち上がり、二人の娘っ子の方に行く。
「クロス、紹介するわ。この二人が私の学園での友人よ」
「ファリナ・エスメデスと申します。エスメデス家の者で姫様とは懇意にさせて頂いておりますわ」
ファリナは高位の貴族令嬢のようだ。肌の艶もよく、気品がある。
制服もしっかり着こなしており、非常に美しい女子生徒だと言えるだろう。
「えっと……私はメール・ミナスと言います。姫様のお世話係をさせて頂いているメイドの一人です。同い年なので学業と日常のお世話をさせて頂いています」
メールはおそらく侍女ってところか。
シャルーンが第二王女なら侍女を側に置くのは当然といえる。
ファリナがじっと儂を見てくる。
「クロスさんのお噂は姫様からよくお聞きしておりますわ。姫様が男性にお熱になる日が来るんですもの。友人であるわたくし達も気が気でなりませんわ」
「お熱?」
「ファリナ、変な言い方しないで! あなたのことはその……剣の腕とかそういう所で好意的に思っていて」
「毎週クロスさんに会いに行ってますよね。髪型とか服装とか凄くこだわっていて本当に楽しそうですから」
「メールも余計なこと言わないで。く、クロス、違うからねっ! 気合い入れて毎回髪型とか髪飾りとか変えてるのはその深い意味は!」
うむ、まったく気づかなかったな。
200年生きたジジイの儂が15歳女子のおしゃれの変化
など分かるはずもなかろう。
ただ思うことは一つ。
「おぬし達は強い友情で結ばれておるようじゃのう」
シャルーンは友に恵まれている。そこはよく分かった。
軽口を言い合える仲。前世の儂にはまったくなかったものじゃ。
「当然ですわ。幼少の頃から姫様とはお付き合いがあるのですから」
「はい! 一生お仕えするつもりです」
二人の言葉にシャルーンは感激し、嬉しそうに顔を綻ばせる。
「でもわたくしは……」
ファリナがいきなりシャルーンの後ろから抱きついた。
「姫様とそれ以上の関係になってもいいと思っていますわよ」
「ちょ、……こらっ! どこ触ってるの! クロスの前で……あぁん」
ファリナが後ろから豊かなシャルーンの胸部に触れていく。
女子なりのコミュニティという奴か。
そのままファリナは胸から手を外し、シャルーンの脇腹あたりを揉み揉みし始めた。
「ひゃっはははっ。やぁん!」
シャルーンは敏感に反応し、へたり込んでしまう。そのままファリナは手を上に持っていき、腋あたりをぐりぐりと攻める。
「そ、そこは駄目だから! きゃはははっ、やだぁ!」
「ふふふ、ここがカワイイ姫様の弱点ですわ。ああ、笑い悶えている姫様……カワイイ」
「分かります。ご飯は3杯はいけますよね」
「メールも見てないで助けなさい! ちょ! ゆ、指をそんなに動かさないで! きゃはははっ、参った、参ったからあ!」
「スキンシップもほどほどにするんじゃぞー」
「乱れた姫様を見てそのご様子とは……なかなかやりますわね」
孫世代の痴態などに興味はないからな。
「はぁ……はぁ……」
ようやく解放され、シャルーンは涙目で大きく息を切らしていた。
「幾多の男を寄せ付けない王国最強の姫様がわたくしの手で参ったと屈服するんですのよ。この反応がほんとたまりませんの……。心の陰茎が勃起しそうですわ」
なんつーこと言うじゃこの娘っ子は。さすがの儂もフォローできん。
今時の若者は……。これが貴族令嬢というものなのかもしれん。
シャルーンは腋を締めて、涙目で距離を取る。
「ファリナっ! もう」
「姫様のカワイイところをもっとクロスさんに見せつけてあげなきゃいけませんから」
「そ、そんなことしなくていいから!」
こんなやりとりも日常茶飯事なんだじゃろう。
「姫様……やっぱり可愛すぎる。しゅきっ」
メールが鼻血を出してうっとりとした視線を向けていた。
こうなってくると少し歪んだ関係なんじゃないかって思えてくる。まぁええわい。
「それでそろそろ依頼内容を教えてはもらえぬか。学校に着いたら教えてくれると聞いて……待っておるのじゃが」
「ああ、ごめんなさい。もう、二人が横槍入れるせいよ」
シャルーンが再び、ベンチに座って儂の隣に来る。
「今から3週間後に王立学園祭があるの」
「王立学園祭?」
「うん! 1年に1回、生徒主導で開かれる学園一の大イベントね」
「ああ、どこかで聞いたことがあるのう。王都中から人が集まるお祭りだとか」
「王族が視察に来られるほどの一大イベントですわ。学園内でも力の入れようが違いますわね」
「予算の桁が違うと言われてますからね」
そういうのにはご無沙汰だったからあまりピンと来ないが、女子達が楽しそうに語る所を見ると期待しているように感じる。
前世のジジイ時代では絶対に関わることのないイベントだったじゃろう。
「うん、その手伝いをクロスとスティラにお願いしたいの。とにかく人が足りてなくて、学園内は名家の御曹司や令嬢も多いから適当な人を入れるのはまずくて」
助けるために呼んだのに事件になったら本末転倒じゃからのう。
それでシャルーンにとって見知ってる儂とスティラに白羽の矢が立ったということか。
「仕事として来ておるんじゃ。何でも使ってくれて良いぞ」
「詳しい内容はスティラが来てから話すわ。お仕事も大事だけど、学校も楽しんで欲しいから」
「そうじゃな。これはシャルーンが推薦状を書いてくれたおかげじゃな」
手伝いだけであれば夕方から行けば良いが、シャルーンは3週間の短期入学の推薦状を書いてくれていた。
おかげで期間内で学園全ての施設を使うことができ、儂としても通ってみたかった学園生活を送ることができる。
「明日からの授業が楽しみじゃよ」
「うん、私もあなたと一緒に学園生活を送れるのが楽しみよ」
「ふっ、やはりおぬしはそんな風に笑ってる所がたまらなく可愛いな」
「ひゃっ! も、もう」
シャルーンは頬を赤くして照れてしまう。
子供は笑顔に限ると言うもんじゃ。やはり子供は人類の宝じゃな。何しても可愛い。
「あらあら熱々ですわね。では姫様。せっかくですし、あの件をクロスさんにお頼みしてはいかがでしょう」
「あの件?」
「う、うん。もうちょっと先に話そうと思ってたんだけど。学園祭の催しの一つにね。男子だけが参加できる武術を競う決闘会ってのがあるの」
腕試しという奴か。学園最強の男子を決めるとは力が入りそうじゃのう。
「えっとね。その優勝商品が私なの」
「は?」
「つまり、1位はホルダーという称号を得て、私の婚約者候補になる権利を得ることできる」
「ほぉ」
「つまり」
シャルーンはにこりと笑った。
「クロス。優勝して私の花婿になってくんない?」





